第九話 1F
薄々分かってはいた
陽動の住人を襲うと見せかける魔術式の構築
それを削除、からの白薔薇を拘束する為の魔術の構築時間
魔術発動時の、本来の魔術を圧縮するのにかかる、溜めの時間
それらすべてを合わせた
魔術発動までの時間が、白薔薇の剣が俺の首をはねるまでの時間を越えてしまっている……
正確には間に合う、圧縮時間の短縮さえできれば―――
***
「先輩、私、転職しようと思ってるんです」
「ああ、そうか……」
転職、なるほど、こいつも行くのか
まぁその方がいい、こんな職場に骨をうずめるよりは
「おめでとう、次の職場でも元気でな」
そう言いながら、俺は彼女の背中を押す
確か、これは二年前だったか、俺が教育係を受け持った後輩との最後の会話だ
懐かしい、この頃はまだ余裕もあって、ブラックなりかけって感じだったっけ
「先輩、先輩も転職しませんか?日に日に弱っていく先輩を置いて行けないっすよ」
そんな事は無かったか、俺はこの頃もかなり限界ギリギリでただ義理でいただけ
「また義理とか恩とか、そんなものないって知ってるんすからね」
……そんな事は無かったらしい、そうだ、俺はただ怖かったんだ
何度も受けたお祈りメール、転職しようとして、また否定されるのが怖かったんだ
「先輩、最後に言っておくっすけど、挑戦しないと何も変わらないっすからね!!」
そう、だったな
そうだ、俺は今まで挑戦することから逃げていたんだ
ブラック企業から逃げる勇気もなく、誰かを愛する勇気もなく
死ぬ勇気もなく、生きる勇気もなく
だが、それは昨日までの自分だ
俺は逃げない
「やってやる、俺は白薔薇に勝つ」
「フロスト様やっちまいましょう!」
シロがにっこりと笑いながら、そう言う
まただ、俺はこの景色を何回見ればいいんだろう
さて、以下同文
***
もう何回やったか、覚えていない
何十回?何百回?そんなことはどうでもいいのだ
俺が魔術を発動しようとしてから、俺の首に白薔薇の剣が差し掛かるギリギリまで
猶予、脅威の0.016秒
その間、小さな小さな針の穴に糸を通すような神業
それを俺は成し遂げた
「引っかかったな、白薔薇ァ」
白薔薇のマリア、彼女の剣が俺の首を落とす、その寸前で止まった
その理由は、彼女の姿を見れば明白だ
半身を氷に包まれた、その姿を見れば―――
名前 フロスト
職業 白の魔王
二つ名 無し
持ち物 特に無し
眷属 シロ、骸骨騎士
能力 召喚、迷宮支配
適性魔術 氷を生み出し、操る(名称不明)
どうも、孤宵です
多分後一二話で一区切りついて、ダンジョン運営編が始まります、早く書きたいです
ここまで読んでいただきありがとうございました、もしよろしければ
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