60話 恐怖の妹
何だコレは?どうなってるっ!?
はぁ?意味わからないんですけど?
何故琴音があそこにいる
why何故?
明の頭の中は混乱の只中にあった。
ここは安全なはず
ここにいる限り私はアイツに怯えなくていいはずなのだ。
それなのに何故アイツはここにいるのだ?
意味の無い自問自答を繰り返す明だがそこに答えは出てこない。
康太の予測通りに明の顔は真っ青だった。
ただ妹が現れただけで最悪だと言うのにその妹は明の名前を出して意味不明な言葉の羅列をつらつらと全校生徒の前で吐き出している。
もはや明のメンタルはグズグズの崩壊寸前だった。
周目の面前で心にも無い事を言って自己アピールをする化け物の心境など知りたくもない、勝手にやってろが明の本心だがそこに自分の名前を使われたりすれば話はまた違って来る。
(自分語りがしたいなら勝手にやってろよ、クソ女がよ、なんで私を巻き込む…ふざけんなよマジで…。)
挑発の一種だろうかこれは?
目指すべき高みだの頂点だのと言ってるが基本スペックはむこうが圧倒的に上だ。
私など所詮は前世バフで取り繕ってるだけのカンニング女でしか無い。
あんな化け物と張り合える程頭が良い訳じゃないのは自分が誰より理解していのだ…。
マジ勘弁して欲しい。
その後今年から生徒会長となったなんとか先輩と琴音が言い合っていたがそんなモノは頭に入って来なかった。
正確にはここに琴音がいる、それだけで私の頭はショート寸前だったから
(本来ならアイツは隣町のお嬢様学校に行く筈だ…その筈だ…なんで…じゃなんでここにいるんだ?まさかホントに私を追って……まさか…康太…?………ふざけんな…ふざけんな!ふざけんなよ!)
「アキちゃんどしたの?顔真っ青だよ?」
「え?」
声をかけてきたのは舞野瑠衣だった。
彼女は明の隣に立っているので明の顔が引きつっているのを間近で見ている。
「あっ、いえ…大丈夫です…」
「ふーん、アキちゃんが大丈夫なら良いんだけどさ…つーかあれアキちゃんの妹さんだよね?いやー凄いキャラ立ってんね、濃過ぎ!」
「あはは…」
「でも初っ端からあんな事して大丈夫なのかな?あれじゃ下手したらイジメのマトにされちゃわない?」
「多分…大丈夫でしょう。」
「多分って…?なんだかハクジョーだねぇ?」
「別に嫌味でいったんじゃないですよ…あの子はあれで周りに溶け込むのが上手いですからきっとそんな事にはなりません」
「新生徒会長さん結構人気あるよ?その囲いから狙われる可能性は高いと思うけど?」
「アレは根拠の無いことは絶対に言いません、おそらくですが自分の中で新生徒会長さんに勝てると確信し、それに基づく確固たる確証を得たからこそあぁ言う態度なのでしょうね。」
「ふーん、なんか…てかどうでもいいけどさ、アキちゃん妹さんの事嫌い?」
「え?……、はは…わかります?」
「まぁー友達だしね!」
「凄いですね、友達というのは、隠し事も出来そうにありません。」
「ま〜ねー!」
得意げに胸をはって満足気な舞野さん。
そこは胸をはるポイントじゃないからねと心の中で1人毒づく。
小柄な体付きのくせにやたらとおっぱいがデカイせいで
胸をはるととてもいかがわしい絵面になる。
昔、男だった頃はそんな彼女の仕草に目が泳いだモノだが女になった今も目が泳いでいる自分に人は性別が変わったくらいで根本は変わらないんだなと我事ながら辟易する。
始業式が一段落し教室に戻ってきたらクラスメイトに囲まれた。
康太と話してエグレたメンタルを回復しようと考えてたのにホントに散々だ。
しかもクラスメイトの囲い達の話題のネタはやはりというか当然というか妹…琴音についてだ。
「ねぇねぇさっきのあの子、前園さんの妹さんだよね?」
「明ちゃんの名前だしてたし確定っしょ?」
「姉妹そろってあんなに美人でかわいいなんて羨ましすぎー」
クラスメイトの女子達は最良のネタを見つけたと興味津々だ、男子達もそれは変わらず新1年の話題は琴音が全て掻っ攫っていたようだ。
それはそうだ。
私に負けず劣らずの容姿に加えてさっきのあの騒ぎだ、
もはやアイツは時の人だろう。
「琴音ちゃんって前園さんの妹だろ?可愛すぎね?おれ告ってみようかな?」
「いやいや、やめとけって、さっきの見ただろ?姉より難易度高いぞアレは?」
「いやいや、そんなんわかんねーだろ?」
「いや、コイツの言うとおりだろ?心が粉々に砕かれて再起不能になる未来しかみえないぞ?」
「えー?まじでー?」
男子共のアホ丸出しの会話が懐かしい。
私もあんな風に何も考えないで無心で生きていたい。
「それでさそれでさ!アキラちゃんはどう思う?」
「へ?何がですか?」
「もーだから!琴音ちゃんって生徒会長になると思う?」
「私は流石に無理だとおもうなー、入りたての1年が生徒会長とか漫画だよ!」
「それにさ今年から生徒会長になる四ノ宮先輩!
