蒼き星のための翼たちリターンズ〜強制帰還〜
用語、数値等、全て作者によるフィクションです。
よろしくお願い致します。
武 頼庵 様『みずに纏わる物語企画』参加作品になります。
西暦886xx年────
"最高宇宙戦闘船ラスター"は宇宙空間を漂い、新たな任務を再び果たそうとしていた。
目的の惑星が──自分達の住む蒼き星と重力・気圧がほぼ同じだと測定されると、宇宙船ラスターは着陸した。
最新設備の船はAIの判断で
"これより船内は日常生活モードに切り替わります。水の使用、電磁誘導加熱調理、自室での家族との通話が可能になります"
というアナウンスを繰り返した。
長く宇宙を旅する船員達には束の間のストレス軽減である。
翌日には 任務が始まる。
★
『────おめでとう。特別戦闘船員達。
あなた達の辿り着いた辺境惑星MX701は確かに"蒼き星"と酷似してる。移住可能かもしれない。
あとはサンプルを採取して。心からあなた方の帰還をお待ちしているわ』
機関室中央テーブルの上の空間と運転席上部のフロントフィールドに浮かび上がっていた司令室参謀補佐のニナ・モルドナ・ジーセン少佐の姿は消えた。
瞬時に5人の乗組員は立ち上がる────
「サンプルは大気と水と植物と──いれば生物だったよな? 大気はチョロいから実質3種類か」
金髪のライオネル・ハンズ准尉が他の4人に問う。
「最低3種類ってことだ。
場所を変えた水場や品種別の植物も採取する。つまりは1日がかりになるぞ」
黒髪に肌が小麦色のドーザー・ミストン少尉が答える。
「大気の成分条件はオールクリアなんでしょう!? 防護服無しで地上を歩き回れるなんて私は大歓迎よ。あちこちに行くで文句無しだわ」
ユリナ・キーパス軍曹は、長いウェーブのかかった黒髪を揺らして 少し興奮気味で言っている。
向かいにいた眼鏡のロパ・ビルドマンド中尉も口を開いた。
「宇宙用防護服はいらなくても作業着は着用だユリナ。装備も忘れるなよ」
そう言いながらも副船長のロパの頬も緩みがちだ。
4度の宇宙空間転移と9ヶ月近い船内生活の後では、熟練船員達もどうしても気分が高揚してしまう。
────だが、灰色の冷たい瞳をした男の声が響いた。
「これはオレ達の任務だ。────ピクニックじゃない。未知の惑星にどんな危険が待っているかは分からない。気を引き締めろ」
船長であるゼイン・マクファーレン大尉だった。
そして指揮官でもある彼は言った。
「行くぞ」
全員一斉に準備に取り掛かりだした──
★
朝の緊張をよそに、サンプル収集作業は問題無く行われた。
この惑星はジャングルのような緑豊かな星だ。生き物は大きな個体は見る限りは確認されず、小型の虫のようなものばかりだ。
サンプルは明るいうちに種類も数もそろえることができた。任務は完了。
船員達が笑い合いながら冗談を飛ばして船内に戻る中、船長のゼインは浮かない表情だった。
彼は機関室に入るとすぐにロパに命じた。
「ロパ、司令室と繋いでニナと話せるようにしてくれ。非公式で」
その顔と言葉にロパも真剣な顔になる。
彼は回線を開いて司令部のニナを呼び出してもらった。
ニナの姿が──今回はフロントフィールドだけに映された。
『ハイ、ゼイン大尉。幼馴染みとは言え、もう少し敬意を払ってくれないかしら? 私はあなたの上官で今は自宅なんだけれど』
ライトグリーンの瞳のニナは今は軍服ではなく白のタンクトップ姿だった。滑かな肌が あらわで、すっぴんだ。いつもよりも幼く愛らしく見える。
動じることなくゼインは、率直にただ尋ねた。
「オレ達の今回の"ジャンル"は何だ?」
ゼインの後ろの全員が硬まる。ロパがやっとのことで
「……船長、それを聞いては……」
と小さく言った。だがゼインは引き下がらない。
「オレ達は前回一杯食わされた。今回も何かがおかしい。……話がおとなしすぎる気がする。
ニナ、オレ達は一体何ジャンルに投げ入れられている?」
ニナは緑の瞳を細めて沈黙していたが、ゼインの視線も揺るがない。やがて彼女は観念したかのように息を吐き────
『パニック ジャンルよ』
と真実を告げた。
「何だって?」
瞬時に全員の顔色が変わる。
「まっとうな宇宙や空想科学にはならないとは予想していたが、ホラーやコメディでもなくて……よりにもよってパニックだって?」
ロパは眼鏡をかけ直しながら言った。
