54話 前園明の日常
琴音の奴が本当に私が一人暮らしするこの家にくるのかは分からない。
何故いきなりそんな事を言い出したのか私なりには勿論考えてみたつもりだ。
前世のアイツとの思い出は本当にろくなものでは無かった。
あの性格は死ななきゃ治らないとよく思ったものだが生まれる前なら十分に更生可能だろう。
だから私は琴音の性格がねじ曲がらないように私なりに気を張っていたつもりだ。
その結果想像以上に懐かれているのか、はたまた前世の悪性がまだ残っていて私から康太や居場所を奪おうと企んでいるのか…。
そこの所が全く分からない。
女心は女になった今も分からない事だらけで嫌になる。
それは今尚私の中に男としての自我があるからだろうと確信している。
一人暮らしをするさいに琴音を家に残す事に対する葛藤が無かったワケじゃない、下手すれば元の木阿弥になりかねないのだから私としては死活問題だ。
しかしあの家族と一緒にいたくなかったし今の高校に進学する為には一人暮らしが合理的だとか理詰めで攻めて勝ち取った一人暮らしだ。
手放したくはない。
私の一日は朝のシャワーから始まる。
昨日までのストレスを洗い流せた気持ちになれるし、寝て起きた後のあの不快感を流せて一石二鳥だからだ。
今日は康太が珍しい事に家にいる。
あの後逃げる様に家に帰ろうとする奴を私が首根っこを捕まえてこの家に閉じ込めたからだ。
一泊寝泊まりさせる事になったがずっと緊張しているようだった、いつも自分の家に私が寝泊まりしてるんだから慣れてると思っていたが環境が変わるとこうも狼狽えるとか面白い事を知った。
最近はかなり大胆になって来たとおもっていたが元が陰キャなので女の私に直ぐ気を使う。
今もシャワーを浴びてると部屋で顔を耳まで赤くして石のように固くなってるだろう事が容易に想像出来てしまうのだから傑作だ。
固くなってるのは顔だけじゃなく下半身の特異点もだろうけどな!はっ!
そうしてさっぱりしてからバスタオル一枚体に巻いて部屋に戻ると奴は赤くした顔をカチカチに固めて自分は全く動じてませんが何か?という態度を取ってくる。
チラチラと足元に視線を感じる。
ラッキースケベが!
残念だったな!康太!パンツは既にはいてるんだよ!
あまりにもきょどる康太が面白くて私は背を向けるアイツに後ろから抱きつく。
自分でもデカくなり過ぎだろこれは老後が心配だなぁ…と密かな悩みの種な巨乳を押し当ててやる。
ついでに耳元に息を吹きかけるのも忘れない
「ふぉああああぁぁぁあアキラ君!!?」
「どうしたよ康太?耳まで真っ赤だぜ?」
あからさまな狼狽え方が面白くて私は朝から気分を良くする。
普段は一人暮らしだから当然朝は一人、いつもは康太をからかう想像、妄想をして学校へいく準備をするが今日は康太がいる。
こうやって康太をからかう事から私の一日は始まる。
本来なら康太を迎えに行くが今日は一緒に学校に行く。
中々ない事なので気分も上方補正されてすこぶる良い
のだが少し歩くと学校の生徒がチラホラやって来る。
「あ!前園さんだ!」
「良かった!今日は体調大丈夫なの!?」
「アキラちゃんおはよー、昨日はどうしたの?私達心配したんだよ?」
「あはは…、ごめんなさい…、体調が優れなくて…」
「アキラちゃんもう!水臭いよ!何かあったらいってよね!」
「そうそう!俺等友達なんだからさ!水臭いぜ?」
「そうだよ前園ちゃんはみんなの前園ちゃんなんだし遠慮しないで言ってよね?」
直ぐ様囲いが出来る、毎日飽きもせず御苦労な事だと思うけどコイツらは私という灯りに群がらないと群れる事の出来ない蛾のような存在だ。
康太は前園親衛隊なんて呼んでいるが守られたことなんて基本ないのだから過大評価も良いところだ。
「ふふふ〜アキちゃん昨日はお楽しみでしたね〜」
などとあまったるい声色を出しながらそんな事をいうのは舞野瑠衣、私と並ぶ美貌をもつロリガキ女子高生だ。
クリクリした大きな瞳
ふわふわのツインテール
小さな体に不釣り合いな巨乳
男の理想をぶち込んだような女子だ。
ぶっちゃけると昔は割りと多めに目で追っていた。
告ったりはしなかった。
フラレたらダメージデカイからな。
だから瑠衣ちゃんが康太に告ったって話は死ぬほど驚いたのだが…。
今はその康太の友人の笹木君と付き合ってるらしい。
最初のイザコザ以降はこれといったトラブルは聞かないあたり上手くいってるのかな?
