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第五章 誇り高い漢 6

 本人であるおれがなんとも思ってないんだから、そんな顔しなくていいぜ、爺さん。そういうもんだから。その程度の活躍しかできてなかったし、それ以上の活躍も望んでなかった。ちょうどよかったんだよ。有名になりすぎるとアンチにからまれるし。

 それに、虫になったいまだってやれないことはない。人間の手を借りることにはなるが音声だってなんとでもなるし。Vtuberの本体が虫なんて傑作じゃないか。


「それを手伝ってあげようか、えーと、ブイ……ちゅうば……?」

「師匠には無理ですよ。スマホ使いこなすのだってやっとじゃないですか」

「う、うるさいな。じゃ仙師が手伝いなさいよ……!」


 ちゃんと話を聞いてくれよ。虫だってやれないことはないけど、おれはやりたいとは言ってない。虫が人間のふりしてもしかたない。


「じゃあ、なにか心残りがほかにあるのかしら。ストーカーは死んでしまったから復讐したくてもできないし」


 復讐か。言われるまで復讐なんて言葉は浮かばなかった。言われてもぴんとこないしな。

 おい、ちょっと待ってくれ。ストーカーの魂はどうなったんだ。ちゃんとあの世に行ったのか。

 きょろきょろとあたりを見回した。おれと同じ種のメスに生まれかわって、おれの子供を産みたいわ~なんて、どこかで待ち構えていないだろうな。

 どちらかというと、ストーカーのほうが執念深い気がする。おれを殺したことで心残りがなくなってればいいんだが。


「少しでも後悔してくれていたらいいですね」


 この女、さっき、ここには幽霊はいないって言ってたよな。てことは、ストーカーはひとりでさっさとあの世に行ってしまったんだな。


「この世に執着することなく旅立たれたということですから、望ましいことなんです。あなたも執着せずに時期が来たら気持ちよく旅立ってくださいね」


 時期が来たら? おれをいま、殺さないのか。


「魂の回収のためであっても、殺すことは規則上できません。死ぬまで待つこともできません。あと一年か二年は寿命があるでしょうから。死に神の領界を侵犯したくないので示唆もできません」


 なにを言ってるのかよくわからないが、つまりはおれを自由にするということか。

 それはありがたい。

 ああ、おれは今度こそ人生、いや、虫生を満喫してやる。

 おれはうれしくて暴走した。踊り出すかわりに走った。正面にはさっきの中年女の幽霊がいた。おれは中年女をするりと素通りした。


『いやああああ』


 振り返ってみると、中年女は煙になってまた消えてしまった。

 消えるときに年寄りの持っていたスマホに吸い込まれたような気がしたが、目の錯覚だろう。まるでおれがイヤすぎて別の世界に逃げたみたいに見えた。


 あの女、なんとなく見覚えがあったのだが、それも目の錯覚だろう。

 双葉と仙師が驚いた顔でスマホを凝視しているのも目の錯覚だろうか。

 双葉がおれに視線を向けた。


「あなたはいまのほうが生きやすいの?」


 おれの未練がなにかさぐって、諦めさせるようなことを言って、殺すことはできないと安心させておいて、自殺をうながす作戦かな。

 前世で道半ばで殺されたのは、たしかに悲劇だった。だが死に際でいつかこうなることを納得していた。同時に後悔していた。あのときの記憶をすべて思いだした。

 おれは、おれのせいで死んだ。


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