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五インチの青空

作者: 水野 文

 二人の兵士が森の茂みに身を潜めていた。一人は肩から血を流し、もう一人も頭に包帯を巻いていた。二人は落ちついたのか、一人の兵士が煙草に火をつけて話した。


「ベンがやられた」

「本当か?」


 包帯の兵士が驚いて聞いた。


「ああ。何故だと思う?あいつ、ばかだぜ。あと一歩で壕に入れるところなのに蝶に気を取られて撃たれやがった」


 包帯の兵士は呆然としていた。


「どうかしちまうんだ。こんな状況だとな。敵に囲まれこちとら逃げるだけだ。あちらの陣地じゃ分が悪い」


兵士は肩をおさえて煙草をふかし続けた。


「国境までどれくらいだ」

「半マイルだ」


 包帯の兵士が聞くと、もう一人が煙草を手に目を閉じたまま答えた。


 近くで物音がした。包帯の兵士は身構えると、もう一人も煙草を消し、銃を手にした。


「敵さんも近くに来たらしいな。ここで別れよう。もし、生きて帰れたら基地で会おう。半マイルのかけっこだ」


 男は包帯の兵士の肩を叩くとニヤリとして走った。それに続いて包帯の兵士も男と別の方向に走った。包帯の兵士は走り続けた。持っている銃も小銃だけで、とても敵兵を迎え撃つだけの威力はなかった。ただできることは逃げること。どれぐらい走ったのだろう、兵士はやっと国境線を見付けた。


(助かった・・・)


 兵士がそう思って国境線に向かって一直線に走り込んだ瞬間、幾数もの銃声とともに足に何か熱いものが突き抜けるのを感じた。兵士は前に突き飛ばされるように転げた。国境線はもう兵士の頭半分の位置まで迫っていた。


(動けない・・・・・・)


 兵士はそのまま仰向けになって空を見上げた。空は雲一つなく、兵士を包み込むように広がっていた。


(なんて綺麗な空なんだろう。空の色がこんなに青いなんて・・・・・・どうして今まで気付かなかったんだろう・・・・・・草の匂いも・・・・・・大地の息づかいも、どうして今まで・・・・・俺は生きて帰れるだろうか?もし、生きて帰れたら今と同じ感動をまた味わえるだろうか?)


 兵士は目を閉じたまま眠るように考え込んだ。そして、最後の力を振りしぼろうと深く息を吸い込んだ。


 (了)

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