「やだ。未開の辺境惑星でパニックって──嫌な設定よ。絶対このままじゃ終わらないヤツよ」
ユリナは寒気を覚えるかのように腕をさすっている。
「なぁ……オレ、ヤバいかもしれない……」
屈強な体型のドーザーが 蒼白になりながら呟く。
「オレ、オレ……水質サンプルをとる時に器具を突っ込んだら顔に水が跳ねてきたんだ。──舐めちまった……」
全員が言葉を失い ドーザーに視線が集まる。
「くそっ、オレはコイツを捕まえた時に刺された。……ちくしょう、オレの方が厄介かもしれない」
ライオネルは小さな小さな蚊のような虫の入った収集ケースを振った。
沈黙が広がる────
完全に良くない流れだ
密室の宇宙船
未知の水分
未知の生物
そして
飲んでしまった乗組員
刺されしまった乗組員
ジャンルは パニック────
ゼインは難しい判断を迫られた。
以前は酷い規模で仕掛けられた。パニックジャンルでは何が始まるか予測不可能だ。
それでも──
「ライオネル、ドーザー、隔離室行きを命じる。
ロパはとらえた生き物サンプルを外にオレと放しに行こう。船内に持ちこむのは危険すぎる」
ゼインの決定を聞くなり、ユリナが口を開く。
「やることが無いなら、私にはシャワーを浴びさせて。
収集作業中に草木に分け入ったの。何だか全身に何かがついている気がする」
言った彼女は泣きそうだった。ゼインは黙ってうなずいた。世帯持ちのドーザーは
「隔離室に入る前に家族と通話したい。頼む」
と言った。これもゼインは了承した。
ロパが眼鏡の下の涙とも汗とも言えないものを拭っている。
自分達はこれからどうなってしまうのか……………
★
ゼインとロパは8種の生物サンプルのケースを持って外部に通じる扉に認証コードを入力した。
開いた扉から外に出て 船から少し離れたところで虫をケースから放した。
空いたサンプルケースの箱を持っていたロパは、船に戻るタラップを上がるとき
「わわっ!!!」
と大きな声をあげて体勢を崩した。
しかし明らかに何事も無かったのでゼインが
「どうした?」
と尋ねると
「いやぁ、もう一段あるとばかりに足を出したら無かったんですよ。箱のせいで下が見れなかったもんで。パニくりましたよ」
恥ずかしいようで、顔を赤らめながらロパは足早に船内に戻っていった。
後ろを歩きながらゼインはロパの言葉を反芻する。
"パニくりましたよ"…………?
すると船内から
「キャ──────!!」
という甲高い悲鳴が響いた。
女性の声はユリナに間違いなく、ゼインはシャワールームに向かった。
「どうした!? ユリナ!!」
大声で呼びかけると、豊満な身体を白いタオル1枚でかろうじて包んでいるユリナが出てきて
「排水口が詰まってしまったの!! 私の髪の毛だと思うわ。あぁ……ここじゃあ安くて早い水のトラブル業者も来てくれないし、パイプ○ニッ○ュも無いわ。……奥まで流れ込んだ髪の毛はどうしたらいいの!?」
ユリナのタオルはずり落ちそうだった。明らかにパニックになっている。
『落ち着いてユリナ。サービスショットはそこまでよ。全年齢層向けでなくなってしまうわ』
通路にもスクリーンが浮かび上がりニナが言ったのでゼインは驚いた。
しかしそれを指摘する間もなく──
「ジーザス!!!! なんてこった……!」
青い顔をしたドーザーが自室からフラフラと出て来た。倒れそうな足取りだ。
「ドーザー、何が……」
ドーザーは涙すらも浮かべて絶望の言葉を吐いた。
「1番下の娘が彼氏の誕生日パーティーに行って、そのまま泊まる予定だそうだ。──彼氏の誕生日だぞ!? プレゼントに要求してくるかは…もう1つしかない!!!! なのに何で泊まるのなんか認めたんだ!! オレが居たら絶対帰って来いと言ったのに!!
信じられないよ、もう何もかも。……うちは終わりだ……」
ドーザーの部屋の扉は開いたままで通話もまだ繋がっているようだ。彼の奥さんらしき女性の声が響いている。
『もうあの子も24歳なのよ!! 信じられない堅物はあなた!──全くいつまでも"エンジェルガール"って呼んでるんだから。せっかくできた彼氏と今夜は楽しませてあげてちょうだい!』
ドーザーは耳を塞いでしゃがみ込んだ。
「嫌だ…………っっ! ミリーは"パパと結婚する"って言ってたんだぞ!! オレの天使だったミリーが……!!!!
