27 自分の調子で進んでいける
自分のペース。
自分の調子。
誰にだってこういうものはある。
早かったり遅かったりと。
これを無視して人を動かせば、確実に問題が発生する。
どこかで調子を崩し、体力や精神を駄目にする。
そうなれば人は動けなくなる。
前世のマサヒロはこの状態に陥っていた。
これは一人暮らしを始めるまで続いた。
誰かに言われるでもなく。
急かされる事もなく。
自分の好き勝手にやっていく。
誰にも束縛されない。
そうなって、初めてマサヒロは調子を取り戻した。
迷宮に挑んでる今もそうだ。
確かに強制されている面はある。
村から追い出されたり、他の仕事を選ぶ事も出来なかったり。
探索者になる以外の道がないというのは、強制されてるといえる。
だが、探索者としてどうやっていくか。
ここだけは自由がある。
マサヒロの好きなように出来る。
誰かに指図されたり、掣肘を加えられることはない。
自分の好きなようにやっていける。
極端にいえば、何もせずに飢え死にする事を選んでも良いのだ。
さすがに野垂れ死にはご勘弁だが。
それでも、何をどのように進めるかを決められる自由がある。
必要な情報や知識を得なければならないが。
手にした情報から今後を考えねばならないが。
そういった負担はあるが、それでも誰かに何かを決められる事は無い。
自分で決められる。
これが途轍もなく大きい。
調子が狂う事がない。
だから何とかやっていられる。
前世の一人暮らしを思い出す。
あの時感じた開放感。
もう惑わされれずに済む。
面倒な事を押しつけられなくて済む。
確信できたその事実にマサヒロは気持ちが楽になるのを感じた。
以後の人生は本当に楽なものだった。
何かを達成したりといった事はなかったが。
そんな事どうでもよかった。
上を目指すとか、成功するとか、成り上がるとか。
そんなのはやりたい奴がやっていればいい。
やれる奴が目指して手にすれば良い。
そこまでの能力がなかったマサヒロには荷が重すぎる。
せめて自分なりの速度で事を運べれば良かったのかもしれないが。
母親によってそれは阻まれた。
無理やりやらされ、急かされていた。
そんな状態でやる気など出てくるわけがない。
身になったのは、一人暮らしをしてから始めた事だけだ。
古流武術もその他の資格修得も。
あらためてやってみたいと思う事は上手くやる事が出来た。
時間はかかったが。
迷宮探索はそれと似ていた。
自分の速度で、自分の調子に合わせてやっていける。
とりあえず食えるところまでは来ることが出来た。
大きな事は出来ないが、無理をしなければ死なないで済む。
あとは少しずつ装備などを調えていけばいい。
生きて長く活動する事が出来る。
死と隣り合わせではある。
だが、自由はある。
その自由がマサヒロにはありがたいものだった。
「これ以上の無理はしないでいこう」
ケンとダイゴにもそう告げる。
「暫くは、いま戦ってるところで稼ぐ。
その間に装備を揃えていこう」
特にいつまでと決めてるわけではない。
だが、半年くらいはのんびりと稼ごうと思っていた。
それくらいの時間があれば、最低限の武装は出来るはず。
そこから先は、それから考えれば良い。
そう考えていた。
ケンとダイゴも、それだけの時間があれば武器や防具を新調できるはず。
マサヒロからもそう促していく。
ただ、これは試験でもある。
ケンとダイゴを見極める事も含めている。
稼ぎを全部買い食いなどに使ってしまうか。
ある程度の買い食いはしつつも、必要なものを揃えるために努力もするか。
やるべき事がやれる人間かどうかを確かめる。
そういった思惑もあった。
酷い事かもしれない。
だが、命をあずけてこの先も一緒にやっていけるかどうか。
それを確かめないではいられない。
たとえ同郷でも、駄目なら切り捨てる。
そのつもりでマサヒロは行動していく。