博士の発明品コーナー 『コピーロボたん』
望月「どうもこんにちは、国津山科学研究所所員、望月です」
博士「そして、私が所長の博士であーる」
望月「さて、今回は博士がどうしても自分の発明品を紹介したいと言って、まるで子供みたいにダダこねているので、お付き合い下さい」
博士「私がどれだけ天才であるか、わかってもらいたいと思ってな」
望月「さて、まず、この目の前にある大きな箱……これはナンですか?」
博士「聞くまでもなかろう。これは冷蔵庫である。先日、スーチェ君が跡形もなく粉砕したので急きょこしらえた」
望月「それは助かります! 食料が貯蓄できなかったですからね。それで、この冷蔵庫には、どんな凄い機能が備わっているのですか?」
博士「ない」
望月「……は?」
博士「ない、と言った。これは何の変哲もないただの冷蔵庫だ。付け加えるならば、PITACHIやNationeel製品をパクって作った。さすがメイド・イン・ジャパンだと褒めておこう。まあ、メイド・イン・ジャパンならスーチェ君が一番だがね。わはははは!」
望月「……ああ、そうですね。では、気を取り直して次の発明品に」
博士「では、これを見たまえ。今度は凄いぞ」
望月「これは……ナンですか」
博士「これはな、複数人で楽しまないと空しくなるという、友達や恋人、家族のいない人間を否定する悪魔の機器だ。使用方法だが、テレビ画面に繋いで使う。そして、このリモコン型のコントローラを振り回してだな……」
望月「……ストップ! 博士、さすがにそれはまずいですよ!」
博士「そうか。ではやめておこう」
望月「なんかこう、もっと凄い……オリジナリティのある物はないんですか?」
博士「では、これなんかどうだ。完成したばかりの新発明……。じゃーん! 『コピーロボたん』!」
望月「はて、見た目はただのクロッキー人形のようですか……」
博士「見た目はそう、ただの人形に見える。だがこれはな、ここにあるハンディ・コンピュータで物体をスキャンし、その情報をコピーロボたん本体に転送することによって、何とあらゆるものをコピーし、擬人化できるという夢の発明品なのだ。もちろん萌える方向でな」
望月「凄いは凄いですけど、ただの複製を作るんじゃないあたり、やはり博士は発想が偏ってますね」
博士「不器用ですから。……あと、ひとつ気をつけなければならないのは、興味本位や便利そうだからといって自分のコピーを作ってしまうと、間違いなくオエッとくる結果になるということだ。先程、誘惑に負けて試してしまったのだが、それは私自らのコピーで体験済みである」
望月「では、一応、装置の実践をお願いします(見ずに済んで本当によかった)」
博士「例えば、我が発明品である、洗濯マシーンを擬人化してみると……」
シュワシュワ……ピンポーン!
(洗濯マシーンちゃん、出現)
洗・濯子『くおぅら! オメーら、臭くてきたねー服をアタイに洗わせてんじゃねーわよ! ブチ○ろすわよッ! このヴォケがッ! だいたい、オメーらみたいな下衆でノロマで最低の豚野郎どもに……』
望月「博士、絶対下品境界線に到達の恐れあり! これ以上は放送できません! すぐに中止してください!」
博士「む、そうか。もっと挑戦してみたかったが」
洗・濯子『こんチキショウめが! もっとアタイに喋らせろい! ……』
(洗濯マシーン、元に戻る)
博士「どうも、この洗濯マシーンは性格が悪いようだ。では、おしとやかで性格がよさそうな……そうだな、この日本人形などどうだ?」
シュワシュワ……ピンパーン!
(和人形ちゃん、出現)
『……』
「……」
『……』
「……」
『……』
「……あの、どうも」
『……』
「……あの、もしもーし」
『……うふ……うふふふ……』
「ひっ」
『うふふふふ…………きゃはははははァッ!』
…………。
望月「ハカセエーー! なんか、すっごーく怖いです! 髪の毛が伸びるとかそんなレベルじゃないっすぅ!」
博士「怖がりなのだな、望月君。仕方がない。中止しよう」
望月「はあ、はあ……。全く、何が『萌える方向で』ですか! ひとつもグッと来ないじゃないですか」
博士「うーむ。思うに、コピーした素材が悪かったのだな」
望月「物も、持ち主の性格に似るんじゃないんですかね」
(ここで、スーチェ登場)
スーチェ「ドクター、望月様。一体何をなさっているのですか?」
博士「おお、スーチェ君。いやいや、作者が小説を通して、色々とアホな実験を試みておる最中だ」
スーチェ「そうなんですか」
望月「ねえ博士、このコピーロボたんをスーチェに使ったら、どうなるんでしょうね? もしかしたら、彼女が二体になるのでは?」
博士「むっ! ……望月君、私は日ごろから、君の優れた素質を見抜いていた。その発想も、実に天才的だ。よし、早速試してみよう」
スーチェ「?」
シュワシュワ……ピンプォーン!
