50話 不安
アキラ君からのラインは単純に妹がアキラ君の家に来るかも知れないと言うものだった。
かも知れないと言う事はまだ来ると確定、決まった訳では無いと言う事だ。
そもそも泊まり込みで住み込むつもりなのか、はたまたただ遊びに来るだけなのか、前者の方だったら意味が変わって来る。
そもそも何故そんな話になっているのかまるで理解出来ない。
前世であったならこんな事はあり得ない。
兄の一人住まいの家に妹が押し掛けてくるなどフィクションで現実ではそんなファンタジーは起こり得ない。
それは前世のアキラ君が身を以て証明してくれた筈だから今回の妹襲来はアキラ君が女になった事が原因であると考えるのが自然だろう。
『ブブブブブッ』
そんな事を考えてると僕のスマホが振動した。
液晶画面にはアキラ君の名前が記されていた。
「もしもし?」
「おう、康太か…元気にしてるか?」
「一応は元気だよ、アキラ君は元気じゃないの?」
「元気は元気だぜ?ただのっぴきならない悩みがあるんだ…聞いてくれよカレピー!」
「琴音ちゃんの事でしょ?」
「どうしょうなぁ!どうしょう!?」
「別にいいじゃん好きにさせれば、」
「はぁ?お前本気でいってるぅ?」
「逆に聞くけど何がそんなに嫌なの?」
「だってアイツこれから私の部屋に住み込むつもりだぜ?そんなの普通に無しだろ!?」
「うわぁ…前者の方か…」
「前者?何の事だ?」
「あ…いや、コッチの話…て事は琴音ちゃんアキラ君の部屋に住むつもりなの?」
「そのつもりなんだよー!どうしょうなぁ?」
「それは…最悪だね…」
少なくともアキラ君は琴音ちゃんの前では猫を被って生活している。
部屋もおそらくは悲惨な事になっている事だろう。
そんな所に今まで上手く騙して……誤魔化してきた理想の姉像みたいなモノがあったとしてそれが壊れて無くなるのは想像に難しく無い。
私の姉様生活力無さ過ぎ!?
と笑い者にして親にチクられ一人暮らしを撤回なんて事になったら目も当てられない。
「でもどうするのさ?そもそも琴音ちゃんアキラ君の家に住み込むって言うけどどうしてそんな話になるのさ?」
「あぁ、なんか私等が帰った後アイツも一人暮らしを始めたいって両親に直談判したらしくてな、で、中学生の一人暮らしは危険って事で私の家に住む事になったんだよ。」
「学校とかどうするつもりなんだろうね?中学は前園実家寄りだから遠くなるよ?」
「私もそういったんだけどな、問題ありませんって聞かなくてな、そもそも一人暮らししたいのに私がいたら意味無いじゃん、なぁ?」
「僕等前世と比べると謎にあの子に懐かれてるね…」
「まぁ前世は凄い嫌われてたからな、私達…」
「あれを嫌われてるレベルでまとめてるのも中々凄いね」
「まぁ…2度目の人生だ、今度は上手くやろうって思ったからな…今は女の体だし、自信はあったんよ」
「やっぱり…あの家族と上手く関わっていける様に頑張ってたんだね…」
「ちっ…そんなんじゃねーよ…はぁ…そろそろ切るわ、電話代もただじゃねーし」
「うん、また明日」
「おう、またな」
アキラ君は唐突に話を打ち切り電話を終わらした。
一体何がしたかったんだろう…
妹が押し掛けてくることを嘆いていたのは確かだけどそれにしてはあっさりしている。
まるで僕に琴音ちゃんと二人で生活する事になるのを伝えに電話して来たように感じる。
結局その日はそれ以上何かある訳でもなくただだらだらと無為に一日は過ぎていった。
翌日は月曜日で学校に行く最初の曜日だ。
本来なら行きたくないと駄々を脳内でこねてる所だがここ数日で悩み事がドンと増えた。
色々と悩み事が多いと相談したくなる事も増え、僕は隣の席の人物に話しかける事を一つの目的にして学校に行く意欲をいつもより多少上げて登校する。
登校中アキラ君に出くわす事無くただぼーと歩いていると前方にある男女を発見する。
男女を中心にまるで見えない壁みたいなモノにでも遮られてるのかモーゼの十戒みたいに人の波が割れている。
その特異点の中心にいる男女は笹木君と舞野さんだった。
舞野さんはもはや説明不要の超絶美少女だ。
笹木君はそんな超絶美少女の彼氏をやっている僕の友人だ。
あのふたりには独特の空気があって周りの人達は近づけないみたいであんな結界がはられた絶対不可侵領域みたいな事になっている。
まぁ僕は気にせずに二人に声掛けするのだが
「おはよう、二人とも。」
「おう!康太」
「おはよ只野君」
挨拶をした僕に対して二人は友好的な態度で接してくれる、お邪魔虫だとか思われてないようで一安心だ。
「二人共仲いいね、朝から一緒に登校なんて羨ましいよ」
「ふふ、恋人は一緒に登校するものだもん、その方が恋人っぽいしね、ね?純一君!」
「本当の恋人はぽいとか言わないぞ?まるで俺等が見せかけカップルみたいだろ?」
「えー酷〜い」
「そういう康太の方はどうしたんだよ?お前こそ羨ましいレベルの絶世の彼女がいるだろ?今日は一緒じゃないのか?」
「あ…うん、なんか今日は一緒じゃないね…」
「え〜、アキちゃんどうしたの?もしかしてお休みとか?」
「何も連絡来てないから…それは無いと思うけど…」
「ふ〜ん、なんか珍しいね〜」
「だな。」
そんなに僕とアキラ君が一緒にいないのが意外なのだろうか?よくわからないモノだ。
