62話 明と琴音
結論から言えば僕等は琴音ちゃんの提案…と言うなの命令に従う他無かった。
まぁ僕個人でいえば突っぱねてもよかったのだがアキラ君は逃げられないポジションにいるため必然的に僕も巻き込まれる事となった。
僕等が琴音ちゃんの生徒会選挙の参加に対して支持活動をしなかった場合彼女は生徒会選挙自体から降りるとの事だ。
勝手にすればいいじゃんと思ったがどうやらそれでは明君には都合が悪いらしい。
「あのクソ女の事だ…私のせいで落選したとか言われたら親共から何されるかわからん……。」
優秀な妹の足枷となる姉など前園家両親が許容するはず無いだろう、最悪一人暮らしさえも撤回させられ家に拘束され再教育だとかなりかねないとはアキラ君の弁だ。
琴音ちゃんの生徒会選挙の参加とそれの支持、また琴音ちゃんが生徒会に加わり生徒会長になるようにしなければならない。
そうしないと親が動くかもしれない。
家に連れ戻されないためには琴音ちゃんを生徒会長にするかあるいは最悪アキラ君自身が生徒会長になるなんて未来すらあり得るのだ。
面倒くさい事この上ない。
結果として康太と明は琴音を手伝う事となったのだがそれは康太の生徒会加入を意味する。
康太的には場違い感が半端ない。
見てくれからしてぱっとしない根暗陰キャで成績だって下から数えた方が早いような奴が学校の花形たる生徒会にいて良いのか?
良いワケがない。
ただでさえ学校1の美少女前園明の彼氏として良くも悪くも顔が知られてる康太が次はその妹である琴音の支持とその先の生徒会入など確実に面倒くさい事にしかなり得ない。
最先が不安でいっぱいだった。
だがしかし明ほどではないにしろ康太にとっても彼女は怖い存在だ。
琴音を敵に回せばそれ以上に面倒な事にしかならない。
従う以外の選択はなかった。
康太と明、そして琴音は康太宅のリビングに腰掛けていた。
康太と明が隣同士で座り、対面に琴音が座っている。
帰る気はさらさら無い様でコレでもかと言わんばかりの笑顔を浮かべている。
普通実の姉からここまで敵意を向けられたら萎縮して縮こまりそうなモノだが彼女にかんしていえばそんな事は無くむしろ楽しそうですらある。
(メンタル化け物かよ…。)
「それで琴音がわざわざここまできたのは私達に生徒会への当選を有利に進める手伝い…、というよりは生徒会役員への参加を打診するために来たのですか?」
「はい…まぁそれが大本の目的であるのは間違い無いのですがお二人が普段どの様な生活を送っているのか個人的に興味があったのでそれを突き止めに…まぁ康太兄様の住処は少々ホコリ臭いので後日大掃除を予定してますが」
「いやあの琴音ちゃん…掃除はまた今度しとくから琴音ちゃんは気にしないで…」
「それはやらない人の常套句ですよ?康太兄様。大丈夫安心してください、琴音お掃除は得意なんですよ?」
「えー、あーいやそういう意味ではなくてですね~…」
「琴音。」
「はい?何ですかお姉様?」
「貴方……実家から高校に通うつもりですか?それとも…」
「ふふ、お姉様とくらします。」
「はぁ…やっぱりか…でも貴方の寝具とかありませんよ?どうするつもりですか?」
「その心配なら必要ありません、今頃運び込まれてますから…」
「今頃…運び込まれて?」
「はい!」
「はあ〜…。悪夢だぁ…。」
明はとうとう脱力して陸に打ち上げられた魚のように机にうなだれた。
琴音はそんな姉の様を見てあらみっともないと見下していた。
琴音ちゃんには悪いが見下していたという表現以外思いつかない程度にはそう見えたのだから仕方無い。
康太はそんな風に思った。
結局その日は琴音に部屋の中をウロウロ見られ気が気でなかった。
それでも勝手に机やクローゼットを開けないあたり育ちの良さがにじみ出ているのが救いか。
その後二人は帰って行ったがあれ程に疲れた顔の明は見た事が無かった。
これからあの二人が同棲するのかと思うと色々不安ではある。
アキラ君は大丈夫なのだろうか…?
