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第三章 方向指示器 2

「窃盗かよ、やるな、おい。おれのカノジョは婦警さんだぞ」

「すまん。冷凍庫いっぱいでさ」

「んなわけねえだろ。それより、これ食えよ」


 オカチンはリュックの中から高級スーパーの紙袋を取り出しておれの手に押し付けた。ちょっとお高いパンとだいぶお高いジャムと値段がよくわからない外国製のなんかの缶詰が複数入っていた。

 見たことはあっても口に入れたことがないものばかりだった。


「いや、悪いよ。自分で食べようと思って買ったんだろ」

「安物の冷食なんてやめとけよ。自分を粗末にするな。美味いもん食っていい酒飲んで着飾れよ。自分を甘やかしてやらないと成長しないぞ」

「粗末にはしてないよ」

「おまえなあ、いつまでこんな暮らし、してるんだよ。収入がなくて結婚できないのはしかたないとして、普段はカップ麺ばっか食ってるんだろ。体壊して死ぬぞ。いいかげんに悔い改めろよ。男の一人暮らしはみじめだもんだからなあ」


 栄養バランスを考えて普段から自炊していることをオカチンは知らない。

 冷食はともかくカップ麺は年に数回も口に入れない。料理は和洋中華どころか韓国料理もメキシコ料理も得意だ。キッチンのスパイスや道具の品揃えを見てもピンとこないオカチンは料理をまったくしないのだ。突然友人が遊びに来ても部屋がちらかっていない程度には掃除も洗濯もこなしている。


 オカチンはいつもこうだ。ただマウントしたいだけなのだ。


 オカチンはカラオケ店の経営者。こちとら働かせてもらっている身分だから、上司の機嫌を損ねるのは悪手である。


「じゃあ、遠慮なくいただいとくよ」

「あと、これな。花音からもらった」


 オカチンは『情報提供のお願い』と題されたチラシをよこした。


「へえ、バラバラ殺人事件なんかあったんだ。え、この近くで!?」

「太郎ってほんとウトいよな」


 オカチンは呆れ顔になった。


「被害者はタレント事務所所属のモデル、28歳。三か月前に川縁で切断された頭部が見つかり、翌日胴体の一部と左足が別々の場所で発見されたんだ。バラバラ殺人事件としてワイドショーをにぎわせていたじゃないか」

「おれ、テレビ見ないし……え、この川縁ってすぐそこじゃないか」


 自分の生活圏内で殺人事件、しかもバラバラ殺人があったなんてショックだ。そんなものは映画や小説といった次元のエンタメの中でしかありえない距離感を持っていた。たとえニュースを目にしたところで対岸の火事を眺めるようなものでリアリティは感じなかったろう。

 だがチラシには事件の生々しさがあふれていた。


 人体のパーツはごく狭い範囲で見つかったらしい。頭部が川縁なら胴体は分割されてひとつはスーパーの駐車場、もうひとつは廃ビルの中、左足は公園のトイレ、右足は寺の生垣、左腕は市民農園に雑に埋められていた。

 右腕はまだ見つかっていない。

 やけくそというか無計画というか、死体の切断まではしたものの、捨て場所まで考えてなくて、えいやっとばらまいたように思えた。

 パーツが見つかった場所はどこもご近所ばかりだった。


「まさかと思うけど、太郎が犯人じゃないよな」

「やめろよ。……犯人、まだ捕まってないのか、怖いな」


 生活圏が一緒なら、知らないうちにすれ違っていてもおかしくない。


「土地勘があるやつだろうって話だぜ。被害者はモデルだろ。モデルってことは派手な生活をしていたんじゃないかなあ。男関係か反社か、金銭トラブルか。はは、太郎には縁遠いわな」


 単語をいくつか結び合わせて描く絵は偏見で彩られた妄想になりやすい。だがそんな指摘をしても機嫌を損ねてしまうだけだろう。

 チラシに載っている被害者の容姿は、モデルというわりには平凡だった。これも偏見だろうか。


「ん?」

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