……この世はもう地獄だ……」
とプチパニックになっている。
「……まさかこれは……」
ゼインは起こっていることに気づき出した。だがそこに
「うわぁあああ!! いってぇー!!」
と明らかに苦痛を訴える叫びが聞こえた。これまでのとは違う。
ゼインは隔離室に走った。ライオネルの声だった。
隔離室は内側からは開かない。彼は解錠パネルを押した。
扉が開くと、ライオネルが寝台の下に倒れて呻いている。姿勢もおかしい……
ゼインは慎重に近づく。
「ライオネル? 何があった?」
戦闘要員でもある彼が、苦しげに喘いでいた。足のふくらはぎに手を当てている。
「……横になっていたら足が……足が……」
「足? 痛むのか?」
ゼインが尋ねるや否やスクリーンのニナが現れた。
『それは"こむら返り"よ。水分不足やミネラル不足で就寝中に起きやすいという筋肉の異常収縮。とっっても痛いの。
痙攣部分を伸ばして、痛む足の指を自分の方に反り返すと良くなるわ。
寝ていて突然痛みに襲われたら、パニックにもなるわよね』
ニナの言葉にゼインはもう──確信した。
「クソッタレ。これがパニックなんだな? なんて小規模な……」
彼はライオネルの足の指を反り返らせながら呆れていた。
『でも排水口のつまりも娘さんのお泊まりも、就寝中のこむら返りも 階段有無ドッキリだって──日常に潜む確かなパニックだわ。
馬鹿にできないわよ』
だがゼインは鼻で笑った。
「ハッ! コメディいかせろってんだよ、こんなのならな」
すると、いよいよ絶叫が船内に響き渡った。
「助けてくれ────!! 誰か──!!」
ロパだ。彼はあの個室から助けを求めていた。
「誰か頼む!! トイレットペーパーが無い!!!!」
シャワーを諦めて着替えてきたユリナが電子レンジで ゆで卵を温めながら大声で返した。
「多分…………予備 切れていたわよ!」
ロパの断末魔が聞こえた。
ゼインはこれ以上のくだらない内容に付き合うものかと、操縦席に向かうと船内を日常生活モードから宇宙生活モードに切り替える手動レバーに手をかけた。
切り替えれば調理はできずパックの宇宙食のみとなり、手洗い・シャワーは紙や水を極力使わない仕様に変更となるのだ。
ゼインは力強くレバーを引き──
──レバーは折れた。
ゼインが目を見開く
4度の宇宙空間転移
9ヶ月近い船内生活
排水口の詰まり
トイレットペーパーの予備は無し
電子レンジで温められていたゆで卵が爆発した。
────最高宇宙戦闘船ラスターの船内は
船内は
船内は
船内は
船内は
船内はぁ!
パニックだった
…………………………………………申し訳ありませんでした!!m(_ _)m
パ、パニックジャンルに投稿してみたかったんですʕTᴥTʔ
補足致します!( ̄^ ̄)ゞ
このあとドーザーがポケットティッシュを持っていて、ロパは救われます。˚✧₊˳✧༚
ドーザーやライオネルの身体には異常無しです。
(娘さんお泊まりで)傷心ドーザーをみんなで慰めてあげます。( T_T)\(^-^ )(´ω`)(ー ー;)(¬_¬)
ラスターは自動操縦に切り替え、司令部監視のもとで冬眠装置に入って5人は帰還致します。
ので、全員衛生上無事です!人としての尊厳も無事です!
※ゆで卵は電子レンジで温めると本当に爆発しますから、やめましょう。
女流作家として多くを失わなくて済んだかなʕ-ᴥ-ʔ←多分手遅れ
前作も武頼庵様主催の『すれ違い企画』作品だったのです。
『蒼き星のための翼たち』
https://ncode.syosetu.com/n1133ls/
今回も、企画という理由のおかげで、このような作品を書く機会を頂きまして誠にありがとうございます。
いや、こんなのばかりで申し訳ありませんm(_ _)m
この作品は私の大好きなSF映画をもじる ようなところがあるシリーズです。今作はあまり色濃くは出せていませんが、女性キャストの無意味なお色気がそこでした。
映画何本も観てますと大人になると気づきますよね。あ、こーゆーサービスシーンね と。ʕ〃ᴥ〃ʔ
後書きもこんなことを書いてしまう──問題作をお読みいただきまして、本日も誠にありがとうございました<(_ _)>
シロクマシロウ子




