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イメチェンの時は来た! 『オニ・キョーカン・イン・ザ・ヘル』

もっちー「ヘイ、スーチェ、はかせぃ!」

(望月、チョイワル風のいでたちで登場。ぶっちゃけ、全く似合わない)

スーチェ「どうなされたのですか、望月様。いつもと雰囲気が違うようですが」

望月「ふふん、スーチェ、どうだいこの格好。決まっているだろう?」

博士「アホが来たのかと思ったぞ」

望月「チッチッ。僕はね、今日からワイルドかつ危険な香りを漂わせる男になったんですよ。言うなれば、本当の男らしさってやつに目覚めたのだ」

博士「草食もやし野郎が、なーにを言っておる。そういう台詞は、ビソーズ・ブート・キャンプで心身を鍛えなおしてから吐きなさい」

望月「ダメダメ。あんな過酷なもの、とてもじゃないけどやってられないっすよ。それに、今じゃもう流行遅れでしょう。あのバンドとか、きっとみんな処分に困ってますよ」

博士「……ほう、なかなか大口を叩くな。では、私が君を男らしく鍛えてやろうではないか。我が発明品でな」

望月(やな予感……)


 タララタッタタ~ン♪ ←効果音


 トレーニング・マシン、『オニ・キョーカン・イン・ザ・ヘル』!

 己の肉体を鋼のように鍛えたい人、無理なダイエットをしたい人の強い味方! 身体を壊したって知ったこっちゃ無い。短期間に目的さえ遂げられればそれでいい。そんなストイックなあなたの欲求を満足させる、地獄の発明品! しかも運動だけではなく、様々なトレーニングが受けられるぞ!


望月「……さて、今日も真面目に仕事でもするかなあ、と」

博士「まてい! 望月君。今更逃げられるとでも思っているのか? スーチェ君、彼を捕まえるのだ」

スーチェ「かしこまりました」

(逃げようとした望月、とっつかまる)

望月「はわぁぁぁ! ごめんなさい! お許しを!」

博士「楽して自分を変えようなどと、甘い考えを持った君が悪いのだよ。それに、ちょうど実験台が欲しかったところだし、都合がよい。悪いが死んでくれ」

望月「いやああー、オニ、アクマ! 誰かヘルプミー!」

博士「男ならば、大人しくこのカプセルの中に入りたまえ。中で立体映像の教官がトレーニングをしてくれるからな。では、標準的な『軍人』コースでいこう」

(トレーニング・スタート。立体映像のいかつい軍人が、望月の前に出現した)

鬼教官「貴様か! 我が隊に入隊し、腐った根性と惰性で生きている現状を叩きなおし、肉体を極限までビルド・アップしたいという新米は」

望月「違います! そんなつもりはありません!」

鬼教官「何! 貴様、その逃げ腰は何だ! 歯を食いしばれ!」


 バキャッ!


望月「おぐはおえッ!」

スーチェ「なぜか、ホログラムに殴られていますね」

博士「痛みが現実として伝わるように作ってあるのだ。そうでなければ、厳しい訓練にならんからな」

スーチェ「鬼畜な設計ですね」

鬼教官「ようし、二等兵! まずはその性根を修正してやる! 今から流れる音楽に合わせて、悶絶スクワット開始だ!」


チャ~チャチャチャチャ~♪ チャ~チャチャチャチャチャ~ッ♪


望月「ひぇぇぇぇぇ」

鬼教官「もっと腰を入れろ! そんなことでは、いつまで経ってももやし二等兵のままだぞ!」

望月「僕は軍人じゃありましぇーん!」

鬼教官「上官への口答えは許さん! 罰としてあと三百回追加だ!」

博士「うおお、なんと恐ろしい発明品だ……。まさかこれほどまでのスパルタとは思わなんだ」

スーチェ「あの、ドクター。こんな調子で、望月様は大丈夫でしょうか?」

博士「心配ない。このオニ・キョーカン・トレーニング・システムは安全面も考慮し、参加者が生死の境まで行き着くと、ちゃんと訓練を中止するように設計してあるのだ」

スーチェ「そうですか、それを聞いて安心しました」

鬼教官「よーし、次は地獄の腕立て伏せだ! 全身の筋肉に意識を集中しながら、この超速パンク・ビートに合わせて、絶え間なく、リズム良く運動しろ! カウントすることも忘れるな! 腕立てが終わったら休まず腹筋崩壊運動だ!」


