①
昔から、他人は彼を欲した。美しいウツクシイうつくしい。そう言って涎を垂らし、目を血走らせながら全てを奪おうと手を伸ばしてくるのだ。
その様はいつだって餌を貰えていないケダモノのように無様だった。
都会から田舎に引っ越して一週間。須藤リヒトはなんの問題もなく環境に慣れていた。
馴染んでいるのではない。周囲が彼を手助けし、自分達の方にからめとろうと世話を焼くのだ。それは昔から当たり前の日常の一部で、結局どこにいっても変わることはない。
(母さんたちも諦めればいいのに)
母はリヒトの他人を引き寄せる体質を心配して、自分の生家があるこの村──花落村へと高校生の間だけ身を寄せることを提案した。最初こそ両親もついて行くと言っていたのだが、村で面倒を見てくれる祖母が「私が面倒をきちんと見るから、二人は仕事があるのだからそちらを優先しなさい」と説得したそうだ。
リヒト自身仕事が忙しい二人に無理をしてまで一緒に来られても困るし、どうせ不測の事態が起こったとしても二人がいるからといって役に立つわけでもない。
だから、提案してくれた一度も会ったことのない祖母に感謝さえした。
幼い頃から母方の身内は祖父しか会ったことがなかったので、そもそも生きていることに驚きさえしたのだが、母曰く、物心がつく前に両親が離婚して村を離れたのであまり祖母との記憶自体ないそうだ。
だからこそ長閑な村へと助けを求めつつも、祖母だけにリヒトの面倒を見させることに抵抗があったようだ。
まあ、確かに初めて会った時に厳しそうな人だなとは思った。母も父も穏やかな人間なので、きつめの顔立ちや淡々とした話し方にしても真逆のタイプだった。
一切乱れぬ短い黒髪を後ろに撫で付け、背筋がピンとした女性だった。和服姿なのも堂に入っている。とはいえ口煩く干渉してくるわけでもないので、お互い適度な距離を保ちつつ、まあまあ自由に生活できていた。
どこに行ってもリヒトは自分のペースを崩さない。変わらない。どうせ他人はリヒトのことを、宝箱の宝石を見るように無遠慮に手を伸ばしてくるのだ。
何をしてもどこに行こうともそれは変わらない。自分はきっとそういう人生なのだ。ならばうまくやればいい。
一時期外国にいた時は幼すぎて、うまく周囲を御しきれなかった。まあ、前回も失敗してしまったが、なかなかどうして、この田舎の人間は御しやすい。
すり寄ってくることに変わりはないが、まだここの人間は理性を捨てていない。その点は少しだけ新鮮で、この村を勧めてくれた母に感謝している。
「リヒトくん、今日私の家に来ない?」
純朴そうな見た目に反して大胆にリヒトの膝の上を跨いでいる少女を見下ろしなから、名前はなんだったけなっと思考を巡らせる。確か同級生の少年が二年生で一番可愛い先輩だとか話していたような。
「……いいよ。今日誰もいないの?」
結局思い出せずに曖昧に微笑んでおいた。
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