37話 舞野瑠衣その3
私の名前は舞野瑠衣、恋に恋する乙女だ。
これ、前から一度言ってみたかったんだよね、まぁ、誰かの前では言った事無いけど
こんな私にもとうとう彼氏が出来ました!
わーい!パチパチパチ〜!
といっても彼氏とは何をしてくれる生き物なんだろう、
逆に彼女とは何をすればいいのだろう
さっぱりわからない
取り敢えずエロい事をさせてあげればいいのかな?
ソレもよくわからない
周りの男達の視線は大体胸に向くから胸を触らせてあげれば喜ぶのかな?
別に良いけどそれでつけあがられても嫌だから触らせてあげないよ、残念だね、
結局恋人とは何なんだろうなぁ、
でも恋人、そう恋人、彼氏と彼女の形である事にきっと意味があるのだ
只野君に感じたあの思い、あれがただの思い込み、モウソウの産物なのか、それとも本物なのか、私は知りたいんだ。
でも只野君にはアキちゃんがいる
あの二人の関係は偽物の恋人、でも二人共互いを大事に思い合っている、あれ程の絆で結ばれるなんて本来きっとない、深い何かがあの二人にはあるように思えた
私の入り込む余地なんて無い、
何故?どうして?
他人をあんなに信じられるの?
他人はいつだって私を傷つける
友達と思っていた人も
頼りになると思っていた先生も
大好きな両親も、
最後はみんな私を裏切った
だから私は他人を信じない
耳触りのいい言葉でおだてて安心させて
気を抜いた時に他人は私を真っ暗な闇に落とすんだ、
友達だと思ってた子に調子に乗ってるといじめられた
尊敬していた先生は見て見ぬふりした、
母親は余計な手間を増やすなと心配等してくれなかった
父親は母親のご機嫌取りに徹していて私に対する態度は昔からテキトーだった、
中学に進学した頃には自分の殻に閉じこもった
誰とも関わらなければ傷つく事はない、なのに、何もしてないのに、誰々君に色目使っただとか私の彼氏を誘惑しただの言いたい放題だ、
だから高校では徹底的に自分を守る為の最善を常に取り続けた、
友達はいらない、
私を求心する信者みたいな子を増やす事にした
普通はこんなの無理だ、
だけど私になら出来る!何故かって
かわいいからだ。
私はかわいい、自分でも異常だと思うレベルで
みんな私に対して0か10の両極端の反応しかしない
持ち上げるか下げ落とすか、
だから私は渇望する
私と同じ価値観をもった友達を、
私を理解してくれる恋人を
私を受け入れてくれる世界を
放課後、キーンコーンカーンコーンと鐘の音を再現した放送が学校中に流される
「帰ろっか?純一君」
「おー、どっか寄ってくか?」
「そーですな~、」
「ゲーセンとかどう?」
「ふふ、いいね、あんま行った事無いから楽しみ」
純一君と放課後ぷちデートだ、
私相手にゲームセンターなんてチョイスをしてくる男はそうはいない、この私の事を全く意識してない気にしてないチョイスがなかなか魅力的だ
それにあんま行った事無いのは本当で割とマジで楽しみだったりする
そんな感じで楽しみにしてると教室の外から見慣れない男子生徒が気安く話しかけてくる
誰だろう?あまり見ない顔だ
もしかしたら学年が違うのかも知れない
とすると先輩かな?