最悪だ。最悪過ぎてこれ以上最悪があるのかってくらい最悪だ。
私の家の中にはコイツの私物が運び込まれていた。
ご丁寧に空き部屋をまる事リフォームされてコイツ専用の部屋に改装されていた。
私が学校に行ってる間に業者にやらせたんだろうが仕事が早すぎる。
最近の業者は仕事が出来て凄いなぁ…ん…。
この手際の良さは前々から緻密に計画されていた物だろう。私に黙って引っ越しの話を進めていたコイツにも両親にも改めて怒りが湧いてくる。
前世から何処まで私をコケにすれば気がすむのか。
「明姉様すっごく怒ってる…そんなに琴音と一緒は嫌なの?」
「貴方は自分が嫌われている自覚があるのでしょ?ならどうして私を挑発する様な事ばかりするのかしら?」
「琴音はお姉様を挑発しているつもりはないのですが?気に触ったなら謝ります。」
「はぁ…。」
「でもお姉様?コレだけは言わせてください。淑女たる者がこんな荒れた生活ではいけません、生活の乱れは精神の乱れ、まずは部屋の片付けからしてみては?少しは変わるかもしれませんよ?」
「誰のせいだと…。」
「あら?琴音のせいだと?こんな体たらく、お母様が知ったらどう思われるでしょう?掃除も満足にしていないし食生活もインスタントや冷凍物ばかり…これでは太りますよ?」
「お前は…。」
「安心なさってください、別にお母様に告口する気はありません、琴音はただここにいたいだけですから。」
「貴方…本当にどういうつもりなの?何故そんなにここに…私に固執するの?」
「姉に固執する妹がそんなに嫌ですか?明姉様…琴音からすればどうしてこんなに嫌われているのかわからないくらいですよ?嫉妬や僻みだけではない様に思えます。」
「……はぁ…、悪意なく人の嫌がる事をやれるお前のソレはもしかしたら才能なのかもしれないな」
「才能ですか?」
「まぁいいよ、どうせ何を言っても結局親の庇護下にある私に出来る事なんて少ない、好きにすればいいよ。」
「なら琴音お姉様の手料理が食べたいです」
「はあ?」
「いつもお姉様が食べてるモノでお願いしますね?琴音に合わせて取り繕って頂かなくて結構です。」
「なに?お母様から私の食生活を監視するようにでも言われているの?」
「いえ、これは琴音の願望です、明姉様が普段食べてる物がどんなのか知っておきたいだけです。」
「ふーん…、」
コイツはさっき完璧はつまらない、不完全こそ面白いとか言っていったけかな……。
自分の事を完璧と思っている傲慢な所も腹立たしいが自分は人を見下す権利がある。
見下す事が当たり前みたいな価値観を持っている事も十二分に腹立たしい。
こんな風にならない為に子供の頃はなるべく一緒にいたが前世から続くコイツへの苦手意識が消える事はなく私は徐々に距離を空け始めた。
それが駄目な事だとわかっていたはずなのに、いや中途半端にコイツに干渉したことが既に間違いなのだろう。
半端な干渉が琴音をモンスターに作り変えてしまった。
コイツをモンスターにしたのは多分私なんだろう。
前世と同じように何もしなければ親の英才教育のもとコイツは前世と同じ他人をただ見下すだけの愚者で終わっていた。
しかし今世で私が干渉したせいでコイツは見下す他人を見て愉悦する化け物になってしまった。
とんでもないな、全く。
私はリビングのテーブルの上に鍋を置いて加熱させる。そこに手製のダシをブチ込みそこに野菜や肉などの食材をブチこんでいく。
中にあきらかに鍋に入れるにはミスマッチな汚物も入れるのを忘れない。
康太専用に取っといたアキラスペシャルだ、くらいやがれ琴音め!
余りの不味さに二度と私に手料理を要求しようなんて思わないだろうよ!
「お鍋ですか?」
「鍋は簡単に上手い物が食えて栄養もとれる一石二鳥の料理だ。」
「料理と呼ぶには実に簡素ですね。」
「馬鹿野郎が、私秘伝の出汁にはそれなりに手を加えてある。簡単じゃねーよ。」
「ふむ。」
「そもそも一人暮らししてたら見栄えとかどうでも良くなる、手っ取り早いのにシフトするのは必然だろうが。」
「成る程…効率を重視している訳ですか…流石明姉様…。」
「馬鹿にしてる?」
「え?」
「え?」
「………、」
「………、ここのエリアは出来てるぞ?」
「あ…はい、いただきます、…あっ美味しい…。」
「…!……だろ?」
「適当な味付けなのに食が進みますね…。」
「文句あるなら食うな!」
パクパクと箸を動かしてつかんだ食材を口に運ぶ琴音は明の食うな!発言など聞こえていないかの様に食べている。
時折ハフハフと口の中に入れた物が熱かったのか涙目になりながら悪戦苦闘している。
水を差し出してやるとそれをひったくるように受け取ってゴクゴクと飲み込む。
そして鍋に箸を突っ込む。
「これは、ほふはふ…なかなか…モグモグ…」
「噛んで飲み込んでから喋れ…お行儀はどうした?」
「……、モグモグ。」
若干頬を赤らめながら琴音はフグのように膨れた頬をモゴモゴさせながら咀嚼に専念していた。
しかし唐突に琴音の表情が苦悶に変わる
「うげぇ……まっっずっ!?」
「おっ?あたったか?」
琴音の顔が苦渋に染まる。
どうやら隠して入れていたアキラスペシャルに当たったようだ。
「何ですかこれ?」
「お姉様特性スペシャルだ!」
「はぁ…また幼稚な真似を…食材への冒涜です…。」
「ははん!黙れ小童が!」
「お母様の献立からはまず出てこない料理ですね」
「あの人はこういう有り合わせを嫌うからな、何でもかんでも形に拘る、悪い癖だよ。」
「そこは琴音も同意ですね、男性軽視も過去の何かしらのトラブルから来ているのでしょうがそれを琴音達に押し付けないでほしいです。」
「なんだ…お前もそんな風に思ってたんだな。」
「お姉様にお母様を押し付けられましたからね、辟易する程度には思ってますよ。」
「今まで生きてきて初めてお前を人間だと思えたよ。」
「ふは、酷い言われようですね。」
「それで…?」
「はい?」
「私と康太を生徒会に入れたい本当の理由はなんだ?」
明は琴音に核心に迫る質問をする。
それが…その答えが妹との今後の付き合いに大きく関わる質問だと覚悟を決めて。
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