VSチンピラ少年グループ
「ハイ、ちょっといいかしら?」
物陰からとりあえず様子を見守っていた私は、明るい声でそう言いながら姿を現す。
それは、完全に予想外だったのだろう……。
チンピラ少年たちは元より、エイマまでもが驚いた顔を向けてくる。
「事情は知らないけど、女の子たちに男子たちが寄ってたかって凄むのは、少しばかりエレガントさにかけるんじゃないかしら?」
「なんだあ、てめえ?」
私を、自分たちよりほんの少し年上の女と見て甘く見たのだろう。
チンピラのリーダー格らしき少年が、彼なりに精一杯凄んでいるのだろう眼差しを向けてくる。
当然ながら、そんなものにすくむ私ではない。
「そもそも、そこにいるエイマはミラー組の一員よ?
あなたたち、どこのファミリーに属しているかは知らないけど、少なくとも、ミラー組じゃないわよね?
それが、勝手によその組へ属する人間に手を出していいのかしら?
アニキが知ったら、ヤキを入れられちゃうわよ?」
これは、割と冗談抜きに彼らの身を案じての言葉であった。
今回、ミラーが私に頼んだのは、黄金ヘンタイ騎士という超絶的ヘンタイ絡みの案件であるが……。
別に、相手がヘンタイでなかったとしても、見過ごすようなことはしない。
ましてや、手を出してきたのが、よそのファミリーに属する人間だとしたら……。
対応は、厳しいものとなるだろう。
さすがに、本格的な抗争へ発展するような事態は避けるだろうが、相手方のファミリーに使者を遣わし、きちんとしたケジメを求めるはずだ。
相手も、勢いのあるミラー組相手に勝ち目もなく喧嘩を売るような真似はしないから、その要求は一方的に呑まされることとなり……。
結果、ファミリーに不利益をもたらした下っ端君は、キツーイおしおきをされる羽目になるのである。
故に、ここでさっさと手を引くのが、彼らにとってベストな選択であるのだが……。
「ああん!?
てめーにゃ、関係ねえだろ!
すっこんでいやがれ!」
どうやら、この世界へ足を踏み入れて日の浅い――いや、私も浅いが――チンピラ君には、その辺りの配慮というものが全くないようだ。
ツバを飛ばさんばかりの勢いで、そうまくし立ててくる。
「すっこめって言われてすっこむほど、私は物分かりがいい女じゃないの。
そもそも、あなた、さっきから何を凄んでるの?
聞こえてきたところだと、答えがどうのとか言ってたけど?」
まったく怯む様子のない私に、少しばかり気を削がれたのだろう……。
リーダー格の少年が、ちらりとエイマの方を見やった。
「俺は、親切をしてやろうとしてるんだよ。
そこのエイマが、とんでもないヘンタイに絡まれて困ってるらしいってんでな。
その点、俺のねぐらなら、安心だ」
「ああ、何?
守ってやるとか何とか口実付けて、エイマを手籠めにしようっての?
そういうことなら、そっちこそすっこんでなさい。
彼女を護衛するのも、ヘンタイを退治するのも、私の仕事だから」
「ああん!?」
単に事実を羅列してあげただけなのだが……。
それを侮辱として受け取ったか、少年が再び怒りの形相を浮かべる。
わー、コワイ、コワイ。
「頭わいてんのか、テメエ!」
「女だから優しくしてやると思ったら、大間違いだぞ!」
いきり立ったのは、リーダー格の彼のみではない。
取り巻きの少年たちもまた、次々と威嚇の言葉を吐き出しながら、一歩前へと踏み出していた。
「はあー……。
まあ、こうなるだろうとは思っていたけど」
溜め息を吐き出しながら、腰を深く落とし、構える。
結局、最後の最後は暴力という交渉手段に行き着いてしまうのが、グレイフールという町だった。
「ほら、おいで?
優しく痛めつけてあげるから」
「――ッ!
