64話 新しい学期
翌日の事だ。
朝の麗らかな時間。
僕はこの時間が割かし好きだったりする。
朝陽が昇りきらず若干の肌寒さが眠気を払い除けてくれるし、僅かながらに余裕のある早朝のこの時間はなんだか特別な物に感じられる。
まるでこの世界には僕しかいないような妙な寂しさもこの時間でしか感じられない独特の空気感があって好きなのだ。
最近はなにかとワチャワチャとした騒がしい事が多かったためこういう時間は貴重だったりする。
あと学校に行く時間が迫ってくると何かと手を動かしたくなるので家のトイレ掃除や風呂掃除に食器の洗浄などはこのタイミングでやる事が多い。
学校から帰ってくると面倒でやらないから結局はこの時間がもっとも効率が良いのだ。
とまぁこんな風にいうと掃除が行き届いてるイメージを持たれるかもしれないが勘違いしてほしくないのはなら僕の部屋は片付いてるのかと問われたら別にそうではないのだ。
常に掃除しているわけではないし掃除自体はそんなに好きではない。
朝にやれば良いやって考えは常日頃から掃除をやってないのと同義なのだ。
つまるところ僕の家は掃除が行き届いて無いし綺麗か汚いかで言えば汚い方にかたむく。
それを昨日琴音ちゃんに指摘された感じだ。
琴音ちゃん…
前世においては僕を見下し露骨に馬鹿にしてきた一つ歳下で幼馴染みの少女だ。
姉のアキラ君に負けず劣らずの美人さんで何もせずともただそこにいるだけで注目を集めてしまえる圧倒的美貌を備えている。
本人も自分が美人である事を自覚し、それを利用する事に一切の躊躇はないが自身の美貌に酔いしれ驕り高ぶったり胡座をかいたりはしていない。
前世における琴音ちゃんはまさに女版魔王みたいな人間で人を上か下で区別して下と判断した人間は物扱いと徹底した合理主義者だった。
また他人を見下して悦に浸る愉悦家な側面ももっていた様に思える。
しかし今世においては随分マシになっていて彼女から見下されたり馬鹿にされたりなどは基本的に無い。
また他人をむやみに貶したりしていないのでホントにあの琴音ちゃんかと疑いたくもなるが昨日のあの一見を見てしまえばああ…琴音ちゃんだなと理解させられてしまうのだ。
そんな琴音ちゃんから昨日言われたあの言葉。
アキラ君と僕に生徒会選挙の手伝いを依頼してきたあの話だ。
アキラ君はわかる。
彼女はこの学校において人気者だ。
スクールカーストの天辺に君臨しているアイドルだ。
表向きには清楚に振る舞っているため彼氏(僕)がいるのに未だに告白されているらしい。
まぁ恋愛相手が僕なため釣り合ってないしワンチャンあるんじゃね?といらない希望を抱く連中が一定数いるのは理解出来るが。
生徒会選挙にそんな僕を巻き込むのははっきり言って悪手だろうし上手く行かなかった場合の責任を取らされるのではないかと気がきでしかない。
靴を履いてカバンを持って玄関ドアを開ける
見送りに来る親は一人暮らしなので当たり前だがいない。
だから行ってきますなんて言わなくなって随分経つなーなんて思いながら家を出る。
家の前には二人の美少女がいた。
見てくれがインフレしている美少女が二人いるのだから朝から目が破裂してしまいそうだ。
周囲のサラリーマンのおっさん達の視線が図らずも彼女達に集まっている。
前園姉妹の揃い踏みだ。
まぁ昨日から揃い踏みだけど……。
こんな美人が姉妹そろって待ってくれているのだからリア充かどうか問うまでもなくリア充に分類されるのだろうが僕という人種はそれを否定したがる。
「おはよう康太」
「おはようございます康太兄様」
「おはよう…二人一緒だとは思わはなかったよ。」
「ふふ、コレも戦略の一貫ですよ、戦いは既に始まっています。」
「ふーん……えと何の話?」
「生徒会選挙だよ、私はコイツを支援する事にした」
「え?意外!!……でもないか…それしかないよね…実際…」
「まぁそういうこった。」
「というワケなので康太兄様も宜しくお願いしますね?」
「それなんだけどね?琴音ちゃん?」
「はい?」
「僕なんかが琴音ちゃんの力になれるとはどう考えても思えないんだ。というよりあきらかに足を引っ張る結果になる、だからさ…」
「ふふ、心配には及びませんよ康太兄様。
琴音の役目は康太兄様の能力を引き上げる事です、それに自身が非力、凡才であると認めれるのは一つの勇気です。人として魅力的なんです。
やろうと思って出来る事ではありませんよ。」
「え?えっと…だから…」
「安心してください、康太兄様は琴音の隣に立っていて下さるだけで構いません、それが琴音の力となりますから。」
何この子?
ホントに琴音ちゃん?
あの琴音ちゃんなの!!?
あの目が合えば舌打ちしてきた琴音ちゃんなの!?
僕だけに全肯定ムーブとかオタクの理想の具現化なんだけど!?
もともと凄い嫌われてた前世の反動からくるデレ期のパゥワァーが半端ない!!
黒髪ロング清楚歳下幼馴染み美少女生徒会長(予定)半端ねーぞおい!?
