11話 苦悩
教室に戻るなり前園さんは自分のグループに戻り何かしらの話で盛り上がっていた。
十中八九さっきの話だ
僕が前園明の恋人になる話。
陽キャ軍団はおぉーーとかきやーーとか楽しそうな反応だ
そりゃね、正規の大スクープだ
あの鉄壁の防御力を誇る難攻不落の前園さんに彼氏が出来たのだ
騒ぎたくなるのはよくわかる
そして突然現れた彼氏にも興味を持つものだ
仕方ない事だ
今まで誰とも付き合わなかった美人が突然彼氏が出来たと報告してきたら興味をそそられないわけない
世の中でパパラッチが職業になるんだから間違い無いだろう。
しかし、だからといってキョロキョロこっちを見るのは辞めてほしい
大変メンタルに来る
胃が痛みだす、キューと痛み出すのだ。
「康太先生よ、なんか陽キャ達がコッチちらちら見てるけどなんかあったん?」
「見てるね、すっごく」
「強いて言うなら物珍しい動物に出会った探検家みたいな顔してるぞあいつ等」
「ははは、そりゃ言い得て妙だね」
「心当たりありそうだな?」
「はぁ…黙ってても仕方ない、僕、前園さんと付き合う事になった。」
「はぁ!!?」
笹木君は余りの爆弾発言にびっくりしすぎて立ち上がる、当然笹木君の突然の奇行に一部の生徒は何だ何だと視線を寄こす。
「しっ!声がデカいって!いいから座れ、恋人っても偽だ、偽!虚構の恋人、要はゴッコだよ」
「ああ…成る程ねぇ…」
「え?信じてくれるの?」
「むしろ何処に疑う要素がある」
「うぅ……、」
「前園さんは人気者だからなぁ、彼氏を作ってそいつに防波堤になってもらうって所だろ?」
「概ね正解」
「幼馴染で唯一信頼出来るお前にオファーが来たわけだ、コレはチャンスじゃん!」
「チャンス?」
「だってそうだろ?偽とはいえ恋人なんだ、こっから好感度稼いで本物になっちまえばいいじゃん!」
「そんなギャルゲーじゃあるまいし」
「なんだよ!千載一遇のチャンスじゃん、つーかお前前園さんの事、意識しまくってる癖にいやにいつも消極的だよな」
そりゃそうだ、
前園さん、彼女の中身は元男のアキラ君だ
彼の中にはまだ男としての部分が残っている
そして僕もそんな゛男゛の部分を尊重したいと思っている
この世界にアキラ君を知る存在はもう僕しかいないのだ
その僕がアキラ君をないがしろにしていい理由なんてどこにもない。
そもそもにおいて彼女自身が恋愛に関して消極的だ、そして
「僕は別に前園さんに意識なんてしてない」
「嘘つくなよ〜いつも顔真っ赤じゃん!」
「そんな事……」
そんなやり取りがあった学校生活の一日は終わりを迎えた。
ふいにどうしたらいいのか分からず僕は前園さんの方を盗み見る、華やかな一団の中に彼女はいる
僕の様ななんの取り柄も無い陰キャとは違う
陽キャは皆、花があるのだ、同じ学校指定の制服でも着る奴が違えば見え方も変わってくる
そんな中でも前園さんは抜きん出ている
そんな彼女が小走りで走り寄って来て僕の机の前で止まり今日一番といっても差し支えのない笑顔で言った。
「じゃ行こーか康太!」
彼女のデフォルトの語彙は敬語だ、こんな砕けた話し方は基本的にしていない
それが只野康太の前ではそんな敬語も消え、ほがらかな
自然体の笑顔を向けている
それが教室の中にいる男子、ひいては女子にも心底意外に見えたらしい
前園明がかわいいと言う事を改めて再認識させたのだ
この日を起点に二人が付き合っていると言う事が広まる
学校中に、爆速で
それはつまり只野康太の地獄の始まりを意味していた。
「はぁ…疲れた…」
「何だ?随分お疲れだな…?」
「誰のせいだと思ってる…」
「はは、だからこうしてメシを作りに来てやってるだろ?
そうしょげるな!」
現在この僕、只野康太の家で前園さんは鍋に具材を投入してくれている、
グツグツと茹でる鍋の中の具材からはいい匂いがしている
ただ最近は少し暖かくなってきたからか鍋に対してそこまで強い食欲はない。
互いに一人暮らしの身である
こうして一緒に鍋を突くのは合理的かもしれない
前園、只野、両家の両親は僕達二人を二人きりにする事に肯定的だ
まぁ小学校からの付き合いだし、物心つく頃に既に大学受験するくらいの知能と良識が備わっていたので前園さんの両親の信頼を得るのはそう難しい話では無かった。
というより、前園さん、アキラ君の両親はアキラ君に対して特別強い感情を持っていないのかも知れない、
前世、アキラ君からは親の事に関してはあまり関わるなって空気をビンビンに出してたし、僕の方も親の事に関しては余り触れらたくはない。
互いに小学校くらいまでは親に面識が合ったが中学くらいから余り見かけなくなるのは今も前世も同じだったりする
この部分だけ汲み取れば親がいない、一人暮らししてる高校生って設定的に無理がないか?と言われてる傾向にあるが高校生で一人暮らししてる奴等いるところにはいるモノだ。
「もう、鍋って季節じゃねーな、あちー」
「アキラ君が唐突に鍋食いてーっていったんでしょ?」
「私、基本鍋か焼肉ばっかだからな、楽だし」
「それでよくそのスタイルが維持できてんね、奇跡だよ」
「バーカ、コレでも努力してんだよ、朝のジョギングとか食生活にも気を使ってる」
「さっき鍋や焼肉って言ってたじゃん」
「鍋はダイエットと節約に意外といいんだぞ?」
「マジかよ…」
「具材とダシ次第で味は良いのにカロリーを抑えられるし
腹も膨れるし一石三鳥くらいある!」
「そういう雑なところはアキラ君だな」
「安心しろ、康太専用アキラスペシャルは妥協しないぜ?コスト度外視で振る舞ってやる」
「妥協してくれ……」
「後、私今日泊まってくから」
「あー、了解了解………はぁ!?」
「大分リアクション芸が板について来たな、康太」
「いやいや、待て待て、泊まるぅほわぁい?何故?」
「いや、いちいち家に帰る必要性ある?どうせ明日も一緒に学校行くなら待ち合わせの時間省けるしお前の家に泊まる方が早いじゃん」
「いや、仮にも俺、男なんだけど?」
「あ?知ってるけど?つーか何?お前私を襲いたいの?」
「いや、そんな訳無いけど…」
「じゃ、いいじゃん」
アキラ君はどういうつもりなんだろうか
彼女のなかには男としてのアキラ君の記憶、思い出があるそれは彼自身がさっき言っていた
体は女でも心は男なんだと
そして僕はそんな男としてのアキラ君を尊重したい
これは嘘ではない、本心だ。
しかしアキラ君はそんな僕の決心やら思いをコケにしたような事を偶にしてくる
僕の理想の女の子像を自分の体で体現したり
幼馴染になったり、弁当つくったり、家に泊まったり
確かに男の頃はよく一緒にいた、寝泊まりもした
しかしそれは男の友達として自然な事だ
僕達だって男だ、性欲はある
中身が親友でも見た目は清楚系の巨乳美少女なんだ
自分のなかの男の子を抑えきれるなんて保証は何処にもない、
元男のアキラ君ならわかる筈だ
なのに何故彼女はこんな事をするのだろうか
僕の頭の中で一つの仮説が過る
しかしそんな訳無いと僕はその仮説にフタをした
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