「そういえば二人に相談したい事があるんだよ」
「お?何だ?」
「おー、何々〜!?」
「この前、前園家に行くって話してたでしょ?」
「おお!アレか!どうなった!?」
「私も聞きたい聞きたい!」
「あぁ〜と、なんか凄いもてなしてもらえて夕飯御馳走になって一泊して帰って来たんだ。」
「なにそれ、めっちゃ歓迎されてるじゃん」
「聞いてた感じとちがうね〜」
「俺もっとバイト面接を過酷にしたようなの想像してたわ。」
「私も私も〜」
「まぁ最初は確かに圧迫面接みたいで凄い怖かったな、でも僕もヤケクソになって噛みつくつもりで答えてたら何故が持て成されて……」
「あ〜、なんかわかるな〜それ!」
「え?舞野さん?」
「あぁ俺も何か解るなそれ、偏屈な大人はペコペコしてる従順な奴より反発してくる奴を気に入るってのはよくあるぞ?」
「そういうものなの?」
「あると思うな、只野君は多分今までそのオジサマに気を使い過ぎてたんだと思うよ?もっと只野君の良さをアピっていかないとね!」
「僕の良さ…」
自分の良さとは何だろうか…
正直わからない。
わからないが内向的に、内に籠もってても良い事はやって来ないというのは思う。
まぁ下手に相手に反発するのは精神のカロリーを多く消費するし感情的になるのは疲れる。
でも思ったことを口にするのは良い事だとは思った。
「ありがとう二人共、あの…もう1個聞きたくてさ…」
「何でも聞いてね」
「おう」
「うん、えーと…琴音ちゃん…ア…前園さんの妹さんの事なんだけど」
「うん」
「おう…で?」
「僕の認識が正しければ向こうは僕の事凄い嫌ってる筈なんだ、なのにこの前はやたら話しかけて来るし一緒にゲームとかもやってもう意味解んなくてさ…」
「それってただたんに懐かれただけなんじゃねーの?」
「いや、懐かれたんならその切っ掛けって何なんだろってさ…あれだけ軽蔑の目を向けてたのに何が切っ掛けで懐かれたのかさっぱりで怖いんだよね」
「そんなに難しく考えなくてもいーとおもうよ〜」
「え?というと?」
「女ってさ、自分の中の評価がコロコロ変わる生き物なんだよ、だからね今の只野君が魅力的にうつってるのかもね」
「僕…が?」
「多分その子にとっても前園明って存在は一種の憧れとか目標なんじゃない?その彼氏ともなれば評価なんて変わって来るものだよ?」
「そ…そんな…あり得ないよ、僕なんかに…」
「只野君は十分魅力的だよ?忘れた?私に告白されたの?」
「あっ…あれは…」
「確かに私は恋愛ってモノに憧れを抱いてる…誰かに本当の愛を囁かれたいし、誰かに本当の愛を囁きたい、でもやっぱり康太君の事は好きだったと思うよ」
「ぐっ…」
こちらを穏やかな笑顔で見てそんな事を言ってくる舞野さんに一瞬ドキッとさせられる。
これだから美人は怖い。
細やかな行動の殺傷力が半端ない。
「おお?なんだなんだ瑠衣ちゃん浮気かぁ?」
「へへ〜妬いてくれるの〜」
「彼女の浮気はトラウマモノだからなぁ〜」
「私も好きな相手がいるのに他の男になびく女の考えは理解できないなぁ〜」
一ヶ月程前の修羅場の話が蒸し返される。
しかし笹木君の顔色が変わる事も無く二人はあくまでもそんな事もあったねという感じで話してる。
まるで自分達には関係無い事だと言わんばかりに。
それを聞いて僕はあの一件はもう笹木君にとっては過去、終わった話なのだと理解する。
仮に前園さんが…アキラ君が裏で誰かと交流をもっていたらと考える。
考えたくもない想像をあえて考える。
あり得ないをあり得ると仮定する。
それは余りに僕にとっては過酷で筆舌に尽くしがたい苦行だった。
身の毛がよだつ恐ろしい想像。
吐き気すら感じてしまいおそらく僕はアキラ君との交流を捨ててでも彼女から距離を取るだろう。
それ程に認めたく無いものなのだと…
「お話を戻すけど〜前園妹ちゃんはもしかしたら只野君を異性として意識してるのかもね〜?」
「はぁ?そんな事あるワケ…」
「どうして否定出来るの?前園妹ちゃんの気持ちなんて誰にもわからないでしょ?確かにそんな事無いかも知れないよ?でもそれと同じくらいあり得る事だよ。」
「人が人を好きになる切っ掛けってマジでわからんからなぁ~」
僕は大きな勘違いをしていたのかも知れない
もし琴音ちゃんか僕にそういった感情をもっていたならその時アキラ君は何を思っていたのか…
アキラ君が他の誰かに寝盗られてたと想像しただけであれだけ苦しいのだ。
アキラ君も僕が琴音ちゃん…妹に盗られると想像したのかもしれないのだ。
彼女は恋愛が解らないとよくいっていた。
女の体と男の価値観。
恋人であっても僕等の関係は未だ友達とも恋人とも取れる中途半端なモノだ。
だから僕はアキラ君のあの態度はただの嫉妬してるフリだと思っていた。
いや、本当に嫉妬していてもそこまで大きな意味はないと思ってた。
あれはただの嫉妬ではなかった…?
僕はもしかしたら取り返しのつかない事をしたのか?
焦りが心を支配していた。
学校に到着した後はアキラ君と話そうと決意するがそれは叶わない。
何故なら彼女は学校に来ていなかったから…。
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