42話 強襲前園家
とうとうこの日がやって来てしまった
前園本家は僕が一人暮らししているアパートから電車で4駅ほど行った距離にある
自転車でも行こうと思えば行ける距離だが今日はアキラ君と二人で電車に乗ってきていた。
色々と息巻いた訳だがあの人達と身一つで対峙するのは荷が重いのでアキラ君の存在はまさに母神の様な神々しさすらあるように見える
見た目だけなら相当高いバブみ力を保有しているからね、まぁアキラ君本人は母神なんてだいそれた存在ではなく前世が男の半分詐欺みたいな存在な訳だけど
しかしながら中身が男だからこそ男の喜ぶ事に明るく学内での彼女の人気もそんな所から来ている点は無視して良いものじゃない
もっともアキラ君は今から入るこの実家のなかでは前園明を演じ切らなければいけない
この中の人達はアキラ君を求めていない。
模範的な優等生、前園明しか彼等は求めていないのだ
「じゃ、行くか」
「うん。」
「只今戻りました、明です」
「只野康太です、失礼します」
アキラ君は実家に帰省した実子とは思えない他人行儀な挨拶をもってドアノブをひねって家内に入る、
僕もそれに従って挨拶もそこそこに家の中に入る
「あら、おかえりなさい明、それと康太君も久しぶりね、お待ちしておりましたわ、主人が奥で待ってるわ、どうぞいらっしゃい?」
「はい、」
「はい、」
僕は前を進むアキラ君に倣って用意されていたスリッパをはきアキラ君に付いていく。
長い廊下の先には大きな居間がありそこには長いソファが対面するように2つおかれている、そしてそこにはアキラ君の父がドンと座っていた
その隣にゆっくりとした動作で母親は父にの横に座った、
二人共ニコニコした笑顔を僕等に向けて来ているが不気味この上ない
「やぁ久しぶりだね、康太君、まずは座りなさい。」
「はい、失礼します」
「さて、君とこうして対面で話すのは何年ぶりかな?」
「はい、1年ぶりになるかと…」
「あぁ、そうだね、あの頃の君はまだ中学生だったね、こうして子供の成長を見れるのは感慨深く感じるよ、うむ、息災そうで何よりだ」
父親の方が社交辞令的な事をつらつらと言う
そして唐突に本題をぶっ込んできた
「で?康太君、君、私の娘と恋人の関係だそうだね?」
「はい、明さんとは恋人としての関係をもってお付き合いさせてもらってます」
「ほうほう、それは良い、君と明は幼馴染だ、古くからの付き合いは尊重されて然るべきだからね、親交、友情、愛情、これらは時間によってしか育む事が出来ない、時間によって培われた信頼は何より尊いと私は思うよ」
「……はい」
「で?君は明を恋人とするだけのメリットを提示出来るのかな?」
「メリット…ですか?」
「そうだ、メリットは大事だよ康太君、メリットとデメリット、これ等の上で社会は成り立っていると言っても過言ではないよ?人は皆考える、自分の為になるのか、ならないのか、自身の血肉足り得るなら多少のリスクを冒してもそれに賭けてみるべきだと私は思うよ、で、君は私にどの様なメリットを提示出来る?逆に君は明を伴侶に何を欲する?」
相変わらず論理尽くめな話し方だ
人を使えるか使えないかでしか判断していない、
僕を見るこの人の顔はニヤついた含み笑いが滲み出ていて隠す気すらない。
まともな理由など持ってこの場に来ている等ありえ得ないときめつけた顔をしている
メリットといったが僕は自己肯定感とは無縁の人間だ、
この男を納得させるだけの理屈も屁理屈も有りはしない
この男は誰よりも僕が無能だと知っている
僕の父親を介して誰よりも…
だからはっきり言うことにした
「単刀直入にいいます。」
「ほう、いいたまえ」
「僕は明さんが好きだから付き合ってるだけです、
メリットだとかデメリットだとかそんな事は考えていません、そしてそんな僕のことを明さんは選んでくれました、だから僕は明さんと共にいる事を選びました、お恥ずかしながら僕の能力では貴方の期待に答える働きは出来ないでしょう、それは貴方が1番理解しているはずですよね?」
