42話 前園家に向けて その2
昼休みを告げるチャイムが鳴り僕等四人はいつもの屋上ではなく学生達共通の憩いの場へとやって来ていた
屋上は本来開放されていない場所だ
ホイホイ行って良い場所ではないし、先生に見つかれば相応のペナルティを受ける可能性もある。
それこそ退学とまでは行かなくても停学の危険性があるし前園さんに関しては勝手に鍵のスペアを作っている始末だ、普通に退学案件だ。
よって滅多な事が無ければあそこは使わない事とした。
室外機などが多く体に良い訳でもないしね。
「さて、私の家族の話でしたっけ?」
「うんうん!」
前園さんの確認に舞野さんが元気に反応する
聞いても楽しい話では無いのだが彼女は聞く気満々だ。
決して気のせいではない事として周囲から聞き耳を立てている気配がそこかしこからする。
学校のアイドル、前園明の家族の話は彼等彼女等の注意を引くには十分な効果があるようだ。
「私の両親は端的にいって非常に優れた人達です、そのレベルを私達子供にも強要してくると言えばいいのですかね?兎にも角にも求める水準が非常に高い人達なんですよ。」
「前園さんの親父さんってたしかなんとかって会社の社長さんだよね?」
「ええ、父はよく行ってますよ、俺の会社は俺の才能で大きくなった、いわば俺の才能の結晶だと」
「うわぁ…」
「なんかすんごい傲慢そうなオヤジだね、アキちゃんのお父さんて!」
「えぇ、まさしく傲慢という言葉が人の形をしてるような人ですね、自分と他人を比べて見下さずにいられない、康太が苦手としてる私の家族の一人です」
「あぁ…なるほどねぇ…」
康太は自信という言葉とは真逆の位置にいる人間だ
常に自分を『ただの』と揶揄して生きている、そんな康太からすれば自己顕示の権化たるアキラの父はまさしく苦手とする人間の代表格足り得るのだ
「それと母ですが、こちらは所謂フェミニストです、男を汚らわしい物とみなしています、唯一の例外が父なのですがあの父を神聖視していてなにかとお父さんみたいな人と結婚しろが口癖です、一緒にいると基本的に疲れますね」
「…………。」
「アキちゃんの家族めんどくさそ〜」
「あと私には実は妹がいます。」
「マジ!?」
「ええーアキちゃんの妹〜!?」
笹木君と舞野さんが珍しそうな反応をする
周囲の野次馬も前園さんの妹!!?
と過剰な反応をしている
そりゃ気になるよね、前園さんの妹とくれば相当の美少女であることは想像に難しくないだろうし。
「私に似て可愛らしい顔をした綺麗な娘ですよ、妹の琴音は、おそらく中学校でもさぞかしモテている事でしょう、ただ母親の影響をモロに受けていて、男を生理的に毛嫌いしています、男というだけで虫を見る様な目を向ける悪癖があります、なのでやたらモテるのですが今まで恋人が出来た事はありませんね、勿論私にとっての幼馴染である康太に対しても同様ですから康太は一番関わりたく無いでしょうね?」
「そうだね、」
この女、さりげに私に似てと言ったな、意識してか無自覚か知らないけど素が滲み出てるよアキラ君
それはそうと聞き耳を立てていた周囲の反応もまちまちだ、
アキラ君の妹にあわよくばな幻想を抱いていた様だがその妹の方が彼女にする難易度が高い
僕から言わせてもらうならいくら顔が良かろうがメンタルをガリガリ削って圧をかけてくるような相手とは出来るだけ関わりたくはない。
「そりゃまたしんどい相手だな、康太」
「まぁもうね、でもまぁ慣れたものだよ、」
「流石只野君、幼馴染の貫禄だね!」
「はは」
「康太は私の両親に会うのは嫌ですか?」
「え?」
「聞こえなかったですか?」
「………。」
この場でこんな事を聞いてくるとは彼女は、いや、アキラ君は僕を試しているつもりなのだろうか?
いまさら面倒くさいなんてつまらない理由で逃げるなんて選択は僕にはない
「嫌に決まってるだろ?」
「嫌ならやめても良いのですよ?」
「あまり僕を見くびるな、」
「!」
「僕は前園明の恋人、彼氏なんだ、こんな所で立ち止まってたらアキラ君と結婚なんて出来ないしね」
「康太…お前…ふふ、良いでしょう、ならちゃんと付き合ってもらいますからね!」
「うん!」
なんのかんのアキラ君と友達として、恋人として付き合っていくなら通らなければならない関門なのだ
なら逃げてばかりではいられない
あの両親が僕の様な取り柄のない人間をアキラ君の相手に認めるわけないし僕も認めさせる気なんて毛頭ない
アキラ君は僕の恋人だと告げにいくだけでいい
僕は物語の主人公では無いのだからかっこよく両親を認めさせる必要はない
アキラ君が隣にいる、それだけで僕の勝利条件は整っているのだから
帰り道
康太と明とは別のカップルは隣り合って歩いていた
別に手を繋いだり腕を組んだりしている訳ではない
ただ二人が隣り合って歩くだけ
その二人は笹木純一と舞野瑠衣といった
「只野君ってプライベートではアキちゃんの事アキラ君って呼んでたんだね〜」
「だなぁー、前園さんもなんかアグレッシブな話し方だったな、一瞬だけだったけど」
「あの二人普段は全然違う顔してるのかもねー」
「だな、ありえるわ」
「いいなぁ~私もあんな恋愛してみたい〜」
「幼馴染だからな、積み上げて来たもんがありそうだわ」
「純君が私の幼馴染になればいいんじゃない?」
「無理いうな、俺とお前は高一からの付き合いだろ」
「ちぇ〜」
「まぁでも今から10年20年と付き合いがつづいたら俺等の関係も幼馴染と言えるんじゃないか?」
「おお〜、それ良いかもね〜純君はそれまで私に飽きられない様に精々頑張りなぁ〜」
「いやいや、俺がお前に飽きる方が早いかもなー」
「いやいや、私みたいなかわいい美少女に飽きる男なんていやしないよ〜メロメロにしてあげるよ〜」
「自分で自分の事かわいい美少女とかいう面の皮が厚い女なんてお前くらいだよ」
「そんな事ないよ?結構いると思うけどなぁー」
などと話しながら二人は帰路を歩く
この二人の行く末は未だ誰にも…
本人達にもわからない
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