ざけんじゃねえ!」
構えた手で手招きしながら徴発してやると、少年の一人が拳を振り上げながら襲いかかってくる。
駄目駄目。そんな殴りかかる軌道も、タイミングも筒抜けの一撃じゃ。
「――ふっ!」
まずは、下顎へ突き上げるような掌打を加え、動きが止まったところで腹部にも一発、掌底を叩き込む。
そして、止めに勢いよく蹴り飛ばした!
「――がっ!?」
「うおっ!?」
「ちょっ!?」
最後の蹴りは、止めを刺すだけが目的じゃない。
彼自身を砲弾として打ち出すことで、他の少年にぶつけてやるのが狙いだ。
そして、狙い通りに彼らは足を止めてしまい……。
それは、私にとって格好の隙となる。
「――シッ!」
素早く集団へ間合いを詰めての、回し蹴り。
これは、個人を狙っての一撃ではない。
一度に刈り取った下顎と意識の数は――都合三つ!
三人同時に脳を揺さぶってやることで、これを無力化したのだ。
意識を失った少年たちが、悲鳴を上げることすらなく昏倒する。
残ったのは、リーダー格の彼を含めて三人か。
「こ、こいつやべえぞ!」
「お、おい、どうする!?」
「く……クソがっ!」
追い詰められたリーダー格が、ポケットに手を突っ込む。
そして、取り出したのは折り畳み式のナイフであった。
ああ、そういえば、やたらと道具をちらつかせたがるのも、下っ端の特徴ね。
「ざ、ザビーさん!」
それを見たエイマが、悲鳴のような声で私の名を叫ぶ。
別に、心配する必要はないんだけどな。
だって、私の方はもっと物騒な道具を使うつもりだし。
例えば……そこに転がっている鉄パイプとか!
「――ほっ」
息を吐き出しながら、つま先で素早くそれを蹴り上げる。
そして、宙に浮かんだパイプを両手で掴むと同時、一気に踏み込んで先端を突き出した!
「――げぼっ!?」
遠慮のない刺突を受けたのは、リーダー格の隣にいた少年だ。
喉に強烈な打撃を受けた彼は、そのまま力なくくずおれる。
「な……あ……?」
仲間がやられた姿を見て、リーダー格が後ずさった。
ほらほら、せっかく抜いたナイフは使わなくていいの?
まあ、そんなもんを人に刺せる度胸がないことは、最初から分かっているけど。
ハッキリ言って、ここへの道筋を教えてくれた老人の方が、よっぽど怖いかな。
――ガリ。
――ガリリリリリ。
あえて鉄パイプの先端を地面に引きずりながら、ゆっくりと残る少年たちに歩み寄る。
薄い笑みを浮かべながらそうする私に、恐怖したのだろう。
「ち、畜生!」
リーダー格が、目をつむったままにナイフを突き出す。
……うん、私から一メートルくらい先の空間に空振りしてるだけだけど。
「――はっ!」
ともかく、武装した相手は無力化するに限る。
私は鉄パイプを地面に突き立て、それを支柱に高々と跳躍した。
跳躍と同時に、蹴りを突き出す!
「――ぶっ!?」
顔面に蹴りを喰らったリーダー格が、鼻血を吹き出しながら蹴り飛ばされる。
「あ……あ……。
――ぐべっ!?」
最後の一人は、投てきした鉄パイプで打ち倒し……。
ひとまず、チンピラたちの制圧は完了となった。
「ヤグルマ流舞闘術――調和。
ご堪能、頂けたかしら?」
存在しないドレスの裾を摘む仕草と共に、優雅な一礼をする。
「すっごーい!」
「お姉ちゃん、カッコイイー!」
そうしていると、エイマの後ろに隠れていた少女たちが歓声を上げた。
お読み頂きありがとうございます。
アクションシーンは特に力を入れて描写しましたが、いかがでしたでしょうか?
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