「ほう、つまり君はなんのメリットも提示できずに私の娘を寄越せとそう言いたい訳だね?」
「はい」
「ふふふ、ふざけているのかな?」
「いえ、大真面目です」
「くくく、ふふふ、」
前園父は何が面白いのかくつくつと笑いを噛み殺している、ヒィヒィーと腹を抱えて笑いを我慢している様は何がそこまでウケたのか分からないが相当笑いを我慢するのが大変な様だ
すると今度は黙って隣で聞いていた前園母が僕に問いかけてきた
「つまりなにかしら、康太君、君は明をただのブランド価値でしか見てないんじゃないの?」
「ブランド価値ですか?」
「ええ、明は見目麗しい娘よ、そんな子と共にいれば貴方の価値もさぞかし保証されるのでしょうね」
「確かに明さんは綺麗な方です、でも僕に取っては眩しすぎます、ブランド価値で釣られただけなら僕は大層な道化ですね」
「あら?自分の事を随分と卑下するのね?」
「別にそんなに珍しくないですよ、人は自分の能力をある程度客観視して線引してると思ってますから」
「ふふ、貴方のその物怖じしない態度は昔から好感をもっているのよ?自覚は無いようだけど、」
「恐れ多いです」
澄ました顔の前園母はクスクスと優雅な笑みを浮かべる、流石アキラ君の母親だけあって恐ろしいレベルの美人だ、ただ笑ってるだけなのに怖いくらいに様になっている、貼り付けた様な笑顔がこの人の内面を見えづらくしていて何を考えてるのかまるでわからない
そういう意味では考えてる事がある程度見える前園父の方が幾分せっしやすい
そんな事を考えていると前園父が復活したのかこちらに話かけてきた
「いやいや君は大した役者だよ、開き直りもそこまでいくと一つの才能だよ」
「はぁ…」
「いいかい?康太君、人は自分の弱味を他人に見せたがらない生き物だ、何故だと思うかな?」
「そりゃ、そこを付け込まれるからで…」
「その通りだ、だが君はその事をデメリットとは思っていない、私には君のそれはメリットに思えるよ」
「はぁ…メリット…ですか、」
「あぁ、メリットだ、世の中には君の様な人間は意外に少ない、意外に思うかい?しかし事実だよ、人は感情で考え行動する生き物だ、理性と本能のせめぎ合い、時に感情的に、時に合理的に、だがそのバランスを維持するのは意外に難しい、胆力ある人はこれの維持が人より上手い。自身の感情をコントロールする事に長けているのだ」
なんの話をしているんだ?
インテリの考える精神論は難解でわかりにくい
もっと簡素に単刀直入に言ってもらいたい
「私の娘、明は優秀だよ、だがコレは短慮だ、胆力にかける、いついかなる時も感情を優先する、優秀だとしてもこれでは話にならない、そうは思わないか?康太君」
「明さんは聡明な女性です、兼次さんの言うような事はないと思います」
「ふふ、それは君がいるからだよ、康太君、コレの情緒は君あってのものだ」
「あまり娘さんを愚弄しないでくだい」
「ふふ、済まなかったよ、明の事は私が1番理解しているとつい意地を張りたくなってね、何、明は君に任せるよ、今日はそれに足るか、今一度確認がしたかっただけさ」
「!?では?」
「あぁ、明を頼むよ、康太君」
予想外である、
こんなに話がスムーズに進むなんて
違和感が半端ない
なんか出来レース感が半端ない
しかし自分の娘を生意気な他人のガキにくれてやるために出来レースを企てるか?
わざわざ娘を出汁につかうか?
普通あり得ない
わからない、
何一つとしてわからない
「そうだ、康太君、今日は夕食を食べていきなさい」
「え?あ、いえ、そんなお気をなさら……」
「目上の人には礼儀を重んじるものだよ?康太君」
「……ァぃ…わっわかりました…御馳走になります」
「あぁ、そうするといい」
僕の御馳走になるという言葉にどう思ったのか定かではないが前園母はニッコリと微笑み
「ふふ、では料理の準備をしないとね!」
と元気よく立ち去っていった
もうホントにわからない
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