47話 食卓
僕が知る限りアキラ君は家族の事を嫌っている
大事なのはアキラ君が家族を嫌っているのは確かだが家族に嫌われるのは嫌だという面倒くさい側面も持ち合わせている事だろう。
前世でアキラ君はこの家族から手酷い扱いを受けている
別に食べ物を与えられなかったとか学費を払ってもらえなかったりだとかそんな事はない、一般的な子供としての扱いは受けている
なら何が手酷いと僕が表現しているのか
まず前園父はアキラ君に勝手に期待し、そして勝手に失望した、それからのアキラ君に対する扱いはまぁ酷いの一言につきる
簡単に言うとアキラ君をいないモノとして扱った
無視したのだ
見えてない訳じゃない
親子としての接し方を放棄したのだ
別に親としての義務を放棄したとかじゃない
ただ何も期待しないし何も望まなくなったのだ
「まぁお前に言っても無駄だろうがな?」
「お前ではこの程度だろうよ」
「余計な事はするな」
「身の程を知れ」
たまに話かけられればこんな言葉しか帰って来ない
そんな言葉をかけられ続ければ心の一つにも負担がかかって当たり前の事だろう。
そして母、娘もコレに習った
アキラ君の扱いがその様なモノになったのに対して妹の琴音ちゃんは大層可愛がられていた
まさに蝶よ花よといった感じでかなり溺愛されていた
親の寵愛をいっしんに受けて育った反動か兄であるアキラ君を軽視…いや露骨に見下すようになった。
彼女は生まれもった地頭の良さからか大した努力を積まずとも常に好成績を上げ当たり前の様に学年首位の成績を収めた
前園父はそんな娘を溺愛し、母親は流石琴音ね、と娘を絶賛、見せつけるように娘を褒めそやした
アキラ君を除いた家族3人で外食に行く事も多くそんな日の彼は大体僕の家でヤケ炭酸飲料を飲んで気分酔して荒れていた
結果アキラ君は家の中で孤立した。
空っぽの自分を覆い隠す様に大言壮語を口にして厨ニ病ムーブを披露してクラスから孤立
イジりの対象として扱われた
それでも彼は大言壮語と厨ニムーブを止めなかった
みずから哀れな道化としてのキャラを演じ彼はそれを貫いた
僕はそんなアキラ君を素直に凄い奴だと尊敬した
普通そんな方向に捻れたりしない
僕は陰キャだし引き篭もりだから嫌な事があれば自身の殻に閉じこもる 他人と接点など持たなければ他人から傷付けられることはない
かつて彼は言った
「馬鹿かお前!内に籠もってても腹立つだけだろ俺は苛立つ事あったら暴れるわ」
暴れ方に問題があったのは言うまでもない
その結果彼は孤立し、イジりの対象として陽キャ達のターゲットになったのだから
しかし僕にはない陰キャとしての彼の在り方にいたく感銘をうけたのも事実だった
それから僕等は基本一緒にいた
頭の悪い僕の勉強を見てくれたり大学合格にむけて基礎から固めてくれたり
この2度目の人生で僕がそこそこ勉強についていけてるのも彼あってのものだ
感謝してもし足りない
まぁその彼、いや今は彼女だが…は常に学年首位、5つの指に入り込む上位成績者として常にその名前を残し続けている
模範的な優等生、前園明を演じる為に
陽キャからなめられないために
家族から傷付けられないために
まぁそれはそうとして
僕は現在修羅場の只中にいる
何故かニコニコ笑顔の前園両親
そして僕の隣に陣取った前園妹の琴音ちゃん
そして前園明は端正な顔を憎悪に変え僕を睨みつけている
圧が先程よりも濃い
かなりの硬度をもったAT◯ィールドが展開されている
中和は無理だろう事が予測された
「さて皆揃った事だし夕飯を始めよう、頂きます」
「「「頂きます」」」
「頂きます」
テーブルの上には豪華な料理の数々が配膳されている
あの短期間でコレだけの物を作るのは至難の技だろう
おそらくは前日より用意されていたものだろう
何故僕に対してここまで高待遇なのか
以前と今で何がそこまで違うのか
まるでわからん
僕とアキラ君の交際が切っ掛けなのは間違いないが
この親父が僕なんかに簡単に娘をくれてやる訳がない
何か裏があるのか?いやあると考えて然るべきだろう
「そういえば琴音は康太君とさっきまで一緒にいたのよね?何していたの?」
マズい、これは非常にマズい
この家の住人は漫画、アニメ、ゲームのオタク三種の神器を全否定してくる事で有名だ
何故か前世とくらべて純真無垢度が上がっている琴音ちゃんでは馬鹿正直にゲームと答えかねない
「はいお母様、ボードゲームをやっていました」
「ボードゲーム?」