「お楽しみ?なんの事ですか?」
「も~とぼけちゃってまぁ〜(只野君が家に来たんでしょ?)」
最後の方、彼女は耳元に口を近づけて囁くように聞いてきた。
生ASMRである。
ロリ体型美少女の囁きは来るモノがあるのは女になったあとも変わらないな。
大変よろしい。
それは兎も角。
「瑠衣ちゃんは知っているんですね」
「うん!只野君が早退するの先生に伝えたの私と純一君だしね」
「……、まぁ仕方ないですかね…それなら」
「ふふ、アキちゃん嫉妬してるの?かわいい!」
瑠衣ちゃんに抱きつかれる
ふわふわした暖かさに包まれて大変心地よい。
しかし言いたい事ははっきり言っておかないといけないのだ。
「そんなんじゃありませんよ!全くみんなして嫉妬嫉妬と!」
「ふふ、いいなぁ〜私もそんな恋愛してみたい」
「何言ってるんですか!瑠衣ちゃんにも笹木君という彼氏がいるでしょう?」
「うん、純一君はとてもいい子だよ?でもねまだお試し期間の途中だから…私は純粋な信頼関係を築けてる二人が羨ましいんだ。」
「キープ君と言うわけですか?瑠衣ちゃんらしいですね?」
「ふふ、やっぱりアキちゃんって思ってるより性格キツいね!」
「なんでそんなに嬉しそうなんですか、康太が言ってたように本当にMのけがありそうですね」
「も〜アキちゃんてばひどーい!ふふっ」
この子の場合ただたんにマゾと一言に片付けていい存在では無いのだろう。
色々と屈折した拗らせた精神を内に隠してる。
ある意味では私と似た感性の持ち主。
だからこそ良好な交友関係を結べているのだろう。
そうこうしてる内に学校に到着、いつの間にか康太は前園親衛隊の防衛網から抜け出して笹木君と二人で先に教室に溶け込んでいた。
女になった事で生まれる難点の一つがコレだ。
いや、女になったというより学校一の美少女になった難点というほうが正しいか…。
陰キャである康太は陽キャを避ける事に関しては天才的なムーブをとる。
私と一緒に登校する事で生じる諸々の問題は私と一緒に登校する事よりも避けてでも回避したい事柄の様だ。
大変遺憾だが無理強いはしない。
それで以前康太を追い込んでしまったのだから目も当てられない。
現在は私と康太のカプ厨なる存在が康太をある程度下賤な連中から守ってくれてる。
多少心もとない所はあるが私達の中を理解し肯定してくれる人達がある程度いるのは素直に有り難かった。
しかし私に関して未だ強い恋愛感情…あるいは欲動を持った奴が一定数いるのも事実だ。
例えば今目の前にいるコイツもそんな奴の1人だろう。
「やぁ前園さん、おはよう」
「おはようございます、九龍院生徒会長」
九龍院樹生徒会長、生徒会長の名が示す通りこの学校で生徒会長を務める3年の男子生徒である。
九龍院なんてヤクザモノの映画でしか見ないような大層な名前が現実にあるのだから驚かされたがコイツに対する印象はそれ止まりだ。
切れ長の鋭い眼光は見るものを威嚇するがその相貌は整っており十分にイケメンにあてはまる…らしい。
私には良くわからないがこの男は大層モテるらしくいろんな女子から告白されている。
生徒会長を務めるだけあって3年のなかではトップクラスの学力を保有しているため同じく1年でトップの成績を収める私に御執心という訳だ。
「以前話した事…考えてくれたかな?」
「なんの事ですか?」
「ははは、御挨拶だね、君には僕の下で副生徒会長を務めて欲しいと言ったはずだが?」
「その件でしたらお断りしましたが?」
「よく考える事だよ前園さん、君程の器なら生徒の模範となりその才能をいかすべきだよ。僕は君の才能を伸ばすサポートが出来る。君は生徒会に入るべき逸材だ。」
「興味ありませんと以前にお断りしたはずですが?」
「僕は君の為を思って言っているんだ!どうしてそれを理解してくれない!」
「買いかぶり過ぎですよ生徒会長、私はそのような器ではありません」
「そんな事は無い!僕なら君を導ける!その証明は君が生徒会に入る事で立てられる!何故それを理解しない!!」
バン!と壁を叩く。
知らない内に壁際に追い込まれ所謂壁ドンをされている状態だ。
壁ドンなんて二次元だけのモノと思ったがイケメンは何をやっても許されるらしい。
まぁ私は全くときめかないのでそのままイケメン生徒会長の腕を潜って壁ドン包囲網からあっさりと抜け出す。
その様をみてイケメン生徒会長殿は信じられないといった感情をその端正な顔に貼り付けワナワナと慄いていらっしゃる。
「何故だ……何故僕の誘いをそこまで頑なに拒む!?副生徒会長になればこの学校から大きな恩恵を受けられるんだよ!?僕の!僕の手を!受け入れるだけで!それだけで君を……何故だ!何故!他の子ならここまで手こずるワケないのに!そうか!アイツだ!あの陰キャ!アレがいるから君は僕のモノにならない」
コイツ今…なんてった…?
