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第五章 誇り高い漢 7

 ストーカー女が病んでるのを承知で、『おれと連絡を取りたいのならもっと誠意を見せたらどうだ』と言って追い詰めたのだ。限界まで金を貢がせようとして調子に乗って失敗したんだ。

 おれは貢がれて当然の存在になった気になっていた。


 双葉と仙師は真顔になっておれをみつめている。おれの考えていることは筒抜けみたいだから、ちょっと偉ぶって説教してみるよ。これがおれの配信スタイルなんだ。


 やっぱり人間ってのは野蛮だよなあ。金と権力があるやつは、なにしてもいいって信じてるやつが最近増えてきてるのは文明的な退化じゃないのか。人間性の敗北じゃないか。まあ、実際に金と権力のあるやつが好き勝手に不正したり脱税したりしても逮捕されないてないんだから、そっち側で甘い汁をすうほうが勝ち組感あるよな。でもマグナカルタ以来、アメリカの独立戦争やフランス革命やロシア革命で人類が積み上げていったものがそんなにやわいものだったなんて思いたくないよ、おれは。

 なーんてことをひとくさり配信でぶちあげたいけど、おれはもう人間じゃないからできない。聞いてくれてありがとうな。それに、そう言う考えにおれも毒されてたんだ。

 だから、殺されちまった。


「納得してるのに、じゃあ、なんで」


 嫌われものの虫に転生したのは因果だとでも、おれは今度こそきちんと誇り高く生きようと思うんだ。


「誇り高く……? 人間のように……?」


 なにをバカなことを。前世では誇り高い人間ではなかった。

 だから今度は誇り高い虫として生きてやる。前世の後悔を吹き飛ばすほど生き抜いてやる。

 言っとくけど人間とは価値観が違うんだ。虫として生を受けたからには人間をからかいながらしぶとく生き抜いて大繁殖するつもりだ。


「了解した。未練を残さないように生きろ。わたしたちは帰ることにする」


 さらばだ、除霊師よ。死んで迷っていたら、そのときはまた会おう。そうならないように今度はせいいっぱい生きる。


 去り際おれは一瞬だけ迷った。下の部屋に半分死にかけている女子大生がいる。そのことを知らせておいたほうがいいだろうか。

 だがやめておいた。規則違反がどうのと言っていたし、生死に直接関与することは領界侵犯になるのかもしれない。それに誇り高い虫は人間が絶滅しようがどうでもいいことなのだ。


 それなのにおれの六本の足は勝手に動き、トイレの下水管に入り込んで下の階に向かった。


 しまった。鉄砲水だ。キーキー音を聞き逃した。横道にそれる。すんでのところで回避した。誇り高く生き抜くつもりでいたのに、うっかりして死の濁流に飲みこまれるて果てるところだった。女子大生のトイレに戻る。

 毒ガスの匂いはもうない。遠くからかすかな泣きべそが聞こえてくるが、気にしてはいけない。また電話をしているようだが……気にするな。


 便器から降りたところで、おれは思いも寄らぬものと鉢合わせた。


 ヤモリだ。

 ヤモリは虫を喰らう。そのヤモリはおれをじっと見定めて口を開いた。


『会いたかった』


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