レオン・エクスタード(2)
……それから、五年。風の噂で、エミリアが冒険者として名を馳せている事は何となく耳に入っている。元気でいてくれればそれでいいと、いつもそう思っていた。
「レオン?」
「エミリア!?」
ある非番の前夜だった。食事を済ませ店を出ようとした時に、偶然懐かしい顔に出会う。十七歳で別れ、それから五年。面影はあるが、かつての記憶よりもずっと美しくなっていた。
エミリアが文も寄こさずにレクトに戻ってくるとは思っていなかったが、一体どうしたと言うのだろうか。彼女の方も、まさかこんな偶然出会うとは思っていなかったのだろう。ただただ唖然としているように見える。
そして、エミリアは彼女よりも少し年下に見える青年を連れていたのだが……胸がざわざわとする。まさか、恋人だろうかと。もしもそうなら、一応親に紹介するためにレクトに戻ってきたのだろうかと……
レオンは平静を装うのに必死だった。今すぐにでもその男は誰だと、問い詰めたい。自分がその彼よりも更に年下の少女を連れていた事など忘れてしまったくらいには……。きっと、レオン同様エミリアも彼女の事を夫人だと思った事だろう。
「……戻っていたのか?」
「今日、戻ったの……たまたまよ」
「そうか。家には行ったのか?」
「明日にでも行って、謝ろうと思っているわ」
「そうか……きょ、今日はどこの宿に泊まるんだ?」
「噴水通りの角にある『ラフィアン』に」
「あそこか。……話したい事が、山ほどある。君はこれから食事だろう? 宿で待ってる」
「わ、わかったわ」
お互いに、どこかぎこちなく。少なくとも、五年前までの仲睦まじい二人とはかけ離れていた。
会話はそれで終わって、エミリアは店の中に入っていくが……連れの男は、いったい誰なのか何なのか気になって仕方がない。その連れの男はすれ違いざま、レオンに軽く会釈をしてエミリアの後を追った。
「レオン様のお知り合いですか?」
「あ、あぁ……。前に話した事があったと思うが、彼女がかつての婚約者だ」
「まぁ、あの方が。あんなにお美しい方、私、初めてお会いしました」
「そうだな……彼女は、綺麗になったな」
元々可愛らしい娘だったが、いつまでも少女ではないという事なのだろう。だからこそモヤモヤとする。この五年の間に、何があったのか。一緒にいた彼は、恋人なのか違うのか……
待っていたのは自分だけだと言うのは理解していたつもりだ。彼女は外に出て自由に生きているのだから、恋人くらい出来たって何の不思議もない。それもわかっているのに。
だが美しくなったエミリアを見て、こみ上げてくるのはどうしようもない愛しさ。もし一緒にいた青年が恋人だとするのなら、それを認めてやれるほど心は広くないようだ。
「アリア、教会まで送ろう」
「ありがとうございます」
レオンは連れの少女を教会まで送ったのち、エミリアが今日の宿に選んだ宿『ラフィアン』へ向かう。レオンの方が先に宿に着いたようで、しばらく店先で待たせてもらった。
どれくらい待っていたかは定かではないが……エミリアがあの青年と共に戻ってくる。折角の食事がきっと美味しく食べられなかったのだろう、深刻な表情だった。