15 武器選び
ありがたい事に寝床は探索者協会にある。
よく言えばカプセルホテル、正直に言えば押し入れのような寝床が。
人間が寝転がれるだけの空間。
そんな部屋が連なってる宿舎が。
居住性など全くない。
ただし、探索者なら格安で利用できる。
まずはここに入ることにした。
路銀もろくに無いので選択の余地は無い。
とりあえず安いという最高の利点をありがたく頂戴していく。
その上で、装備を揃えていく必要がある。
なにせ武器も防具もないのだ。
これで迷宮に入ったら確実に死ぬ。
それは出来るだけ避けたい。
とはいえ、手元の金ではまともな武器を買うのも心許ない。
追い出す子供に村が支度金を弾むわけがない。
多少の路銀は渡してくれたが、それで装備品を買うことは不可能だ。
安いものでも数万円はする。
手元にある金はそれこそ数万円ほどだ。
武器を一つ買えば終わってしまう。
さすがに三人で武器一つというのは避けたかった。
全員が何かしら装備をしてる状態にしたい。
何とかならないかと考える。
その為に、まずは怪物のことを探る。
迷宮に出て来るのはどんなものなのか。
それを調べていく。
相手がなんなのか分からなければ戦いようがない。
どんな武器が有効なのかも分からない。
ありがたいことに、その為の資料も少しはあった。
利用者はほとんどいないようだが、これまでも目撃証言などが残ってる。
とはいえ、前世の図鑑のように詳細なものではない。
下手くそな姿絵と数行程度の説明があるだけだ。
それでも数少ない情報である。
手短にではあるが、出来るだけのことは調べた。
そうしてから、探索者協会に併設されてる武器防具の販売所に行く。
今の自分達で用意できる武器で、もっとも効果的なものを選ぶためだ。
手元の資金と並んでる武器や防具を見ながら必要なものを考えていく。
その果てに手にしたものを買っていく。
「そんなもんどうすんだ?」
販売所の人間が不思議がっていたが気にしない。
「まあ、色々と」
適当なことをいって誤魔化す。
そうして手に入れたのは、安物のナイフと150センチくらいの長さの棒。
これを三人分。
それと、一束いくらの紐だ。
おおよそ武装とは縁遠いものである。
だが、これで充分だった。
「それじゃ、飯にしよう」
一緒に来てる二人に声をかけて食事を済ます。
そろそろ夕方になってきてる。
他の探索者も帰ってきてるのか、人が増えている。
席が埋まる前に食事を済ませておきたかった。
なにより、人があつまれば余計な面倒が起こる可能性がある。
そんなことに巻き込まれる前に必要なことを済ませておきたかった。
二人を促して食事を済ませる。
一人、一食1000円。
たいして上手くもない料理にしては高い。
そう思いながらも腹に入れていく。
前世に比べて味気ないだけで、この世界では一般的な味付けだ。
文句をいうほどまずいわけではない。
食えるだけマシである。
それを終えてから二人を伴って宿舎に。
まだ余裕があるので三人分の部屋をとる。
押し入れのようなカプセルホテルの一室に三人が入るのは無理がある。
金がなくなればそうなるかもしれないが。
今はまだ手元に金がある。
それを惜しみなく使う。
ただ、マサヒロはすぐに寝る訳ではない。
二人に買ってきたものを渡す。
「少し手を加える」
やり方を説明し実際にやってみせる。
それを見て、同行者の二人も作業を進めていく。
棒の先端にナイフを結びつける。
そうして即席の槍を作る。
武器と呼ぶのも躊躇う粗雑なものだ。
だが、手元の金でどうになるのはこれくらいだった。
それでも、今のマサヒロ達にとっては最善だと考えた。
ナイフだけでは間合いが短くなる。
棒だけでは殺傷力がない。
ある程度の攻撃範囲と殺傷力を求めたらこうするしかなかった。
何より値段である。
手に入れたナイフは売られてる中で最も安いものだった。
その分粗雑な作りで切れ味も悪い。
だが、金属の刃はそれだけで殺傷力を持つ。
棒で叩くよりはるかに。
出来ればしっかりと作られたものが欲しい。
だが、買うだけの金がない。
こういった粗雑なもので当面はしのぐしかない。
手元の戦力は三人。
うち二人はマサヒロよりも年下。
戦力として頼れるものではない。
正真正銘の子供なのだ。
そんな子供を戦力として使わねばならない。
僅かな手持ちでやれることは全部やるしかなかった。