第五話 ほのぼのショッピング
私はその時、希望の光を見た
人間という矮小な存在では計り知れない
大きな存在を、この瞳に焼き付けたのだ
かつて、母に耳にタコができるほど聞かされた
白の魔王、その巨大な氷山の一角を
「なぁシロ、正当防衛とは言え、氷漬けは流石にやりすぎたかな」
「いいんじゃないすか?」
俺とシロは先ほどの少しのハプニングを振り返りながら、路地裏を歩く
なんかさっき扉を開けたら、よくわからんゴロツキ二人がいて、なんか襲ってきた、だから能力の試運転も含めて凍らせてみたのだ
まぁその場にいた二人のゴロツキは凍らせたし、とりあえずは問題になることは無いだろう
「あ、というかあの氷像?あのままにしておくとまずいか」
「大丈夫っすよ、時間が経てば溶けてなくなるっす」
「……それは全て?」
「はい、全て」
うーん……正当防衛、だよな?
「なんか思考がおかしくなっている気がする」
俺がそう言うと、シロは胸を張りながら
「魔王なんだから、好き勝手やりゃあいいんすよ」
そう言った、そして、その言葉と共に、俺たちは大通りに出る
そこで、実感する
「ああ、やっぱり異世界なんだなぁ」
「まだ信じてなかったんすか?」
「いや、改めて実感というか、なんというか」
今まで、ゲームの世界に迷い込んだかのような、妙な感覚があった
生気を感じていなかった、だが、今晴れた
「ああ、確かに、この世界は生きている」
人が人と会話し、せわしなく動く、市場の光景は
何処か懐かしい、そんな雰囲気を持っていた
「さて、素材集めに行きますか」
「いや、シロ、少し遊んでいこう、常識を学びたい」
そう言って、俺を大通りを適当に歩くことにした
「あ、というかシロ、お前狐だよな、普通に歩いてて大丈夫なのか?店とか入れるのか?」
「ああ、この世界には魔獣使いっていう職業があるんすよ、なんで多分気にする人はいないっす」
ふむ、確かに動物を連れている人がちらほら
象?みたいな動物が荷物を運んだりしてるし、大丈夫か
「てか、お金はあるんすか?」
「さっき、ぱちった」
そう言いながら、俺はシロに二つの財布を見せる
「欲しいものがあれば言ってくれ、金が尽きる限りは買える」
その後は、色んな店を巡った
串焼きとか食べ物系、備蓄できる食糧を買ったり
なんか素材に使えそうなものを買ったり、後は本とかも買った
「あ、お金無くなっちゃった」
シロが食べたいといったクリームパンを買った所で
一つ目の財布の中身は空っぽになってしまった
「さて、そろそろ行くか、シロ」
「マジっすか?もうちょっと遊びたいんすけど」
そう言うシロの口元には、クリームがたっぷりとついている
「もう後は素材買う分の金しか残ってない、また来よう、さ、行くぞ」
そう言って、俺はシロを抱きかかえる、そしてそのパン屋を出ようとした
その瞬間―――
世界が裏返る、反転、地面が頭の上にある
落ちていく感覚、時間がじっくりと濃縮される
一瞬の出来事だった、ただ俺にとってはゆっくりと
咀嚼するように、頭に流れていった
何か剣の様なもので、貫かれる、シロと心臓
そんな状況が、何故か他人事のように思えたのは
「ユーラテリア王国、国王直属騎士団、団長、白薔薇のアンナ」
「白の魔王、討伐完了」
その様子を、上からではなく、下から見ていたからなのだろう
「おい、生まれたばかりと言っても魔王だぞ」
「気を抜くな、死亡が確認されてから、報告しろ!!!」
怒号と人がうごめく、音が響く
そんな音に揉まれながら
段々と意識が薄れてゆく、そして、その後、俺の意識は途絶えた―――
名前 フロスト
職業 無し
称号 無し
持ち物 無し
眷属 無し
能力 召喚
適性魔術 氷を生み出し、操る(名称不明)