61話 琴音襲来
ピンポーンピンポーンとインターホンが押される。
まるで早くドアを開けろここにいるのはわかってるんだぞと言わんばかりの行動だ。
(おい康太誰だ?)
(琴音ちゃんだよ)
(はぁ?なんで琴音がここ知ってるんだよ!?お前まさか…?)
(違うよ!変な誤解するな!琴音ちゃんを家に招いた事なんて無い!)
(じゃなんでアイツお前の家の場所しってんだよ!?)
(そんなの僕が知りたいよ!)
小声でコソコソのやり取りをするが今もなおインターホンは音を奏でている。
ピンポーンと。
しかししばらくすると音は止み静寂が訪れるがその静けさは一瞬のものだった。
「康太兄様、明姉様、ここにいるのは把握しています。開けて下さいませんか?ドアスコープからこちらを覗いてるのでしょう?」
(………どうする?)
(どうするってお前…居留守一択だろ!常考!)
(………だよね…。)
「…なるほど…これが噂に聞く居留守というヤツですか…。流石は琴音の敬愛するお姉様とお兄様方です。ならこうしましょう。ここで琴音が大声で叫んでお兄様方が部屋に入れてくれないと叫び周目の注意を集めれば…」
ガチャ…。
「やぁ琴音ちゃん。」
「あら康太お兄様…やはりいらしたのですね?」
「ごめんごめん、トイレに入っててさ、すぐに出られなかったんだ。」
「そうでしたか、それは急かすようなマネをして申し訳ありません。てっきり琴音、噂の居留守なる行為の犠牲にあってるのかと早合点していました。まさか康太兄様がその様な低俗な事をなさるワケないのに琴音ったら」
「そそそ…そんなワケないじゃないか!嫌だな!はははー」
「そうですよね…ふふそれでお姉様…いらっしゃいますよね…?」
「えぐ!?え〜と…うん、いるよ…奥に…」
「なら琴音も上がってもよろしいですか?」
「え!!?上がるの!?琴音ちゃんが!?」
「あら?なにか不都合でも?」
「いえ…ないです…。」
結局僕は家に琴音ちゃんを招き入れる事にした。
まぁ招き入れるもなにもそれ以外の方法は無くもし断れば何をされるかわからない。
マジでご近所さんにいわれのない誹謗中傷をばら撒かれ免罪で後ろ指をさされザマァされる未来しか見えない。
ザマァするのではない。
される側なのだ、僕達は……。
「それで貴方は何故ここにわざわざ来たのですか?そもそも、どうやって康太の住所を?貴方には教えて無かったはずですが?」
「ふふ、明姉様に教えて頂いたんですよ?まぁ間接的にではありますが?」
「はあ?」
「明姉様ったら、早々に学校からまるで逃げる様に康太兄様を連れて下校なさるじゃありませんか?琴音とても気になりましてね、後を付けさせてもらいました。」
「後を付ける!?」
「はい!気持ちは童心にかえったようなモノでワクワクしていました!まるで優しかった頃の明姉様が戻ってきたみたいで嬉しくって琴音も楽しくなりましてね、そしてここに辿り着いたワケです。」
「はは…なんですかそれ……」
つまり琴音ちゃんを恐れるあまり彼女の尾行に気づかずもっとも避けて来た事態に直面した形になる。
それもその避けたい事柄の中心人物に突き止められるという最悪の形で。
明君の顔は始業式のときより真っ青だ。
後で舞野さんから聞いた話では琴音ちゃんの登場した始業式の時はそれはもう青かったらしい。
「しかしホコリ臭い所ですね?康太兄様はちゃんとお掃除してますか?こんな所に女子を連れ込むなど常識を疑います。」
「あ…その…すいません。」
「ふう、仕方ありません…今度琴音がお掃除のイロハを叩き込んであげますから康太兄様はしっかりと覚えてくだ…」
「いい加減にしろ!琴音…貴方は何しにここに来たのですか?それをまずは答えなさい。」
上機嫌に小言を言っていた琴音の言葉を遮り明が琴音に言葉を投げかける。
一瞬唖然とした琴音だがすぐに冷静を取り戻し明の目をしっかりとみて答えた。
「ごめんなさい明姉様、琴音少し楽しくなって本来の目的を忘れていました。では単刀直入にいいますね。」
明も康太も彼女が何を言い出すのか全く予想出来無いため生唾を飲み下して彼女から出てくる次の言葉に集中する。
「二人には是非琴音の生徒会選挙の支持者として琴音を支えて欲しいのです、そして琴音が生徒会長となった後は明姉様には副生徒会長に、康太兄様には書紀をお願いしたいと思っています。」
「はぁ!?ふっ…巫山戯るなよ!何故私達がそんな事をしなけりゃならない!お前の都合で私達を巻き込むな!したい事があんなら勝手にやってろよ!私達を巻き込むな!!」
