橋渡しー1分で読める1分小説ー
橋は、この三年間やきもきしていた。
毎朝登校時間になると、ある男子高生と女子高生が橋の上ですれ違う。
「ああ、どうしよ。名前聞いたら、気味わるがられるだろうな……」
「毎朝橋の上で一緒ですね。そう気楽に声をかければいいのよ……ダメ、恥ずかしくってそんなのできない!」
橋は、橋の上を通る者の心の声が聞こえる。二人はいつもこんなことを考えているが、どちらも極度の奥手だ。
結局勇気が出せず、すれ違い続けた。そしてとうとう卒業式を迎えてしまった。
もう、人間ってのはイライラするな。好きです。付き合ってください。なんでこんな簡単なことが口にできないんだ。
橋は毎回呆れ半分、イライラ半分で二人に踏まれていた。
そして卒業式当日、二人はいつものように、同じタイミングで橋にやってきた。さすがに今日が最後だと二人とも理解している。
ちらちらとお互いの表情を見ているが、どちらも声をかけられそうにない。
もう我慢できない!
橋は、思わずガタガタと体を揺らした。「あっ」と女が姿勢をくずし、男がその体を支える。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます。いつも橋の上で一緒になりますね」
「そうですね」
二人がその場で嬉しそうに話しはじめ、橋はふふんと満足そうに鼻を鳴らした。
これが、『橋渡し』の語源となった。