①
昔から、他人は彼を欲した。美しいウツクシイうつくしい。そう言って、涎を垂らし、目を血走らせながら全てを奪おうと手を伸ばしてくるのだ。
その様はいつだってエサを貰えていないケダモノのように無様だった。
都会から田舎に引っ越して一週間。須藤リヒトはなんの問題もなく慣れていた。
馴染んでいるのではない。周囲が彼を手助けし、自分達の方にからめとろうと世話を焼くのだ。それは昔から変わらない日常の一部で、結局どこにいっても変わることはない。
(母さんたちも諦めればいいのに)
何をしても、何も変わらない。自分はきっとそういう人生なのだ。ならばうまくやればいい。
一時期外国にいた時は幼すぎて、うまく周囲を御しきれなかった。まあ、前回も失敗してしまったが、なかなかどうして、この田舎の人間は御しやすい。
すり寄ってくる事実は変わらないが、まだここの人間は理性を捨てていない。その点は少しだけ新鮮で、リヒトを案じてこの村に引っ越してきた両親に感謝しなくもない。
「リヒトくん、今日私の家に来ない?」
純朴そうな見た目に反して大胆にリヒトの膝の上を跨いでいる少女を見下ろしなから、名前はなんだったけなっと思考を巡らせる。確か同級生の少年が二年生で一番可愛い先輩だとか話していたような。
「……いいよ。今日誰もいないの?」
結局思い出せずに曖昧に微笑んでおいた。