琴音のあまりな発言にとうとう明は言葉を取り繕う事も忘れて琴音に大声で叫び散らすがそれを意にもかけず琴音はつらつらと思った事を言葉にしていく。
「はい!琴音のしたい事がお二人を生徒会に招き入れる事です。それに明姉様は琴音の誘いを断って良いのですか?良くないですよね?」
「はあ?なんでだよ?」
「ふふ、琴音は別に生徒会なんかに入らなくてもいいんです、もちろん生徒会長にも実際の所興味はありません。では何故琴音が生徒会長なんて面倒な事を今までしてきたと思います?本来お父様やお母様は明姉様にこそ期待をしていた。その明姉様は面倒事を全て琴音に押し付けた、琴音の方が才能があるからとそれらしい免罪符を付けて…。」
「………。」
図星だった。
賢い奴だし明の考えなど見通しているとは思っていた。
しかしここまで明け透けに言われてしまえば言い返す事も満足に出来ない。
「確かに琴音はありとあらゆる才能に恵まれています。天才だという彌次も受け入れましょう。明姉様がそれを利用するのも仕方無いでしょう。なら琴音もそれを利用し返しても明姉様にとやかく言う資格はないとは思いませんか?いいではないですか、美人姉妹が治める生徒会、きっと本校で長く語り継がれますよ?」
「何が目的……ですか?」
「そんなに怯えないでください…。琴音は単に皆と楽しく学校生活を送りたいだけです。中学はつまらなかった。こんなのがずっと続いて行くのかと絶望していました。ですが明姉様と康太兄様がいれば琴音の学校生活はもっと華やいだモノに変わるとは思いませんか?」
「全く思いませんが?そもそも貴方が私達に固執する理由はなんですか?貴方からすれば私達など路頭の石に等しい存在でしょう?固執する意味がわからない。」
「琴音は悲しいですお姉様、その様に自分を卑下しないでください。琴音は誰よりも明姉様を評価しています、琴音に無いモノを明姉様は沢山もっています、琴音はそれが恋しいのです。」
「琴音に無いもの?」
「はい、琴音は羨ましい…琴音は物心付いたころから褒めそやされて来ました。蝶よ花よと親の愛を献身を一身に受けて育って来ました。それは琴音にとっては当たり前の事で持つべきものが持つのは必然。才能の無い者より才能のある者が持て囃されるのは必然で当然だと思っていました。」
「……。」
「しかし姉様…貴方は琴音を愛してはくれませんでしたね?貴方だけが…不完全な貴方だけが完璧な私を拒絶しましたね?僻み、嫉妬、憎悪、険悪感、そんな感情を私にむけましたね?」
「…………。」
「琴音はいつしか姉の愛を欲しました、明姉様の愛を切望しました、だから尊敬しましたよ、明姉様から無償の信頼と愛情を寄せられる康太兄様を、親達なんかより余っ程……」
「………。」
「つまらない…二人のいる世界はキラキラと輝いて見える、この琴音にわからない世界を見せてくれる二人の世界はキラキラと輝いて見える。なのに琴音の世界は色褪せて灰色、つまらない、面白くない。だから来たのですよ…ここに。」
「…………、ホンットに身勝手な奴だなお前って……マジで身勝手の極意極めてるわお前……。」
「極意…?……お褒めに預かり光栄です。」
「褒めてねーよ」
「ふふ、持論ですが琴音はね、完璧程つまらないモノはないと思っています、それって伸びしろが無いって事ですもの、だから不完全な姉様が琴音には輝いて見えるんです」
「なに?お前私には伸びしろがいっぱいって馬鹿にしてるの?」
「そうではないですよ、欠損の美学とでもいいましょうか、人は完全なものより不完全なモノを美しいと感じる感性を持ちます、近いものだとアシンメトリー、左右非対称の物に美しさを感じる感性とかですかね?」
「なんの話をしてんだよ…。」
「まぁ…簡単に言えば琴音はお姉様の存在を尊い存在と見てるんですよ、なんだかんだ言ってお姉様の基本能力は高い、決して侮っていいものではない。ただ運動はからっきし駄目…。そんな不十分な所に言い様のない魅力を感じてしまう、今だってそう。」
「?」
「普段はお淑やかで冷静沈着、感情を表に出さないお手本のような存在であるお姉様がまるで抜き身の刀のように琴音に憎悪を向けてくる、琴音の心は悲しさと寂しさと喜びでめちゃくちゃなんですよ?」
「…………………、気持ち悪い奴」
小難しい言葉の羅列で混乱させられるが早い話が琴音ちゃんはアキラ君にギャップ萌を感じてるのか?
…となんともお馬鹿な結論に辿り着いた康太であった。
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