「たしかタダノとかいったか!?アイツが邪魔なら僕の方で処理しよう。何問題ないさ、僕は生徒会長だ!その程度の事、造作も………「生徒会長…。」…ない……ひぃ!!?」
康太に対して良からぬ事を企むコイツにはキツいお灸を与える必要性がある。
私から康太を奪おうとするコイツには
「九龍院先輩。生徒会長とはいえ貴方もまたただの一生徒に過ぎません、その様な事をする義務も義理も貴方にはありません。もしソレでも貴方が職権の乱用をなさるなら私にも考えがあります。」
「考え?フン!それこそ一介の生徒に過ぎない君に何が出来る!ぼっ僕は生徒会長なんだよ?理解してるのかな?」
「貴方こそ私がこの学校でなんて呼ばれているかご理解いただけているのですか?康太に害が及ぶなら私は貴方を追い落とすだけのために生徒会長の座につきますよ?」
「はっ!馬鹿らしい事を言う。一朝一夕でなれるものではないのだよ!生徒会長とは!あまり舐めるなよ前園明!」
「ふふ、貴方は何もわかっていない…生徒会役員は基本選挙で決められるんですよ?私が生徒会長になりたいとそういうだけでどれだけの得票が集まりますかね?貴方も生徒達からの信頼は厚いのでしょうが…ふふ、良いし勝負が出来そうですね。」
「ぐぐぅ…、まぁ良い…僕も忙しいからね…君にばかりかまけていられないんだ…」
そんな負けセリフを残して九龍院は去っていった。
驚くなかれ、このやり取りは一度目ではない、同じようなやり取りは何回か繰り返している。
その度彼はああして逃げ帰っている。
生徒会長とはいえ相手はただの学生に過ぎない。
言い負かすのは特別難しい訳では無い。
まぁ九龍院なんてラノベのセレブキャラにありそうないかにもな名前に生徒会長とか狙いすぎてて逆にキャラ立ちが凄いので遠くから観察しておく分には面白そうな奴ではある。
そしてこういった奴はこの学校に沢山いる。
インテリタイプの九龍院のほかに顔はいいけど中身がサルな奴とかザラだった。
瑠衣ちゃんに迫った二股ヤローの元テニス部の某先輩もそれに該当するだろう。
「あっ!アキラちゃん!ちょっと待ってよ!へへ、ね?見た俺の今のシュート?すごかったろ?」
唐突に話しかけて来たのは、サッカー部1年の須藤なんとかだ。
コイツは中学からサッカーをやってるサッカー少年だが女好きとしても有名だ。
友達の彼女を寝取ったなんて話も聞くがコイツに言わせれば向こうから勝手に来たから俺は悪くないよ〜wとかほざく真のクズだ。
こうやってお得意のサッカーで自分のかっこよさをアピールしてくるが私はサッカーが好きじゃないので興味は一ミリもない。
元陰キャ男子の私はサッカーが嫌いだ。
ろくな思い出がない。
陰キャ男子のサッカーが嫌いな比率はかなり高いと思う。ソースは私と康太だ!
「ごめんなさい、今急いでるのでまた後にしてくれません?」
「えー?連れないなぁ!その用って俺より優先されるほどぉー?」
「ええ、そうです。」
「たはー!?マジで?チョーショックなんだけど!?いーからさ、ちょっと見ていってよ損はさせないからさ!ね!ね!」
コイツは自分が絶対正しいと思い込んでるタイプの馬鹿だ。
まともに対応してもコッチがしんどいだけなのでコイツの周りにいる取り巻きに頼る。
「私より他の方々に見せて上げたらいいじゃないですか?皆さん貴方のファンなんでしょ?」
「え〜、どうすっかな〜?」
「皆さんも須藤君のプレイに期待してますよ!」
「え?まじまじ?」
須藤の後ろには取り巻き女子が五〜六人いる。
その中から適当に1人連れて来て須藤に宛てがう。
なかなかかわいい子を宛てがったので須藤も邪険にはしないどころかデレデレしている。
単純で助かる。
その隙にそそくさとその場を離れる。
基本的に単独行動は取らず私の取り巻き、通称前園親衛隊を常に侍らせておけばああいったのに絡まれないのだがそうすると康太と二人になれないので悩ましい。
学校ではいろんな奴に絡まれたりアプローチされたりして気が休まらない。
あの二人は氷山の一角に過ぎないのだ。
故に私は康太との二人の時間が確約されているあいつの家に押し掛けるのだ。
それが私の唯一のリフレッシュタイムなのだから。
もしこの小説を読んで少しでも面白いと思はれたなら、ブックマークや、↓の★★★★★を押して応援してもらえると幸いです、作者の執筆モチベーションややる気の向上につながります、お願いします




