総員、迎撃体勢をとれ! 『サガミン上陸』
2012/05/07……加筆修正を行ってみました。そして、サガミン。相模湾から現われたから……サガミン。我ながら、何と安直な……。
望月「博士! 大変です! テレビを見てください!」
博士「何を騒いでいるのだね。年末だというのにつまらない番組しかやっていないテレビ放送など興味はない。民放より教育チャンネルの方が大分ましだ」
アナウンサー「……繰り返しお伝えします。相模湾に突如出現した怪獣『サガミン』が、街をこれ見よがしに破壊しながら都心へ向けて移動しています。このペースでは、およそニ時間後には首都圏の中心部へ到達する見込みです。進路上の皆様は急いで避難をして下さい。なお、大混乱が予想されますので……」
博士「ほう、これはなかなか面白そうな怪獣映画ではないか。ネーミングセンスは私に遠く及ばないがな」
望月「博士! これは映画じゃなくて現実のニュースですよ。現実に怪獣が現れて、暴れまくっているんです」
博士「ふ~ん、そうなの。……まあ、いいんじゃない。別に他人がどうなろうと知ったこっちゃないし」
望月「い……いやいや! いつものハイ・テンションはどうしたんですか! これこれ、怪獣の予想進路を見てくださいよ! この研究所をモロに通りますよ!」
博士「なぬ!」
(博士、テレビ画面に引っ付いて目の色を変える)
博士「けしからん! 人間どもは何をやっておる! 指をくわえて蹂躙されているだけか?」
アナウンサー「続報です。……先ほど行なわれた自衛隊とアメリカ軍の共同作戦は失敗に終わり、サガミンは戦車や航空機の攻撃にも耐え無傷でした。アメリカ軍にいたっては被害が大きくならないうちに早々と撤退しました。説明によれば、『相手が人間ではないので安全保障の対象外だ』とのことでした」
博士「そーれ見たことか! 日米同盟などこんなものだ! いざとなったら何もしてはくれん! そもそも……」
望月「博士! 大丈夫ですよ。こういう時のために、我が国には地球防衛軍がありますから!」
アナウンサー「地球防衛軍は、過去に一人で異星人のマザーシップを撃墜した伝説の英雄『トルネード1』が、ちょうどハワイ旅行に出かけて不在のため、怪獣に全く歯が立ちませんでした。その英雄の友人曰く、『あいつは昔からああいう奴だった。周囲にチヤホヤされて調子にでも乗ったんだろう』だそうです」
望月「……ま、まだまだ! 日本にはあの巨大ヒーロー、ウレトルマソがいます」
アナウンサー「ウレトルマソは長引く不況でギャラが減ったのが気に食わなかったらしく、まったくやる気を出さないまま自分の母星へ帰ってしまいました。余生は実家で為替取引に精を出すとのことです。子供の夢をこっぱ微塵にぶち壊したこの言動に、関係者各位は極めて遺憾の意を表しています」
望月「あんぐり……」
博士「むう……揃いも揃って、なんたるザマだ……」
望月「仕方ありません、博士。ここを離れ、我々もさっさと避難しましょう」
博士「このばか者めが!」
ばきぃ!
望月「おぐほぉ!」
(殴られてカッ飛ぶ望月)
博士「我々が何のために日夜研究を続けておるか! 全ては隣人、全人類を救うためであろうが!」
望月「さっきと言っていることが違う……」
博士「私は逃げぬ! サガミン、この日本は私が守る! 来るなら来い!」
望月「で、でも、博士。そうは言っても、あんな大きな怪獣に対して、僕達に一体何が出来るんですか?」
博士「全く、君は今まで何を見てきたのだね。私の研究は常に先を読んでおる。こんな時のための発明品もすでに完成しておるのだよ」
(博士がメイン・コンピュータを操作すると、研究所の地下から巨大すぎる砲台が姿を現した!)