 ツッタンツッタンツッタンツッタンツッタンツッタンツッタンツタタタ♪


望月「うごおおおお! はかせぇぇ! もうだめですぅ! 止めてくださいぃぃ! し、死ねるぅぅぅぅっ」

博士「む、だいぶ懲りたようだな。では、これくらいで許してやるとしよう」

(博士がトレーニングを途中終了させると、鬼教官はカプセル内から姿を消した。望月は地面に崩れ落ち、ピクリとも動かない)

博士「うーむ、ちょいとやりすぎたかな。……まあ、勘違い野郎にはいい薬か」


スーチェ「ドクター、私もトレーニングを試してみたいのですが」

博士「そうか。まあ、何事も経験だな。では、特別コースでいこう。その名も、『伝説のメイド長コース』! 一流のメイドとして鍛えてくれるぞ!」

スーチェ「素晴らしいです! ドクターは本当に天才ですね」

(瀕死の望月が無造作にカプセルから引っ張り出され、代わりにスーチェが中に入る)

博士「よし、スーチェ君はかわいいからな、厳しさ控えめの初級モードにしておこう。では、トレーニング、スタート!」

(カプセル内に出現したのは、メガネをかけた、背の高い、いかにも仕事ができそうなインテリ風メイド長である。彼女は品定めをするかのように、じっとスーチェを見つめた)

伝説のメイド長「……あなたが、訓練希望の新しいメイドかしら?」

スーチェ「はい。アンドロイド・スーチェです。よろしくお願いします」

メイド長「なるほど……あなた機械なのね。表情をコロコロと変えないあたりは、なかなか素質がありそうだけど、プロのメイドになるのは、そうたやすくはないわよ?」

スーチェ「はい。理解しているつもりです。ぜひ、ご指導をお願いします」

メイド長「よろしい。では、始めに挨拶から。朝は、『おはようございます、ご主人様』。基本中の基本ね」

スーチェ「おはようございます、ご主人様」

メイド長「動きがぎこちないわね。お辞儀は腰を軸にして、ゆっくりと曲げなさい。この時、深くなりすぎないように。それから、両脚はぴったりとつけ、両手はお腹の前で重ねて、主人の機嫌を損ねないようにするの。まぶたを閉じるのもポイントね」

スーチェ「勉強になります」

メイド長「では、次。カプセルの外でニヤニヤしながら見てる、あのボンクラにモーニング・ティーをお出ししなさい」

ボンクラ博士「はぁ~い、拙者、ボンクラ博士でぃす。メイドさん大好き、お世話してして」

メイド長「……いくらキモくても、顔に出してはだめよ。あれが彼の現実なのだから」

スーチェ「はい。ドクターは世界一の美男、最高の男性として教えられていますので、一切問題ありません」

メイド長「よろしい。ご主人様は絶対ですからね。ロボットにしては、なかなか見所があるわ。さあ、いい歳こいてメイドさん大好きとか言ってるあの気持ち悪い男に、早くお茶をお出ししなさい」

スーチェ「はい。では、すぐに淹れてまいります」

メイド長「いえ。そこにキッチンがあるので、それを使いなさい」

スーチェ「あ、さっきまで米軍のブラッドレー歩兵戦闘車が置いてあった場所が、いつの間にかシステム・キッチンに……!」

博士「言い忘れたが、カプセル内の設備は、トレーニング毎、状況に合わせて自動的に換装される仕組みなのだ。凄いだろう、えっへん」

スーチェ「では、ここでお茶をお淹れします。ポットでお湯を沸かして……」

(スーチェ、水温に気を遣いながらお湯を沸かす)

メイド長「……」

スーチェ「それから、この茶葉を…………きゃあっ!」

(何故か、何も無いところで派手にすっころぶスーチェ。手に持っていたポットのお湯が、盛大に飛び散った)

博士「おお! スーチェ君のドジっ娘属性が久しぶりに見れたぞ! ……って言ってる場合ではないか。スーチェ君、大丈夫か?」

スーチェ「でん部を打ちましたが、ボディーの損害は皆無です。それよりも……」

(モロにお湯をかぶった機械が、バチバチと火花を発している。危険な状態である)

博士「や、やばいぞ、これは。……と、とりあえず急いでカプセルから出るのだ! スーチェ君」

スーチェ「……ドクター、緊急ロックがかかっているらしく、扉が開きません」

博士「そんなもの、ぶっ壊してでも構わん! 無理矢理脱出するのだ!」

スーチェ「それが……先ほどから全力で挑戦しているのですが、全く効果がありません」

博士「し、しまった! あらゆるトレーニングを想定し、核爆発にでも耐えうる強度にしてあるのだった! いくらスーチェ君の力でも、素手では破壊できない!」

(カプセル内に非常警報が発令される。赤い照明が点灯し、機械が煙を噴出し始める)

博士「うおお! ロックの解除信号を受け付けないぃぃ! なんてこったあーーーー!」

スーチェ「ドクター、間もなく、爆発が起きます。強度を考えればカプセルの外は安全なはずですが、爆発の規模は全く予想ができません。私のことには構わず、一刻も早くここからお逃げ下さい」

博士「何を言う! カプセル内では確実に大爆発が起こるのだ。このまま君を見捨てることなど到底できん! 君はもう……、家族の一員なのだからな!」

スーチェ「か……ぞ……く?」


(その時である!)