「おいおい!笹木〜、瑠衣ちゃん相手にゲーセンはセンス無さすぎね?俺ならもっといいとこ案内するぜ?」
先輩男子が得意げに言う、どうせこの手の輩は面白みのない妥当な所かホテルとか言うつもりだろ、
「チッチッ!甘いっすよ?全波?瑠衣ちゃんは妥当な所じゃ満足しないんすよ!瑠衣ちゃんは常に刺激を求めてるからな!ゲーセンとか逆に新鮮で良い!純一君素敵!ってな感じで内心俺の評価駄々ただ上がりってわけっすよ!」
「いやいや、ありえねーだろ?女はゲーセンとか行きたがらないって!瑠衣ちゃんこんな奴ほっといて俺と一緒に行かない?」
「ちょっとまてって、どーせ先輩が一番瑠衣ちゃんと行きたい所とか最終的にはホテルとかでしょ?魂胆見え見えで寒いぞ〜」
「んだとテメェ!?」
「何何?ケンカ?怖いわwいやいやマジ勘弁!」
「ちょーしこいてんじゃねぇぞコラ?」
教室が一触即発の空気になる
笹木に徴発された先輩男子は笹木の胸ぐらを掴んで彼を睨みつける、それに対して笹木はニヤニヤとした表情をして徴発している
「テメェ…、マジちょーしこいてると痛い目見るぞ?」
陽キャ男子は腕を振りかぶって笹木を殴ろうとする、しかしそこで二人の間に舞野瑠衣が割り込むように躍り出て男子の拳をその頬にモロに受けてしまう
瑠衣はその衝撃に耐えられる筈もなくふっ飛ばされそうになるがそれをなんとか笹木がささえる
「バカ!なんでこんな…」
「いつぅ〜、えへへ〜、彼氏を守るのは彼女の役目だしね、」
「アホか!普通逆だろ!とりま保健室に行くぞ」
「うん…」
二人は連れ添って教室を出ていく
あとに残された教室の中の生徒達は約一名に対してヒソヒソと話し声を立て始めていく
無論話の中心は舞野瑠衣を殴った先輩男子生徒になる、
その気がなかったでは済まされない
彼が殴ったのはこの学校で人気の美少女なのだ
その影響力、ヘイトの集約力は果てしない
また自分が傷ついても彼氏を守るという瑠衣の行動に改めて彼女の評価が上がる
兎にも角にも瑠衣を殴った男子生徒は針のむしろ状態だった
「くそが!なんで俺がこんな!見せもんじゃねーぞ!」
そう言って彼は悪態をついて後輩達の冷たい視線から逃げるように出ていく
コレが彼にとって最悪の結果に繋がるとはこの時の彼にはわかるはずもなかった
所変わって保健室に来た二人
笹木は保健室に備え付けられている冷蔵庫から氷を取り出しそれをタオルで包んで殴られた瑠衣の頬にあてる
冷っとした感触が心地良い
「気が効くね〜、彼女としては点数高いよね〜」
「アホか、この場合彼女とか関係ないだろ」
「ふふ、私が彼女じゃなかったらこーいう事してくれないの?」
「友達ならやってるかな、他人なら関わらないようにする」
「はは、馬鹿正直」
「何で俺を庇った…」
「一回殴られるってどんなのか体験してみたかったの、変?」
「余裕で変、普通そんな事思わないし思っても実行に移さない、」
「ふふ、ホント言うとね、見せしめに誰か利用出来る奴が欲しかったの」
「見せしめ?」
「純一君は気付いてる?最近学校で私やアキちゃんに向けられてる視線、普通じゃない、私達が彼氏作ったらアイツ等見境なくなってきてる、ホント嫌になる、彼氏も作らせてもらえないのって感じ」
「………。」
「だから見せしめ、私に軽はずみに手を出そうとする奴には容赦しないってね?」
彼女は強かだ、転んでもただでは転ばない。
相手もろとも引きずり落とす、笹木純一は今にして思う、かなり厄介な女だ、舞野瑠衣と言う女は
きれいな薔薇にはトゲどころの話ではない
「でも殴られて見たかったのもほんとだよ?ふふいたいけど冷たくて気持ちー」
氷を包んだタオルに頬ずりする瑠衣、
目を細めて気持ちよさそうにする、
こういう何気ない態度にはドキッとさせられる
「こりゃゲーセンは無理だな、」
「えーやだやだ、行きたい!」
「安静にしてろドM女」
「ひど〜い、私別にドMじゃないよ?」
そんな彼女の天性ともいえるいじらしさに純一は改めて卑怯だなぁと思わされたのだった




