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第五章 誇り高い漢 3

 おれは下水管に潜り込んだ。最終兵器をぶっかけられたら一巻の終わりだ。

 だが女は急に感電したような動きで後ろを振り返った。


「電話……来たー!!!」


 待ち人からの着信音なのか、狂喜乱舞して飛び出した。聞き耳を立てていると、


「ううん、平気。……いいけどお、いつ? じゃあお祝いにシャンパン入れるね。……ううん、タクヤのためなら頑張っちゃうよお」


 などと声が聞こえる。

 ばかばかしい。おれは便器の水溜まりにもぐる。


 人間が便器に水溜まりを作る理由は、汚れがこびりつかないようにと下水管の臭いが上がってこないように、それから害虫が侵入しないようにというあたりだろうが、おれには無意味だ。


 しかたない、下水管を伝って上階に戻ろう。キーキー音がしだしたら、鉄砲水に気をつければいいさ。


 ぬるぬるとした壁面もちょっとした引っかかりがあればすいすいと登れる、とろい人間には羨ましくてたまらないだろう、脅威の身体能力をおれは持っている。


 人間ってのは弱いくせに厚かましい。おれらの仲間は自然の中で暮らしていた。勝手に『アパート』を建てておいて、土をなくし木を伐り水を曲げておいて、おれらを閉め出そう、見つけたら殺そうなんて悪魔の所業だ。

 まあ見ていろ。驕っていられるのもいまのうちだ。

 やつらは脆弱だ。すぐ死ぬ。身体にちょっと穴が開いただけで死ぬ。ちょっと首を絞めたら死ぬ。核戦争が起こったら生き残るのはおれたちだ。


 ……核戦争ってなんだ?


 まあ、いい。やつらは弱いくせに野蛮だ。

 おれは違う。殺しあうのは食べ物がないときだけだ。

 食べ物がなくても水があれば一ヶ月は生きられる。なんでも食うから食べ物がなくなることは考えられない。環境が変化してもすぐに適応できる。毒ガス攻撃は脅威だが、やがて孫の代には耐性がついて効かなくなるだろう。頭がもげても数日は動ける。

 身体能力ばかりでなく学習能力も高い、ということを人間は知らない。知能指数は人間をしのぐ。少なくともさっきの女に比べて百倍は賢い。


 いまは鷹揚に見逃してやってるだけだということを人間は知るべきだぞ。


 上階のトイレを通り抜けてタンク裏に身を潜める。静かだ。触角を動かして風の動きを読む。


 この部屋には家具がないので隠れるところがない。唯一あるのはエアコンの裏側だ。ドアの下をくぐってようすをうかがう。

 女がひとり。

 だがさっきの女ではない。さっきの女は幼体だった。

 この女は──ベテランの成体だ。

 女は座って壁を見つめている。ふと、どこかで見たことがあるような気がした。

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