67話
あれから3ヶ月程の月日が経過した。
私は妹の琴音との共同生活を余儀なくされている。
しかし案外に悪く無い生活だったりする。
朝起きれば朝食が用意されているし掃除に洗濯なんかもされている。
私が何も言わなくても琴音は炊事洗濯を勝手にこなしてくれる。
まさに駄目人間製造機である。
ただ無駄に口うるさいのが玉に瑕だが。
変わった事と言えば……という程ではないが琴音は予定調和の如く生徒会長選挙を勝ち抜き生徒会長の座をその手にした。
一部の3年生からは批判の声も確かにあるものの1年と2年の大半を味方に付けているのが大きい。
3年の声をもみ消して余りある力があった。
生徒会長となった琴音はまず最初にジャブとして校則の改定法案を提案した。
厳密に何をしたかというと髪型や服装の縛りを今より緩い物に変えるといった物だ。
この学校は校則自体はそうおかたいものではない。
しかし一部女子から不満があるのも事実。
ここ最近の生徒会長が男続きでその辺りの縛りが全く改善されなかったがために女子からの不満の声は確かにあった。
そこに琴音が打ち立てた改定法案によって女子達は琴音への印象を改める事となったのだ。
もとより女子から人気のあった前生徒会長の四ノ宮をおい落とした形だからその女子を味方につけるのは必然だったのだ。
女子の陰湿な部分は無視していいものでは無いと言うのは女子が一番理解している事柄だからな。
結果的に化粧の濃い奴や髪の色が派手な奴やスカート丈が短いやつが増えるのだがそれはまぁ仕方のない事だろう。
教師達が難色を示すかと思ってたが彼等も校則である程度まで許容された服装をワザワザ指摘などしなかったのは一々指摘するのが面倒だという本音があったからにほかならない。
後は教師も人間だ。
学生時代は一度だけ、好きにやらせてやればいいという考えの教師もいればスカート丈の短くなった女子を目の保養とだらしない視線を向ける男性教師は見て見ぬ振り。
まぁ例外はいるようで昔ながらの面倒くさい固定観念に精神が支配された大人は何処にでもいる。
そういう教師は琴音アンチ派閥の3年を味方に入れて琴音へのバッシングを行っているが
「アンチはある程度はいてもらった方がいいですよ、アンチの存在は知名度の向上と悲劇性の演出に使えます、まぁ維持の難しさがネックですけどね」
と琴音は漏らしている。
兎にも角にも新生生徒会はまずまずの走り出しとなった。
さてメンバーだが予定通り会長様は我が誇らしき妹様こと前園琴音だ。
その万能生徒会長ぶりは本物でまじで殆どの仕事は自分1人で熟していて私は殆どなんもしていない。
そんな私はお飾り副生徒会長の前園明だ。
顔が良いのと乳がデカイくらいしか取り柄がマジでない。
そして書記が私等姉妹の幼馴染みの只野康太。
こちらもいるだけ要員だ。
マジで何もしてない。
そして最後に会計の城島武君だ。
何気にコイツが私的には一番の驚きだ。
琴音の推薦で会計になったという経歴だけで驚天動地の人材だ。
なにか秘密があるのかとこの数週間は彼を見ていたが何も変わったところがない。
というか平凡だ。
たしかに頭は康太より断然いいがこの学校全体で見れば平均だ。
突出した才能があるようにも見えない。
まぁ私に害があるワケでもないので気にしない様にしている。
さて康太だがここ最近は放置している。
イライラした気持ちは瑠衣ちゃんや笹木君などの友人に愚痴ったおかげで幾分晴れたし、最近は彼等と遊びに行く事が増えた。
学校帰りに食べ歩きしたり他の友人が勧めてくれたカフェにいったりともともと甘党だったので甘い食べ物はいくらでも入る。
勿論ただ食べているだけでは体型は維持出来ないので運動はしている。
瑠衣ちゃんとジムにいったり早朝ランニングをしたりだ。
そうやって家にいる時間を少しでもへらしている。
