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悪役令嬢が如く  作者: 真黒三太
Chapter1 地獄の姉妹
14/16

VS黄金ヘンタイ騎士 上

「先の一撃で、タダ者ではないと分かっている。

 保護するため、まずは無力化させてもらうぞ!」


 そう言いながら、黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)が見せた構え……。

 それは、いかにも隙だらけな、シロウト感丸出しな代物である。

 だが、油断するわけにはいかない。

 アルス(源氏名)さんたちの尊い犠牲によって、こいつが恐るべき剛腕の持ち主であることは判明しているのだ。


「事前にこいつの動きを見れたのは、収穫だった……。

 アルスかっこ源氏名かっこ閉じさんたち……。

 あなたたちの仇は、私が討つわ」


「あの人たち、まだ生きてますよ?」


「いいから、下がってなさい。

 危ないし、アブないから」


 律儀にツッコミ続けるエイマを下がらせ、黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)を迎え討つ。

 迎え討つのだが……どうしよう?

 この鎧、素手で殴ったりしたら、掌底でも絶対に痛いわよね?

 さっき蹴った足、ちょっとジンジンしてるし。


「ふんぬうっ!」


 私の逡巡(しゅんじゅん)など知らぬとばかりに、黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)が拳を振り下ろす。


「おっと」


 それを私は、紙一重のところで回避するが、やはり、侮れない剛腕だ。

 触れるか触れないかのところでかわしたスーツの胸元が、ビリビリと震える。

 拳圧だけでこうなのだから、まともに喰らえばジョン(本名)さんたちの仲間入りをするのは間違いないだろう。

 ……つーか、女相手に容赦ないな! こいつ!


 こういった時は、手頃な武器がないか探すに限る。

 私は素早く、周囲の様子を確認した。


 たまたま通りがかったのだろう、老人が手にしているステッキ……は、勝手に借りたらかわいそうね。殴るのに使ったら、多分折れるし。

 ならば、騒ぎで停車した乗り合い馬車の御者が持っている鞭……は、鎧に対して相性が悪いか。

 だったら、ホルゾンさんが店の前に出している立て看板――これだ!


「むうん!」


 キョロキョロしている間に放たれた横殴りの一撃を、今度は大げさにバク転しながら回避する。

 そのまま、二度、三度とバク転を続け、ホルゾンさんが営むフィッシュアンドチップス店の前に移動した。


「おい! ザビーちゃん!

 あんた、まさか……」


「ホルゾンさん、看板借りるわね!」


 店の前に出てきた中年店主にそう言って、使い慣れた我がメインウェポンを両手で持ち上げる。

 こいつは確か、四代目……いや、五代目だったかな?

 とにかく、毎度のことながら重心といい、重さといい、鈍器として扱うには手頃なブツだ。


「店の前で騒ぎを起こされたホルゾンさんの怒り、思い知るがいいわ!」


「俺が今怒っているのは、ザビーちゃんに対してだ!」


 あー、あー、聞こえなーい。

 というか、聞いている余裕はない。


「ふんぬーう!」


 黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)が、今度は突進してくると同時に、蹴りを放ってきているからだ。


「ふっ――」


 私は、素早く横に飛び退いてこれを回避。

 回避すると同時に、手にした愛用の武器を思いっきり振り抜く。


「――せいっ!」


「――ぐおっ!?」


 フルフェイスの兜を被っているとはいえ、これを顔面に受けたのだからたまらないだろう。

 自身が放った蹴りの勢いも加わり、黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)は、たまらず仰向けに倒れた。

 だが、私のターンはこれで終わらない!


「――でいやっ!」


 立て看板を手にしながら、高々と跳躍する。

 そのまま、倒れ込むように看板を叩きつけた!


 ――バガーン!


「ああっ! またうちの看板があっ!?」


 ……ありがとう、ホルゾンさんちの看板。

 君が砕け散ってくれたおかげで、悪を滅することがかなったわ。

 パン、パン、とスーツについた埃を払いながら、立ち上がる。

 これはもう、生きてはいまい。

 そう思いながら、黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)を見下ろしたが……。


「――むん!」


 何と! バネ仕掛けのごとく軽快な動きで、倒れていたヘンタイが立ち上がる!


「元気百倍!」


 ばかりか、ガッツポーズまで決めてみせたではないか!


「な、何いっ!?」


 必殺の一撃が通用しなかった事実に、動揺し後ずさった。


「そんな……今のは、クリーンヒットだったはず!」


「ファッファッファ……。

 確かに、素晴らしい一撃だった。

 そこな店……料理は油っこ過ぎてイマイチだが、看板に関しては一級品だ」


「やかましい!

 うちのフィッシュアンドチップスは王国一だ!」


 ホルゾンさんの抗議を意に介さず、黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)が続ける。


「確かに、通常ならば、あの一撃でワガハイもダウンしていたかもしれない……。

 だが! 看板が叩き込まれた瞬間、ワガハイは確かに感じたのだ!」


 そう言いながら、黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)は、自分の右腕にそっと左手で触れた。

 触れながら、私に視線を向ける。

 いや……兜のスリット越しに見ているのは、私のオッパイか!?


「この右腕に、ふにょりと触れたその巨乳……。

 鎧越しにも、そうと伝わるほどのやわらかさ……!

 それが、ワガハイに無限の力を与え、致命の一撃を致命足らないものとした。

 言わば、これはオッパイパワー!」


 ――し、しまったあ!


「畜生! 私が巨乳だから……!

 スタイル抜群だったばかりに……!」


「ヌーッハッハッハ!

 ヌーッハッハッハッハッハ!」


 くやしがる私をよそに、黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)の哄笑が響き渡った。

 まさか、私のオッパイから力を得るとは……。

 かくなる上は……!


「――こうなったら!

 ホルゾンさん! 新しい看板を!」


「そんなもん、あるかあ!」


 ――な、何いっ!?


 事ここに至って、武器を失うとは!

 どうする……? この恐るべきヘンタイ相手に、無手で渡り合えるのか?


「ふうん!」


 私の動揺などお構いなしに、黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)が反撃へ打って出る。

 元気一杯に振り回されるその手は、先までと違い、拳を握り込んでいない。

 代わりに、大きく開かれており……。

 私の胸元目がけ、伸ばされてくるのだ。

 こいつ……狙いはオッパイか!?


「――ふっ!

 ――はっ!」


 だが、そう簡単に揉ませてやるほど、私のオッパイはお安くない。

 立て続けに伸ばされる手を、時に飛び退き、時に身をひねることで回避し続ける。

 回避し続けたが、後退していった先にあったのは、ホルゾンさんが営む店の壁だ。

 くっ……追い込まれたか!


「――もらったあ!」


 黄金(ゴールデン)ヘンタイ騎士(ナイト)が右腕を一直線に突き出した、その時である。


「そうはさせません!」


 いつの間に、店内へ入り込んでいたのだろうか……。

 片手鍋とおたまを手にしたエイマが、鍋の中身をすくい上げ、ヘンタイに浴びせかけた。


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