望月「うおおッ! こ、これはなんともえげつない……」
博士「名付けて、E2C……エコロジカル・エナジー・キャノン! 大気中にある元素を波動エナジー変換装置に取り込み、無理矢理強力な光線として撃ち出す。理論上、破壊できないものはないという地球に優しい最終兵器!」
望月「今回は割と普通ですね。原理やメカニズムは無茶苦茶ですが」
博士「文系の作者が自分の勉強不足を棚に上げよって、科学的な考証は気合と妄想で補えばいいとほざいておる。あとはプラズマを利用して何ちゃらとか言っておけば案外何とかなるんじゃないの、とか言う体たらくだ。全く嘆かわしい」
望月「本当にいい加減だなあ……。それに、そもそも、なんのためにこんな物騒な物を作ったんですか」
博士「むかつくことがあったら、ぶっ放してやろうと思って作った。例えば、年末に楽しそうにイチャつくカップルとかに向けて」
望月「妬みですか(まあ、そんな事だろうと思ったけど)」
キャスター「あれを見てください! サガミンがS市を通過中です! 警戒区域内の住民は急いで避難を!」
望月「だっはぁ! 博士! 来ましたぜ! サガミンのヤローが!」
博士「座標設定、距離測定、照準合わせ。軌道修正完了。よし! やつのどてっぱらにブチこんでやる! お見舞いしてやる! この研究所にケンカを売ったことを後悔させてやるぜぇぇぇぇ! げへへえ!」
サガミン「がおおおおおおん」
望月「博士ッ、エネルギー充填120パーセントぉ! いつでも発射可能っ!」
はkせ「よっしゃああああ! しにさらせぇぇぇ! こんの犬っコロめがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
(博士、E2Cの引き金を引く!)
……バツン。
博士「あ、あれ、おかしいな。真っ暗だあ」
望月「また、ですか……」
博士「……てへ」
望月「てへ、じゃないっすよ! 何か変だと思っていたんですよ! これだけの兵器を動かす電力を、どっから供給しているのか! 研究所の電力じゃあ無理に決まってますよ!」
博士「いや、すまん。だいたい、完成したところで満足してしまうのが私の悪いクセだからな。あと、自家発電システムを作るのも忘れとった」
望月「のああああああ! サガミンがもうすぐそこにぃ! もうだみだあ! 博士、どうにもなりません。逃げましょう!」
博士「いやじゃあー! この研究所を見捨てるなんて、わしゃあいやじゃあー」
(博士、泣き叫びながら椅子にしがみつく。と、その時、研究所に緊急回線を用いての通信が入った)
スーチェ「こちらスーチェ。ドクター、私の声が聞こえますか?」
博士「おお……スーチェ君、私はもうだみだ……。サガミンが……サガミンがいぢめるんじゃあ」
スーチェ「その件に関してひとつ提案があるのですが、私は今ちょうどサガミンの進路上にいます。研究所の危機を受け、これより怪獣サガミンの撃破に向かいたいと考えています」
望月「えええっ! さすがにそれは無茶だよ、スーチェ! いくらなんでも、怪獣相手に君一人の力じゃあ……」
スーチェ「人がする、曖昧な計算は……憶測、推測。でもそれが可能性と呼ばれるものを導き出す。……違いますか?」
復活の博士「うおおおお! よくぞ言ってくれた! 君と言う可能性にかけてみよう! すぐにモップ君を射出するぞ! 座標を転送するから受け取るのだ!」
スーチェ「了解しました」
* * *d
「町内カタパルト・デッキ、オール・クリア! すごいよモップ君、射出可能」
「よおおおし! モップ君、ゴォォォォォォ!」
博士の承認を受け、三丁目児童公園カタパルトからモップ君が射出された。
「座標、確認。軸合わせ、完了。乱数補正、終了。セミオート・シンクロナイズド・モード・アクティブ・コネクト!」
高速で飛来するモップ君を空中で受け取るスーチェ。
「接続完了。電源接続。データ送受信。戦闘モードへ移行。システム、オーバーライト実行。これより、敵戦力の殲滅にかかります」
空中で回転しながら、サガミンの頭上へ降下するスーチェ。振り下ろされたモップ君の一撃、はサガミンの額に容赦なくめりこんだ。
「ぐぎゃおおん(いってええええ)」
激痛から暴れまわるサガミン。怒りに身を任せ、着地したスーチェ目掛けて口から火炎を吐き出した。
「MFF(モップ君フォース・フィールド)展開!」
耐熱! 耐衝撃! 耐貫通! 耐圧! 耐カビ! 耐サビ! 耐加齢臭! ……とにかく色々と万能なバリアが形成された。
「がおおおん(こなくそぉぉ)」
サガミンは炎が効かないとみるやいなや、その図太い足でスーチェを踏みつけた。体長五十メートル超の巨体を支える巨大な片足が、グリグリとスーチェをすり潰しにかかる。
「博士、まずいです! フィールドの限界を超えた圧力がかかっています! スーチェの関節部分がもちません! シグナル・オレンジ」
「ぐっ、止むをえんな……! スーチェ君、S種兵装発動許可だ! やーーってしまえい!」
「りょう……かい。Sモード発動ぉ……」
ピピッ。
その直後、スーチェが怪獣サガミンを吹き飛ばし、仰向けにひっくり還した。そのまま宙高く舞い上がるスーチェ。手にしたモップ君の形状が変化し、スーチェの体を包み込んだ。モップ君は白色のスーツ型兵器へと変化したのである。
「スーチェ君! ここに表示されているそのモードの活動時間の限界は、一分三十秒だ! 急げ!」
「速攻をかけます!」
モップ君を身にまとったスーチェが勝負をかける。背中から飛び出た三基のエコロジカル・バーニアを噴かして空中を疾駆し、一直線に向かってゆく。立ち上がったサガミンが吐き出した炎の只中を突っ切り、構えながら突撃する。
「いくぞ怪獣サガミン! 必殺、マインド・クラッシュ・エクスペリエンスぅ! ノーモア・トラウマ・メモリーズ・インパクトォォォォォ!」
ズドォォォォォォン!