ちょーカッコいいし前生徒会長の九龍院先輩のお墨付きだしさー!!」
「そうですねぇ…なるんじゃないですか?琴音が生徒会長に…。」
ワイワイと盛り上がる皆の前で私は興味なさげにそれこそ吐き捨てるみたいにそういった。
しかしそれは私の思惑とは異なり、みんなには違って聞こえたらしい。
「あー!やっぱりアキラちゃんはかわいい妹さんを応援してるんだねー!」
「お互いを認め合う美人姉妹!くぅ〜尊い!」
「てーてーってやつだよねコレ!」
「…………はぁ…。」
もはやため息しか出てこない、かってに言っててくれって感じだ。
しかしあの妹様はホントに何を考えてるんだ。
私から康太を奪うつもりなのか?
そりゃ多少は仲良くやってくれる方が私も都合がいいから見逃してきたがこれは訳が違う。
前世でアイツは康太を虫を見る様な目で見ていた。
話す事自体が不快ですと言わんばかりの態度に康太は相当に疲れ果てていたのだと思う。
もう全くアイツの考えが見えてこない。
康太と私が幸せな未来を勝ち取る為には円満に関係を持つ必要がある。
その為に幼い頃からあの家族と上手くやって来た筈だ。
なのにこんなところで…。
親父は親族に会社を継がせたいと考えているが前世と違い私にそんな気は毛頭ない。
男では無く女になった私ではふさわしく無いと考えてるだろうし成績でも琴音には敵わない。だから親父が私を後継に選ぶ事はなく、琴音に目がいっている。
母親も私より琴音に注力している。
女になったから前世より随分マシな扱いだがそれでも随所に見られる前世の名残が諸々の動作に出ていてそういったモノが母親にマイナスイメージを持たせている。
そういった意味でも母親は琴音を女の子の完成形として見ていて前世と変わらず露骨に贔屓している。
あまり私個人に興味を持たれたくないのが本心なのでこれでいいが琴音が本当にネックだ。
康太を信頼してないワケじゃないが女子力の面では完敗だ。
昔と違って今の琴音は康太に何故か好印象だし、康太からしたら琴音はまさしく理想形だろう。
黒髪清楚系美少女なのだ。
康太の好みドンピシャじゃねーか…。
ふざけんなしマジで…。
これはもう少し攻める必要があるな。
色仕掛だ。イロジカケ!
もうなりふりかまっていられるか!!
女は度胸だ!
押し倒してひん剥いてやる!!
