元宮廷魔術師の冬休みの話
雪で埋もれた大地を冬晴れが照らす。
ケテル国王都にて、新年と煌王の誕生日を祝う祭りは今年も盛大に行われた。
その夜。ゼクトゥズに在るゾランアルド公邸の一室で、邸宅の主はタイを緩めながら息を吐いた。
「どうだった、新王は」
「ええ。どうやら、公とは相性があまりよろしくないようですね」
それを聞いたゾランアルドは声を立てて笑った。
「そんな返答を寄越すのは君くらいだろうよ」
煌王とゾランアルドの付き合いはそれなりに長い。彼が新王として戴冠してからはまだ日が浅いが、王子だった時代からよく見知っている。そして、本人達以外には悟らせはしないが、ふたりは大変に仲が悪い。
「いやいや、これでも巧くやっているんだがね」
煌王の側近すら気付かぬ機微をあっさり見抜いたこの魔術師を、ゾランアルドは気に入っている。以前宮廷魔術師として傍に置いていたのだが、現在ではケテルを離れ、塔で教鞭を執っているらしい。似合わぬものだと思いつつも、偶に呼び寄せてはこうして話をしたりする。
「先王は概ね賢くあらせられたものの愚直なきらいもありました。此度の王は―…厄介そう、ですね」
「ハッ、私と張る程のひねくれ者だ!なおかつ奔放で読み難い」
「あぁ…」
思い至った、という態で魔術師は視線を上げる。ゾランアルドはそれを面白くなさそうに一瞥した。
「飲み込んでおきたまえ」
「ではそのように」
したりと頷き、別の話題へ切り替える。
「公がご所望だった例の件ですが―…」
こうしてガイの冬期休暇は人脈維持の為に消費されていくのだった。
「いいんですよ。公邸に一室用意して頂けていますし。えぇ。学生の世話に追われるよりはゆっくりできます」