「おい!康太!」
「うひぃ!?」
アキラ君が凄い睨みながら僕の耳をつまんで引っ張ってくる、耳元でコソコソと小さな、しかしドスのきいた声で言われる。
せっかくの囁き生音声だが怖いせいで台無しだ。
「てめぇ…なに琴音に対して満更でもなさそうな態度とってんの?舐めてんの?ねぇ?」
「落ち着こうね?アキラくん?」
「あ?私はいたってcoolだぞ?」
「まって!そのcoolはKoolの方でしょ?」
そんなアホないつものやり取りだが僕等のやり取りの意味がわからず頭に?マークを浮かべている琴音ちゃん
「どういう意味ですが?」
「あぁ…えと、オタク界隈の造語だよ、」
「別にお前が知る必要は無い」
「へえ…面白そう。」
「琴音がお前のせいで変な事に興味もったらどうすんだ?」
「えー、そんなぁ…」
「ふふふ、」
朗らかな笑みを浮かべる琴音ちゃん。
ホントに清楚である。
前世の彼女と同一人物とは思えない程の清楚率だ。
こんな純正の清楚美少女が現実にいていいのだろうか。
またアキラ君に耳を摘まれた。
学校が近づいてきた。
それに比例して他の生徒もちらほら見えてくる。
今日はアキラ君に加えて琴音ちゃんまでいる。
周囲の連中の興味は当然この姉妹に寄せられる。
陰キャは遠巻きに、陽キャはこの機会にと距離を詰めてくる。
必然的に僕は何時ものように存在感を消して空気と同化してこの場から離れる………事は出来なかった。
「何処に行くのですか?康太兄様」
がっしりと腕を琴音ちゃんに掴まれていた。
ニコニコと笑顔でこちらの顔を上目遣いで見上げてくる
何処でこんな媚びた態度を覚えて来たんだ。
しかし目は笑っていない。
気分は蛇に睨まれたカエルである
高校1年になりたての少女が出して良い圧ではない。
「あ……いえ…」
「はぁ…情けないヤツ…」
アキラ君の憐れむ目線がとにかく痛かった。
そうこうしていると周りの学生達に取り囲まれていて逃げ出せなくなっていた。
完全にタイミングを見誤ってしまった。
美少女姉妹の側にいる異分子の僕の存在に敵意を向ける者達の視線が怖い。
何故またお前がいるんだよと視線がそう言っている。
前園さんの彼氏として一定の理解を得たここ最近だけど妹の琴音ちゃんに対してはそうではないらしく彼等の目線は前の敵意に塗れた物に戻っていた。
「おはよう前園さん!」
「はよ!アキラちゃん!」
「妹さんもおはよう!」
「ねぇねぇ琴音ちゃんって呼んでいい?」
「琴音ちゃんかわいいねー髪サラサラ!」
「何処の美容院つかってるの?」
前園親衛隊、いや前園姉妹親衛隊は彼女等姉妹を取り囲んで質問攻めだ。
確信に迫るものではなく軽いジャブから攻めているのがセコい。
そして……。
「よっ只野」
「おっすー、只野!」
僕にも話かけてくる奴もいた。
「只野がここに残ってるって珍しいじゃん」
「どしたの?」
「ああ、いや、抜け出すタイミングを逃してね」
「マジかよそりゃ災難」
「つーかお前正直過ぎw」
「俺等お前ともじっくり話してみたかったんよ、これから同じクラスだし1年宜しく頼むよ只野。」
「え?あ…うん。」
「俺は蔵田総悟!帰宅部だ。」
「俺は村田仁、バスケ部……の幽霊部員だ。」
「え…と、宜しく?」
「おう!よろしく!」
「まっ適当に仲良くしてくれよ。」
見た目陽キャ丸出しの外見だったから警戒したが割かしフレンドリーで安心した。
でも油断はならない。
友達のフリしてアキラ君…前園さん目当てだ近づいてきた可能性は十二分にあるのだから。
「そんな警戒すんなよ、お前の彼女目的じゃねーし、そもそも俺等彼女いるし、浮気とかしたら殺される」
「そだそだ。」
「え?あ…ごめん…てっきりアキ…前園さん目当てかと思って……。」
「俺等も俺等の彼女も所謂カプ厨派閥だからな、仲を割く気はさらさらね〜よ。」
「え?カプ厨派閥なんだ…そっか、なんか実際に明言してる人って初めて見たかも…。」
「はは、そりゃ自分でクラスの奴に対して俺お前等のカプ厨ですとか普通言わねーしな。」
「端から聞いてたら何言ってんだコイツ感凄いしなw」
「そりゃまぁ…確かに…」
「だろだろ…てっ何おぉ!こいつぅ〜!」
「はは!やったれやったれ!」
グリグリと肩を軽く小突いてくる蔵田君と村田君。
新しい学年と教室に不安が無かったワケではない。
前世で体験していたからと言って慣れるものではないし緊張するモノはするのだ。
ましてや前世ではアキラ君以外で友達などはほとんどいなかった。
だからこれは最先の良いスタートなのかもしれない。
そんな風に思った。
もしこの小説を読んで少しでも面白いと思われたなら、ブックマークや、↓の★★★★★を押して応援してもらえると幸いです、作者の執筆モチベーションややる気の向上につながります、お願いします