康太は何故か背筋がピンと跳ねるような悪寒を感じた。
嫌に生々しい感覚に意識が覚醒して何かに目覚めそうな気になってくる。
今なら金色のオーラをまといながら戦闘力が数千倍に跳ね上がりそうな気分だ。
まぁモヤシ男子の戦闘力が何倍になろうとたかが知れてるのだが。
ふいに誰かに見られてるような気がして視線を探してみるとアキラ君と目があった。
凄い、凄い見てる。
普通こういう場合目をそらすものだが彼女は友人達に囲まれながらも一切目を逸らさない。
まるで逃さないと監視されてるみたいだ。
「アレは相当荒れてるなぁ…。」
「何がだよ?」
「前園さんだよ、」
「ふーん?っておわっ?めっちゃ見てるじゃんお前の事!」
「妹関連で相当体力を消費してるみたいだ。内心穏やかじゃなさそうだよ、」
「あのいつもニコニコ笑顔で穏やかの権化の前園さんがねぇ、どんなけ姉妹仲悪いんだよ…。」
「そりゃもう笹木君の想像の千倍は」
「ひえー」
「そういや、笹木君はこの後予定あんの?」
「瑠衣ちゃんとお家デート」
「リア充め!」
「お前にだけは言われたくないな」
「でも意外だよ、結構つづいてるよね?」
「失礼なやっちゃな!まぁ彼氏彼女つーより男女友達みたいな感じの方がしっくりくるな。甘酸っぱい要素皆無だし…」
「それ大丈夫なの?フられるフラグじゃないの?」
「どーなんだろ…俺にもわかんね?」
「えー…。」
付き合う事になった切っ掛けがアレだしなんとも言えない。
舞野さんも少々拗らせた内面を隠し持ってるし未だに僕に告白してきた動機ってか理由がわからない。
正直いつ別れてもおかしくはないんだよな、この二人と、なかなか失礼な事を考えてしまうのだった。
今日は始業式だったこともあり授業はなく生徒は昼には帰宅する事になっている。
僕等も昼時には帰宅する流れなのだがチャイムがなるやいなやアキラ君は僕の腕を強引に掴んで恐ろしい速さで教室から出ていく。
僕はほとんど引きずられてる感じだ。
「ちょちょっ!アキラ君!?」
「早く帰るぞ!」
「そんな慌てなくても!」
「はぁ!?なに悠長なこといってんだ!琴音が来るだろうが!」
「いやいや流石に上級生の教室までは来ないでしょ?」
「はぁ?何年私といるんだよお前!アイツの行動力を舐め過ぎだろ!」
「イヤでも、」
「いいから!」
そのままアキラ君に引っ張られ僕等は早々に学校を後にした。
そのままの流れでアキラ君は僕が一人暮らしする部屋になだれ込んで来た。
「かっはぁー!!私の城ただいまぁ!」
「僕の部屋なんだけど?」
「お前の物は私のモノでもあるのだ!」
「昭和のガキ大将みたいな事言いだしたよ…それで?」
「それでもクソもあるかよ!」
「一応確認だけど琴音ちゃんがウチの学校に来るって聞いてたの?」
「聞いてたらここまで狼狽えてない!」
「そりゃそうだよね…てかあの子どうしてウチなんかに、前世だとたしか隣町のお嬢様高校だったよね、」
「だから私もわけわからんのだよ…アイツ何考えてやがるんだマジで…」
「うーん、アキラ君が女になったり舞野さんと友達になったりしてるじやん?」
「あ?どうしたよ急に?」
「いや、よくアニメとかであるでしょ?時間逆行物とかさ、それのセオリーだと…」
「ああ、私等の人生が前世と大きく異なって来てるから周囲の行動にも変化が出て来てる的なやつか…」
「そうそう。最初はさ、歴史の強制力とかで定められた歴史に集約されるのかと思ったけどそもそも性別が変わるなんて修正のしようのない体験をしてる人が眼の前にいるワケだし無いんだろうな〜って思ってたんだけどさ…その逆はあるんだって思ったんだ。」
「それが琴音の行動ってか?歴史の矯正力とかにくらべたらスケールがなんかショボくね?」
「僕等にしたら琴音ちゃんの気分転換は何よりデカイよ。」
「まぁ…それはそう。」
はぁーとおおきな溜息を出す。
1人の少女の行動でここまで心がかき乱される事などあるのだろうか?
まぁ…人は人同士でコミニケーションをとって大きく発展してきたのだからその中で様々な他人との駆け引きがあったはずだ。
歳下の少女に心をかき乱される事などさして騒ぐ事じゃないのかもしれない。
まぁ僕にとってはその程度の認識だが妹がトラウマ級に苦手なアキラ君にとってはそれだけでは済まされないのかも知れない。
と、そんな感じで話していたら唐突に
『ピンポーン』
と家のインターホンが鳴り響いた。
我が家のチャイムはここまで大きな音が鳴ったろうか?
今日はやけに音が大きく聞こえた。
「おいおい、誰だよ、エロ本でも通販したのか?」
「いや、最近は全部DLサイトにお世話になってる」
「そこは買ってないよって言う所だろ?仮にも私彼女なのだが?」
そんな無駄口を叩きながらも二人の額には汗が滲む。
そっと、そぉっと足音を立てずにドアの前まで行く。
そんなはずは無い。
ある筈がないとある可能性から必死に目を背ける。
目をドアノブの上に設置された覗き穴から外の景色を確認するために覗きこむ。
そこには前園琴音の端正な顔が見えた。
何故が無敵の妹様は康太の家の前にいたのだった。