「はい、ボードの上に自身で配置した軍隊を並べて相手の軍隊と競いあわせる戦略ゲームです、大変頭を使うので奥が深く考えれば考える程に奥が深いです」
「まぁそのような知能派なゲームを?」
「はい、康太兄様が琴音に教えて下さったのですが暇つぶしにはうってつけなんですよ」
「なるほど、将棋やチェスの様な物か、康太君も見かけによらず粋な計らいをするね、」
「え?あ……はい…」
嘘は言ってない、スマホをボードと呼ぶなら嘘は何も言ってない
流石琴音ちゃんだ、
とっさの嘘が半端ない、そら秀才と持て囃される訳だ
「ふふふふふ康太、妹にばかりずるいです、私も後で混ぜてくださいね」
唐突にアキラ君がそんな事を言ってきた
笑顔だ…すごい笑顔でだ
怖い、さっきまであれ程キレていたのに今は清々しい程の笑顔だ
その笑顔の意味が分からず僕の中に不安がよぎる
ただあの妹ばかりずるいというのは本心だろうと思った
「ほら、康太、コレ私が作ったんですよ、母様に指示してもらって初めて作ったんですよ?どうですか?美味しいですか?」
箸を持って笑顔で僕の口に食べ物を押し込もうとしてくる前園さん、顔は笑顔なのに目がまるで笑っていない
アキラ君ではなく完全な前園さんモードに徹している。それ故に圧も凄い、お淑やかというフィルターを被り前園明は康太を独占するべく次から次へと食べ物をぶち込んで行く。
「もが?ほがもがが!!?」
「ふふふ、そんなにほっぺたを膨らまして、まるでリスみたいですね」
「ねっ、姉様…そんないっぺんに口に詰め込まれては康太兄様も食べ切れないとおもいますよ?」
「大丈夫ですよ?琴音?康太はほっぺたいっぱいに頬張って食べるのが好きなの」
「え?で…でも、」
「もぐもぐゴクン!うぅ、だっ大丈夫だよ琴音ちゃん、だから気にしないで」
「え?、あっ…」
「そうですよ?康太がいいと言ってるんですから…ね?」
「ふふ、康太君と明はホントに仲が良いのね」
「そうだな、家族の団欒もにぎやかな声に彩られれば私達も幸せを強く意識できる、良い事だ」
「ははは…」
琴音はなんとも納得出来かねる表情をしている
だが流石にコレ以上僕に構い続けると姉が暴走する事を悟った彼女は大人しくしていた
スペックが高いと空気読みまで熟せてしまうのか…
末恐ろしい妹様である
それからなんとか食事の時間を乗り越えいまはアキラ君の部屋に二人でいる
隣にいるのは琴音ちゃんでは勿論なくこの部屋の主たるアキラ君だ
「おい!康太テメーなに琴音なんかにデレデレしてんだよ?あん?」
「いや、別にデレデレなんてしてないだろ?」
「いやいやしてたし、めちゃくちゃしてたし」
「露骨に嫉妬してるね」
「ああ!?誰が嫉妬なんかしてるかよ?ふざけんなし!そりゃ琴音は可愛いのは認めるけどよ」
「そこは認めるんだ…」
「兎に角!アイツにあんまベタベタすんなよ!お前アイツの事嫌ってたじゃん!」
「う〜ん、苦手意識は持ってるけど慕ってくれてる?相手を無下に出来ないしさ…」
「慕ってるってお前なぁ……はぁ…わかったよ、お前がそういうつもりならこっちにも考えがあるからな!」
そう言ってアキラ君はふくれた顔のままお風呂に行った。
彼女の琴音ちゃんにたいする嫉妬心は思ってたよりも強いようで終始ご機嫌斜めである
無論料理の味を楽しむ精神的余裕もないし、琴音ちゃんが何を考えてるのか分からないのは怖い
流石にこのままではマズいのでこの後琴音ちゃんが近づいて来ても無視とはいかないのでやんわりと断れればと、そう思った
しかしそんな僕の決意は取り越し苦労で琴音ちゃんはそれから僕に接触を図る事は無かった
それどころか問題が別に浮上した。
それは前園父が
「康太君、今日は泊まって行きなさい」
と言った事だ
意外や意外、何故そこまで好感度が上がっているのか知らないけどしかし男嫌いの前園母が認める訳はないとたかをくくって余裕を見せていた僕に
「そうね、夜も遅いしそうしなさい康太君」
と言ったのだ。
いやいや、そんなん前世で一度も言わなかったですやん
ここ最近のキャラ崩壊が著しいぞ前園家族の皆さん
こうして前園家にお泊まりが急遽決まったのだが寝る所がないとアキラ君に言うと彼女は事もなげに言い放った
「はぁ?私と一緒に寝ればいいだろ?」
湯上がりで良い匂いをさせたしっとり美人は蠱惑的な微笑を浮かべながらそう言い放った
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