あとアルバイトも実は継続してやっているので琴音のヤツが家に居たところで会う時間は限られるし家にいたとしても私は基本部屋に籠もるので会わないのだ。
そんな感じでダラダラ過ごしていたら3ヶ月が過ぎていたのだ。
時間の進みってマジで早いな。
もうそろそろテスト時期なので本来ならそろそろ康太の勉強を見てやらないといけない。
アイツは地頭は悪くないが勉強が嫌いなので成績はキープされないのだ。
まぁその心配もない。
琴音が多分アイツの家に見に行っているだろうし。
歳下の後輩に教えをこうのはどうなんだと問いたいがアイツが望んだことなのだから仕方ないのだ。
私は瑠衣ちゃんやその彼氏の笹木君、ほかにも仲の良いクラスメイトの友人と喫茶店でテスト勉強中だ。
勿論私に色目を向けてくる明らかにゲスった目的を持った連中は除外した安心安全なメンバーだ。
もっとも厳選には苦労した。
私と瑠衣ちゃんとでこの学校2大トップの美少女なのだからそこに加わりたいと考える奴は男女関係なく沢山いる。
所謂カーストトップグループと呼ばれる存在に近いあれだと思う。
だから陽キャ達からすればここに属する事はヒエラルキー的な面でも大きな意味を持つらしい。
私と瑠衣ちゃんとそれに並ぶ美少女が数人加わればこうなるのだから面倒くさいなと思うのも仕方ないのかなと。
そんな感じでテストは無事に終わり私はそれなりの点数を取る結果に終わった。
成績がそれ程ではない瑠衣ちゃんも今回の勉強回で大きく成績をのばして笑顔ホクホクだ。
美少女が笑顔だと目の保養になるな。
そして康太だが、奴は全教科で赤点を連発していた。
琴音に勉強を教えて貰っていたのにだ。
まぁ…
わかっていた結果だがな。
琴音は天才だがそれは自分自身に対してのみに送られる称号であって他人に勉強を教えることにはとことん不向きだ。
それはそうだ、過剰な自信と自己肯定の化身である琴音は他人の内面を推し量る事が極端に不得手だ。
そんな人間が他人に勉強など教えれる筈がない。
だからこの結果は目に見えていたのだ。
しかしこれは康太自身が選んだのだ。
だから私は今回何もしない。
康太を放置するのだ。
「はぁ…」
僕は深い溜息を口から吐いた。
琴音ちゃんが当たり前の様に生徒会長となりその人気は予想以上のモノになって彼女は一躍人気者になっていた。
あの生徒会長選挙から既に3ヶ月が経ち琴音ちゃんが学校の有名人としてその名が浸透するまでそこまでの時間はかからなかった。
琴音ちゃんは若干堅かった学校指定の制服周りの校則を緩めるとかして女生徒から人気を集めている。
また決断力に秀でていて即決即断でバシバシ仕事を熟す。
まさに若手の女社長みたいだった。
僕は以前彼女に言われた通りに生徒会の書記を任されているが彼女がその書記の仕事までついでにやってしまってまさにやる事がない状態…ほんとの意味でお飾りだった。
また過去に比べ彼女が丸くなったのは個人的には大きく綺麗な黒髪に敬語を主とした丁寧な話し方、また僕にたいして妙なまでの優しい態度から僕は彼女を完全に誤解していた。
いや、忘れていた、あるいは現実から逃避していた。
彼女は変わってなどいなかった。
あのまま…昔のままの琴音ちゃんだったと気がつくのに時間をかけ過ぎてしまっていたのだ。
たしかに昔の琴音ちゃんとは明らかに異なるところがある。
それは謎に僕に執着している所だ。
昔はこんなに執着してなかったと思う。
というか露骨に嫌われていたから僕のほうが避けていただけか…。
今の琴音ちゃんは一見丸く、優しい清楚な女の子になっていた様に思えた。
だから勘違いしていた。
彼女は僕の苦手な頃の…いや下手するともっと厄介な存在になっているのかもしれない。
「はぁ…鬱だ。」
そんな事を先生から手渡された25点と書かれた用紙を見ながら思ったのだ。




