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カルテット・サーガ  作者: カトリーヌ
第3章・束の間の平和
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祝勝会の夜(4)

「フローラ、行こう」

「あら、エドリック様。踊りますか?」

「たまには良いだろう。久々だから、上手く踊れないかもしれないけど」

「ふふ、エルヴィスを身籠って以降、舞踏会に呼ばれる時はいつもお腹に子供がいましたからね。私も久々ですから、恥なら二人でかきましょう?」


 エドリックがフローラと結婚したのは、エドリックが十九歳でフローラが十八歳の時だった。当時エミリアは十五歳になったばかりで、多感な年頃だっただろう。

 兄と結婚する事になるフローラの事を、可哀想だと思った。他人の事がなんでもわかる兄は、大の人間嫌いだったからだ。

 口では良い事を言って、平気で噓を吐く人間が世の中には多い。その嘘が纏う負の空気を読み取ってしまうエドリックは、とにかく裏表のある人間を嫌う。当然誰しも多少なりとも裏と表を使い分けるだろうが、エドリックの中で許容できる嘘の範囲は明確だった。

 だがそう言う当の本人も他人の心を覗いたり予知夢を見たり……表には出さない裏の部分はかなり多いはず。結婚も何か裏があっての事だろうと思っていたのだが、やはり裏があったのかとエミリアは今理解した。


 フローラがグランマージ家に来た日の事を、エミリアはよく覚えている。とても美しい女性で、顔だけはいい兄とはお似合いだった。だが、見知らぬ土地に一人送られ、不安そうにしていて……彼女はエドリックとも結婚式の日に初めて会ったのだ、不安そうにしていたのも無理はないだろう。

 フローラの生家であるレフィーン公国は、数代前のレクト国王の子が王家から独立させた王族公爵家を始祖とする大公国である。家系図を辿れば自分たちもどこかでぶつかる、遠い親戚だ。

 新興貴族であるが国王に重用されているグランマージ家は、エクスタード家を除く他の王国貴族達からは嫌われていただろう。だからエドリックは王国内の貴族の娘ではなく、他国の貴族以外に結婚の選択肢はなかったとも言える。

 エドリックに関しては彼の『特殊能力』について尾ひれがついた噂が広まっており、不気味な存在だと言われていた。そんな噂のある男のところに来るのは、やはり怖かっただろうが……二人はじっくりと時間をかけて夫婦になっていった。

 今は三人の子がいる仲睦まじい夫婦で、あの人間嫌いだった兄がフローラの事を『純粋に愛している』なんて言っている事は正直驚きだ。

 エミリアはレオンの腕に、そっと自分の手を添える。レオンがエミリアの方を見て愛しそうに微笑めば、エミリアもレオンの瞳を見て同じように微笑んだ。


「どうした?」

「なんでもないわ。ただ、私にはあなたが居てくれてよかったって思っただけ」

「急に何を言うかと思えば……昔からずっと、君の一番そばに居ただろう?」

「そうね。それが当たり前すぎて、あなたが居てくれることの有難みに気づけなかった私は馬鹿だったわ」


 数分後、一曲目の演奏が終わった。アリアはヴィクトルへ礼をし、エミリア達のところへ戻ってくるが……既に先ほどレオンと挨拶をしたヴェリッツ公爵が息子を連れニコニコとレオンの横に立っていた。

 公爵の三男だと言う彼の顔は、まだ少し幼さが残る。しかし既に成人した十七歳、彼もまた騎士団の一員という事だそうだ。

 結局、アリアは少しばかり休憩を挟みながらも五曲ほど貴族の子息の相手をした。レオンはその間に彼らの父親と話をしたりしていたが、最終的には『妹の結婚についてはまだ何も考えていないし、すぐに考える予定もない』と言うような事を言っていた。

 だが、アリアには今日相手をした貴族の子息たちには後日手紙を書くように、そしてたまには彼らと出かけてみるのも良いだろうなんて事もアレクの目の前で言う。そして極めつけには……


「今回の騒ぎのせいで騎士団にも負傷者が多く、人手不足だ。サムエルにはまたしばらくの間騎士団に出向してほしい。だからアレク、君はその間アリアの護衛をお願いしたい」

「……わかりました」


 もちろんアリアが、どこかの貴族の子息と会うのであれば護衛付き。その護衛として、アレクが着いていく事になるだろう。

 もしも逢瀬のようなその時間で、アリアがどこかの貴族に惹かれるようなことがあればアレクは辛いだろう。だが、レオンは確信している。アリアが貴族の子息に惹かれる事はなく、アレクがアリアの護衛として同行する中で彼らの仲が深まっていくのではないかと……


「それとアレク、私は明日非番を取ることにした。だから明日、私が直々に君に剣の稽古を付けようと思う」

「レオン様が、ですか?」

「そうだ。覚悟しておけ」

「は、はい!」

「レオン、折角の非番なのにアレクに稽古なの?」

「もちろん、稽古で一日を終わらせるつもりはない。エミリア、稽古が終わったら出かけよう」


 エミリアが少し拗ねてみれば、レオンはそう言って笑う。昔と変わっていなければ、レオンがアレクにつける稽古は一瞬で終わるとエミリアはわかっていた。

 エミリアも何度か騎士団の訓練を見学しに行ったことがあるが、レオンは剣の稽古をするわけではない。彼が教えるのは『剣を握る事の覚悟』だと、そう知っている。

 だがアレクは、レオンが直々に手合わせをしてくれると思っているのだろう。そんな生ぬるいものじゃないわと、エミリアは心の中で思って笑った。

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