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激怒するフランソワーズ

ローズが一言目を話す前に、まずフランソワーズが激怒した。


「なぜローズ様があなたがたの陰謀に巻き込まれなければならないのですか!最後までローズ様をお守りするために考えるべきでしょう!あなたの脳みそはなんのためにあるのですか!?」


両親の前で盛大に罵られるルイスを不憫に思ったローズがフランソワーズを宥めながら彼を庇うと、フランソワーズの怒りの矛先はローズにも向かう。


「ローズ様は人が良すぎます。いつまでもいつまでも王の器の欠片すらない兄の言うことを聞き続けて、今度は自己顕示欲しかないあのおっさんの操り人形になるおつもりですか? こんなヘタレのせいで!」

「フ、フランソワーズ、言いすぎよ」

「へたれ……」


フランソワーズの怒りは収まらない。彼女はルイスに向かってピシッと指を差した。差された彼はしょんぼり落ち込んでいる。そうだった。彼女はとんでもなく気が強いのだ。


ローズはフランソワーズがここへやってきた経緯を思い出した。

彼女はもともとマシェルバの田舎に領土を持つ伯爵家の娘だった。父親同士仲の良かったレグニッツの伯爵家へ嫁ぐことになったのはいいものの、結婚まもなくマシェルバとレグニッツ間で鉱石を巡る問題が勃発。双方の調整係を務めたのが彼女の夫であった。

フランソワーズは夫のマシェルバ訪問に同行していた。2つの国に修復しようもない亀裂が生じたとき、彼女は実家で優雅なティータイムを過ごしていた。

マシェルバの王はそんな彼女の家に兵士を投入した。彼女や両親を取り囲み、「言うことを聞かないとひどいぞ!」と言い、彼女を城まで連れてこさせた。


王は言った。お前の夫は使えない。なぜマシェルバが有利になるように交渉しないのだ。お前は元々マシェルバ国民なのだから、夫の手綱をしっかりと握って外交が上手くいくように操作しなければならない。

フランソワーズは言った。そんなの知ったこっちゃないと。もちろんもっとお上品に伝えたが、内容としては同じであった。

王は激怒した。激怒したがフランソワーズの家系はマシェルバ国内ではそれなりに優秀な家系で、フランソワーズが嫁いだ先も、レグニッツではかなり権力のある家系だった。王はフランソワーズをひどい目に合わせたい気持ちでいっぱいだったが、それ以上してはならないと認識出来るほどには空気が読めた。

王はフランソワーズの扱いに困り、ローズが幽閉されている塔へ連れて行って反省を促すことにした。後にリヒャルト・ブラバントの扱いに困った際に取った手段と同じである。


塔へやってきたフランソワーズは、哀れで可憐な姫を大変気に入った。フランソワーズが不快な思いをせぬように心を配る姿、人見知りにも関わらず健気に話しかけようとする姿。こんな妹がいたらでろでろに甘やかして面倒を見たに違いない。フランソワーズはローズからのお世話の一切を固辞し、自分が彼女の世話をすると宣言した。今日からあなたが私の主君です。そう言い切ったのである。


以来フランソワーズはローズの面倒を甲斐甲斐しく見ている。兄王はフランソワーズを彼女の実家へ戻すために何度か部下を交渉させたが、王よ、お前が態度を改めよ、と突っ返している。ローズとしてはこの前の有給消化でフランソワーズが実家を訪れる機会を設けたつもりだったが、話を聞く限りどうやら失敗に終わったようだ。彼女はとんでもなく頑固だから。


「フ、フランソワーズ。私に免じて怒りを収めてちょうだい。ここで話し合っている時間はないわ。ゲスライドのお方は、準備が整い次第ここにやってきてリヒャルト・ブラバントを殺そうとするんでしょう?」


ローズは項垂れたままのルイスに尋ねた。ルイスは力なく首を縦に振る。フランソワーズの怒りが増幅しそうな情けない姿である。


「フランソワーズ、即刻彼を逃さなければならないわ。彼がたとえ嫌味ったらしい人でも、殺されてはならない人だわ」

「ローズ様…しかしローズ様がリヒャルト・ブラバントを逃がしたことが分かったら、あなたは」

「共に逃げれば良いのよ。あの人は英雄なんでしょう?あなたと私も連れて行ってもらうの。そろそろあなたも、夫の元へ帰らなければ」

「ローズ様……!」

「さあ、彼にお茶の準備をしてちょうだい。丁寧に説明しなければならないわ。いつもより上等なものを出してあげて。…念の為に、今日は彼の腕を後ろに拘束してちょうだい。下手に動かれると困るから、拘束は強めにしておかなければ」


ローズは心に余裕があるように振る舞った。もしかしたらフランソワーズには見抜かれているかもしれないが、フランソワーズはローズの気持ちに応えるために急いで塔の上の部屋の支度をしに向かった。


フランソワーズの背中を見送ったあと、ローズは改めてルイスに向き合った。


「ルイス、ここからあなたのボスのところまでは急いでどれくらいで着くのかしら?」

「今ちょうど仕事で王宮まで来ているので、10分ほどでしょうか」

「では急いでボスのところへ行ってちょうだい」

「ローズ様……?」

「ルイスの選択次第で変わる未来がある。あなたのボスはそう言ったのよね?」

「はい」

「伝えてほしいことがあります」


ルイスの目をしっかりと見据えたローズに迷いはなかった。

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