42 二倍で現状維持、三倍で利益、老後を考えれば五倍
前世で聞いた話だ。
給料の二倍稼いで現状維持。
利益を出したければ三倍。
老後を考えれば五倍稼げと。
自営業ならこれだけの稼ぎがいるという。
確かに、様々な経費は自分持ちだ。
それを考えると給料分・食い扶持の分だけ稼げば良いというわけではない。
その経費を支払い、さらに利益を確保するなら、より多くの実入りが必要になる。
体が動かなくなって引退した後まで考えると、もっと必要になる。
これが転生したこの世界にどこまで当てはまるか分からない。
だが、出来るだけ大きな利益は出しておきたい。
レベルもカネも、あればあるだけ良いものなのだから。
とはいえ、それも稼ぎが安定するまでだ。
無理してレベルを上げようとは思わない。
迷宮の奥深くまで潜ろうとは思わない。
身の安全を確保しつつ稼ぐ。
これが出来れば良いのだ。
迷宮の攻略がしたいわけでも無いのだから。
そこまで本腰を入れるつもりはない。
楽して稼ぐ。
これが一番だ。
苦労して努力して最善最高を目指す……などという事はしない。
もともと努力しないで済まそうと考えていたのだ。
それがそうもいかず、ここ数年は一生懸命になってるが。
やりたくてやってるわけではない。
努力しなくちゃ稼ぎが出せないからやってるのだ。
結局なにかに追い立てられている。
どうしても必要な生活費の確保に励まねばならない。
しかもこれがまだ続く。
もう少しレベルを上げて、稼ぎを増やすまで続くのだ。
せめてもの慰めは、誰かに言われてやってるわけではない事だ。
自分の意思でやってる。
自分が必要だとわかってるからやってる。
そのための期限などを決められてない。
自分で好きに決める事ができる。
これが大きい。
自分で決められる。
重要な事だ。
他人のあれこれ指図されると嫌気がさす。
仕事量や成果の基準を勝手に作られると鬱陶しくなる。
それが楽にこなせる事ならまだ良いだろう。
だが、限界ギリギリだとやる気も失せる。
そうではなく、全てが自分で決められる。
何をするのか自分で好きにやってよい。
この自由があるかどうかでやる気も変わってくる。
前世のマサヒロには無かったものだ。
それが、今この世界にはある。
だから気を楽にしていられる。
命の危険があっても、こちらの方がマシだと思える。
ここまでで良いという区切りも見えている。
最低限、これだけの収入が欲しい。
その為に、これくらいの強さの敵を倒す必要がある。
それが出来るレベルはこれくらいと。
先はまだ長いが、目安があるのはありがたい。
しかも、このゴールが動く事はない。
親や上司、会社や取引先の都合で勝手に変えられる事がない。
そこまで行けば良くて、そこから先があるわけではない。
やる気も出て来るというもの。
そこで終わり。
こういった目安は必要になる。
そこまで頑張れば良いというなら、ある程度の無理も出来る。
今、マサヒロはこのゴールを自分で決められる。
「もうちょっとだ」
まだ全然ちょっとではない。
しかし、あえてちょっと・少しだけという事で自分を奮い立たせる。
見えてる終わりに向けて励んでいこうと思える。
無理だけはしないようにと考えながら。