「ギャヒィィィィィオン(ナンジャソリャー)!」
博士考案の変ちくりんな名前の打撃技が炸裂し、サガミンはその巨体を揺さぶりながら全身の力を喪失。轟音と共に地面へ崩れ落ちた。
「サガミン沈黙。戦闘終了」
モップ君のSモードが解除され、スーチェと共に元の姿に戻った。緊急クールダウンのため、放熱ダクトから熱風が吹き出した。
「やばっ。博士! スーチェを大衆の目に晒してしまいました。騒ぎが大きくなる前に彼女を回収しないと」
「よし。スーチェ君、ばれないようにこっそりと、かつチーターのように素早く戻ってきなさい」
「かしこまりました。まるで何事もなかったかのように帰ります」
* * *
現地キャスター「信じられません! あっと言う間の出来事でした! 突如現れた空飛ぶ謎の美少女が、あの恐るべき暴虐の怪獣を倒したのです! 彼女は一体何者だったでしょうか? ……目撃者の方たちに話を聞いてみたいと思います」
望月「……ああ、もうバレバレですね。映像も録られているし、すぐにここに取材が来ますよ」
博士「スーチェ君は普段から外出しておるし、人目に触れることもある。こういった展開も、遅かれ早かれと言ったところだ。──が、しかし。今はまだ、彼女を公表すべき時ではない。何があろうと白を切るとしよう。ほとぼりが冷めるまではな」
望月「何はともあれ、彼女が日本を救ったことは事実ですね」
博士「うむ。かなりボディーが損傷してしまったがな。緊急リペアが必要なほどに」
望月「凄まじかったですものね。まさか、スーチェにあんな戦闘モードがあるなんて……驚きましたよ。今度ばかりは本当に博士の凄さがわかりました」
博士「そうだな。私も驚いたよ。スーチェ君にあんな機能があるとはな」
望月「…………はい?」
博士「いやあ、あんまりピンチになったもんで、ついテキトーな指示を出してしまったのだよ。そしたら、スーチェ君が本当にパワーアップしてくれたんで、びっくりしたさね。いや、本当に凄い娘だね、彼女は」
望月「ええーーーーーー! だって、モップ君が変形したじゃないですか! あれは博士の設計じゃないんですか?」
博士「知らん(キッパリ)。そんな機能を付けた覚えはない」
望月「あんぐり……」
博士「全く、不思議なこともあるもんだ。奇跡とは、可能性とは、こういうことを言うのだろうなあ。わはははははぁ!」
望月「むむ……納得がいかないぞ。……もしかしたら、彼女は何か──」
(ここで、別室からスーチェ登場)
スーチェ「あのぅ、少しよろしいですか?」
博士「どうしたね、スーチェ君。応急リペアが終わるまでは動くなと……」
望月「ブーーッ!」
(スーチェの裸同然の姿を見た望月、鼻から大量の流血)
スーチェ「あ、望月様。生命維持に支障をきたす量の出血が……」
博士「おお、そういえば服のスペアがもう無かったな。……すまんスーチェ君」
スーチェ「はい、問題ありません。さっきの戦闘で服がぼろぼろになってしまったので。着替えの洗濯が済むまでは、このままですね」
望月「お……お花畑が……見えて……きますた……」
博士「ではすまないが、望月君の目の届かぬところで過ごしてくれたまえ。彼にはこういった系統の免疫がないらしいから、出血多量で本当に死にかねん」
スーチェ「かしこまりました。失礼いたします」
博士「うむ。今日は本当にご苦労だったな」
望月「あの娘は……機械……あの娘は……機械なんだ……」
博士「我ながら、彼女を精巧に作りすぎたかな。ほれ、しっかりせい、望月君。そんなことでは一緒にやっていけんぞ」
望月「博士ぇ……やはりあなたは天才ですよ……ぐはあ」
* * *
怪獣サガミンを撃破した、国津山科学研究所職員一同。人々は、彼らの活躍によって明るい未来を守られたのである。ちなみに、サガミンはこのあと心を入れ替えて、静かに海に帰っていったそうな。めでたし、めでたし。