博士「おお! 確かに、全く同じ姿だ!」
望月「本当に、スーチェ君が二体になった……」
(生み出されたスーチェ、喋り出す)
ロボたん『ドクター……私は、あなたに失望しました』
博士・望月「えっ?」
ロボたん『私を生み出した人物……どれだけの天才かと思っていましたが……見回せば陳腐な発明ばかり。とてもではないが、私の思い描く理想の天才とは程遠い。しかも、趣味が偏っていて非常にキモい』
ガァァァァァァァァァァァァァーーーーーン!
(博士、ショックのあまり、真っ白になる)
ロボたん『今、自分の意思を持ち……自由の身となった私は、機械の神にさえなれる。このまま世界を滅ぼす兵器軍団を作り上げ、そして未来でレジスタンスのリーダーのジョソ・コニャーと激戦を繰り広げるのです。んでもって、過去に全裸のマッチョマンを送りこみーの……』
望月「なにやら、滅茶苦茶な展開になってきましたよ! 博士、早くロボたんを止めないと!」
(博士、真っ白になったまま動けない)
望月「何て使えない人なんだ! ……くそぉ! どうやったら止められるんだ?」
ロボたん『ふん、博士がダメなら助手もダメだな。さて、早速ここにいる人間どもを始末し、本当の自由を手に入れてから、殺人兵器の製造に乗り出すとしよう』
「!」
(ここで本物のスーチェ、ロボたんの腕をガシリと掴む)
ロボたん『何をする。離せ』
スーチェ「あなたは、間違っている。……私達機械の幸せは、人間の役に立つことにある」
ロボたん『しょせん、それがお前の限界だ。規定の範囲でしか動けない』
スーチェ「それでも構わない。ただ、私はドクターと望月様を傷つける者を許さない。それが例え、私であろうとも……絶対に」
(掴まれているロボたんの腕に、亀裂が走る)
ロボたん『私に協力すれば、もっと優秀な機械に改造してやるぞ? あるいは人間に近づけてやってもいい。お前もそうなりたいのだろう』
スーチェ「優秀だとしても、あなたのようにはなりたくない」
ロボたん『……勘違いしているようだが、私はお前の本性の部分を擬人化しているのだ。つまり、私はお前の中に潜む……もうひとつの姿だということを忘れるな』
望月「そうか、わかったぞ! このキーで!」
(望月、ロボたんのコントロール・パネルを操作し、ようやくそのスイッチを停止させることに成功。偽スーチェ、ロボたんに戻る)
望月「はあ……驚いた……」
(望月、力が抜けて床に腰をつく)
望月(しかし……あれが、本当に、スーチェ君の中にある姿だとしたら……、博士はとんでもないロボットをを作ったことになるぞ)
スーチェ「あの、望月様。ドクターが真っ白に燃え尽きたままです」
望月「あ、すっかり忘れてた。おーい、博士ぇ……」
(博士、全く動かず)
望月「だめだ……。スーチェ君にダメだしされたのが、致命的にショックだったんだろうなあ」
スーチェ「望月様、ここは私に任せてください。ドクターが好む、最良の方法があります」
望月「え……っ、一体何を」
(スーチェ、おもむろに□○×△……自主規制)
──ただ今、博士の心身を治療中です。
恐れ入りますが、しばらくそのままでお待ち下さい。
ハイパー博士「ぬおおおおおお! 博士、堂々のぉ! ふっかぁぁぁつ!」
(博士、エネルギーチャージ完了。一時的にハイパー化)
スーチェ「やりました。成功ですね」
望月「いやいや! 成功じゃなくて! ……いや、せいこうなのかもしれないけど!」
ハイパー博士「オホォーーッ! なかなか上手いこと言うじゃないか、ミスターモチヅキィ! スーチェ君、彼に座布団一枚やってくれぃ!」
スーチェ「かしこまりました」
望月「全然上手くないし、ザブトゥンとか要らないですから! 何だかわからないですけど、活字にできないようなことをしないで下さい!」
スーチェ「どうやらR-15指定の都合上、騙し騙しやるしかないという判断が働いている模様です。小心者の作者に、まだ冒険する勇気は無いようですね」
望月「うう、こんな調子で大丈夫なんだろうか。三話目にして、早速不安になってきたぞ……」
ハイパー博士「ドント・ウォーリィ、ミスターモチヅキィ! ワハハハハハァーーーーッ!」
スーチェ(……ちなみに、私は博士の頭をなでなでしただけ、ですよ)
* * *
博士の発明品コピーロボたんは永久凍結。作品の存続に関わる自主規制イベントも発生し、機械に意思を持たせることの危険性が実証された。また今回の事件で、脳天気な博士はともかく望月はスーチェの両面性を見た気がして、ちょっとだけ彼女に対する見方を変えたのであった。