????「やあやあ、皆さん。お困りのようだねえ?」

博士「誰じゃイ! このクソ忙しいときに、私に声をかけるな! 今から手動で何とかしようと──」

(博士、怒りながら振り向く。すると、そこには物凄くガタイのいい精悍な男がいた)

博士「──って、あなた、ホントにどちら様?」

????「あははははぁ! 何を言っているのですか! 僕ですよ! 望月ですよお!」

博士「な、なにぃ! 望月君だと? さっきまでと全然違うではないか!」

超・望月「はっはー。わからないのも、無理もないですね。まさに、イメチェン成功。さっきの地獄のトレーニングのおかげで、一気に超絶パワーアップしたんですよぉ。見てください、この芸術的かつ無敵の肉体をォ!」

(望月、究極にまで鍛え上げられた肉体を見せ付けるかの如く、ポーズを決める)

博士「そんなことはどうでもよい! 望月君、見ての通りのピンチじゃい! 場合によっては周辺住民もろとも木っ端微塵と成り果てるぞ」

超・望月「ふふぅ、博士ぇ、絶望するにはちょい早いですよ。そう、私がいる限りはねえ!」

(そう言って望月、カプセルの扉に手をかける)

超・もっちー「イエーーース! アイ・キャンッッッ! ホォォォォォッ!」


 バキャバキャ!


(望月、扉を力任せにこじ開けた! スーチェ、無事に脱出成功!)

博士「おお! 信じられん……」

超・望月「あとは、僕にお任せを! さあ、宇宙の果てまで、飛んでいけぇぇぇぇ!」

(望月、カプセルを遥か上空に向けて投げ飛ばした。カプセルはあっと言う間に星となり、その後の爆発の規模、破損の是非は不明である)

超・望月「ははは! ミッション・コンプリート! ムゥン!」

(望月、自慢げにポーズを決める)

博士「うぅむ、まさかあのオニ・キョーカンにこれほどの効果があるとは。みんな無事で済んでよかったが、あの発明品が無くなってしまったのは少しばかり残念だな」

超・望月「ノォォォン! あんな危険な物、ない方が平和ですよォ! まあ、今の僕ならば、あの鬼軍曹の訓練など屁でもないですがね! ムッハァ!」

スーチェ「……またも、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。私って本当にダメなアンドロイドですね……」

博士「なあに、君は学習型なのだ。焦らずにやっていけばよいではないか」

スーチェ「お気遣い、感謝します。でも、メイドの道は険しいです……」

(そう言って、若干の憂いを含んだ表情を浮かべるスーチェ)

博士「感情表現も、だいぶ人間らしくなってきたな。うん、うん」

スーチェ「……あの、ドクター。ひとつ、お聞きしてもよろしいですか?」

博士「ナンだね?」

スーチェ「さっき仰った……その、かぞ……」


 プシュウウウウウ。


(背後から空気の抜けるような音がして、博士が振り向くと、そこには変わり果てた望月の姿があった)

超薄・望月「はああ……急に全ての力が……抜けましたよ……。気力も……体力も……夢も……希望も……何もかもがが……僕の手元を去ってゆく……」

博士「これはひどい。まるで、しぼんだ風船のようではないか。超絶パワーアップ、やはり身体への反動が大きかったようだなぁ(プッ)」

超薄・望月「はかせぇ……、何笑いをこらえてるんですかぁ。早く、助けてくだちゃぃいよぉ……」

(望月の身体は超ペラペラで、ちょっとした空気の流れで飛ばされそうになる)

博士「うむ。まあ、今日は君に助けられたからな。……スーチェ君、急いで彼の治療をするぞな。手伝ってくれたまえ!」

スーチェ「え……。は、はい。かしこまりました」

超薄・望月「ほええ。こういうオチばかりで……まことすみませんねえ……。ひらひら~~」

(ひらひらと宙を舞う、超・薄型望月。スーチェはそんな彼をトングで上手に捕獲して、医務室へと向かうのであった)


 *  *  *


 またもや一触即発の事態を乗り切った、国津山科学研究所一同。この後、望月は無事に元通りに回復したが、それからの彼は一切イメチェンを考えなくなったそうである。

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