グラタン皿
うちには古いグラタン皿が2つある。実家からかっぱらって来たやつだ。
子どもの頃から家族で使っていた、おそろいのグラタン皿。
大人になってから思えば、おそろいの食器は一家団らんの象徴であったと思う。
寒い冬、暖かな黄土色の楕円の深皿に詰められた、グラタンを3人で食べた。
でもある時、母が家を出たまま帰ってこなくなって
しばらく経ってから、父が原因で離婚していたのだと聞かされた。
その話を聞いてから父の家を出て、母の元で暮らすことにした。
「でもお父さんは悪い人じゃないのよ。あんたのこともかわいがってくれたし」
母が父を悪く言うことは無かった。
「さあ、食べましょ」
母の気に入りの100円ショップで揃えられた小さなグラタン皿。
母の家で母が出してくれたグラタンに、丸い柄のフォークを刺すと、いつもマカロニが出てきた。
「うちはいつもマカロニグラタンだね」
「ふふ、お父さんがマカロニは絶対入れろって」
母が父、あるいはあの頃の家族に未練があることに気付いていた。
そして父にも、自分のことをそう思って欲しいという気持ちが隠れていることも。
大人になって私が地元を離れた後、父は再婚した。
子どもの頃暮らした実家は
やがて花壇の花が植え替えられ
カーテンが取り替えられ
玄関をくぐるたび母の匂いが消えていって
そのうち父は新しい家族と3人で食卓を囲み出して
冬の寒い日、帰省した夜に、あのグラタン皿を使っているのを見た。
だから帰る時、奪ってやったんだ。
3人家族の父の家から、2つだけ。
「うちはいつもマカロニグラタンだね」
「……お母さんがよく作ってくれたんだ」
あれからもう十年以上も経つのに、未だに買い替えられず、この冬も使い続けている。




