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カルテット・サーガ  作者: カトリーヌ
第2章・怪物か、神の遣いか
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エドリック・グランマージ(4)

 エルフの里についたアレク達は、長老の元へと案内される。エドリック曰く、エルフの長老ともなると年齢は優に千才は超えてくるらしい。千年も前であれば、まだレクト王国が誕生すらしていない。気の遠くなるような時だと、アレクは思った。

 流石に長命の種族と言えど、年を取れば相応の老いはあるらしい。案内された先にいた男性……長老は、人間で言えば七十歳代くらいの高齢者のように見えた。

 エドリックが一礼したのを見て、アレクも同じように一礼する。そうして、エドリックと長老が何か話しているのをただ聞いている……言葉がわからないから、全くもって何を言っているのかがわからないが、アレクが聞く話でもないのだろうしエドリックが通訳をしてくれるわけでもなかった。

 二人はどれくらい話していただろうか。アレクは退屈していたが、外に出る訳にもいかずただ二人が話しているその姿を見ていたものの……唐突にエドリックが立ち上がって、アレクの方を見る。


「アレク君、行くよ」

「え? は、はい」


 アレクも立ち上がって、部屋を出るエドリックを追う。先ほどの女性、イリーナが先導してくれてどこかへ向かうようだ。


「何を話していたんですか?」

「祖父の死を伝えたよ。長老は悲しんでくれた。祖父がここに居たのは四~五十年かそれくらい前の話だけど、エルフにとってそれくらいの時は私たちにとっては数年くらいの感覚だ。懐かしんで色々思い出話を聞かせてくれたよ」

「……そうですか。それで、この後はどこへ?」

「魔力の大樹を見せてもらおうと思う」


 魔力の大樹……グランマージ家の庭に生えているのは、この森にある大樹の枝を植樹したものだとエミリアは言っていた。近くで見たわけではないが、グランマージ家のものはまだ小ぶりな木だ。植樹して五十年近く経っているとは思えないほどの……

 少し歩いていると、集落に住むエルフ達が皆珍しそうにこちらを見てくるので、アレクは少し居心地が悪い。エドリックは彼らの視線には何も動じていないようで、堂々としている。


「長老から面白い話を聞いた」

「面白い話、ですか?」

「なぜ私や父が、紋章を刻まずに魔法が使えるのか……その話だね」

「お、お父上もなんですか?」

「あれ、言ってなかったかな。そうだよ、父も魔法を使うのに紋章はいらない。ついでに言うと、祖父もだね。だからエミリアは、自分だけ紋章が必要な事に劣等感を抱いてるんだろう」

「そうだったんですか……」

「あぁ。これには、エルフ達と祖父との間に『密約』があったみたいだ。祖父は、自分がエルフ達から魔力を授かる代わりに、この森を人間が破壊するのを守るとエルフに誓った。そして、その役割を自分の子孫たちに継ぐため……自分の子孫、男系男子の子に紋章が不要となるよう仕組んだ」

「そんな事ができるんですか」

「知らなかったけど、そうみたいだね。これもある意味では『呪い』か。魔法と呪いは紙一重だから。私にも息子が二人いるが、上の子は確かに、紋章がなくとも簡単な魔法ならもう扱える」


 エドリックの子……は、レオンとエミリアの結婚式の時に見ている。確か、上の子は六歳か七歳くらいだった。下の子はようやく一人で歩けるようになったくらいで、一歳かそれくらいだろう。その間に三歳くらいの子もいたが、その子は女の子だから今回の話には関係はない。


「男系男子だけって事は……先日、レオン様とエミリアさんの子は男の子だって俺に言っていましたよね。その生まれてくる子には、その『呪い』は及ばないって事ですか」

「そうなるね。自分の子孫を例外なく……としなかったのは、おじい様の良心かな。いや、子孫が増え続ければこの稀少性が薄れるからか。おじい様は商人だからな、稀少性は何よりも話題と金になると踏んだんだろう」


 エドリックはそう納得し笑いながら、イリーナの後を追った。少し坂道を登って、その先に……とても大きな大木があるのをアレクも確認する。何か祀られているような飾りが付けられているのを見るに、その大木が魔力の源となる木なのだろう。

 ここまで案内してくれたイリーナに、エドリックが恐らく礼を言った。そして更に二言三言交わした後、その大樹に近づく。

 魔力と言うものがよくわからないアレクにすら、大樹から溢れる魔力を感じた。それほどまでにすごい力が出ている。小さな光が……微かにではあるが大樹から発せられては、ふわふわと空へ飛んでいくのも見えた。

 神秘的な光景だったが、その言葉で片付けてしまうのは勿体なく思う。


「すごい、この光は溢れた魔力が形になっているのか。我が家の庭にある木では、こうはならないな。あの木はまだまだ若い」

「こんな大木、樹齢はどれくらいになるんでしょうか」


 アレクが両手を広げても、何十人もいなければ一周できないくらいの太い幹。下から見上げても、木の先が見えない。高さがどのくらいになるのかも、全く想像ができない程だ。

 同じ疑問を持ったのか、エドリックがイリーナに尋ねている。


「樹齢は五千年くらいになるそうだ」

「五千年!」

「この木は先代の魔力の木の枝を、うちのと同じように植樹したものらしい。魔力の木は、そうやって次の世代へ繋いでいるんだそうだ。そろそろ次の木を植える頃だそうだよ」

「じゃあ、単にこの木が根付いてからは五千年くらいだけど……その元となった木はそれよりも何千年も生きて、更にその前にも同じように何千年も生きてきたって事ですよね」

「そうだね。植物の生命力には驚かされるよ」

「……もしもこの木が死んでしまって、次の魔力の木がないとどうなるんですか」

「魔術師は魔法を扱えなくなるだろう。私たちの身体に備わっている魔力も、全てはこの木から絶えず溢れ出る魔力が源だ」

「……絶対に、守らないといけないですね」

「そうだな。祖父がエルフ達と約束したように、私たちも、この森をしっかりと守らねば……」


 神木とも言えそうな木にエドリックが触れると、その触れたところが強く光った。魔力の大樹から溢れる魔力と、エドリック自身の魔力が反応しているのだろう。

 神々しいと、アレクは思った。エミリアから『怪物』だと聞かされていたが、エドリックは『怪物』ではなく『神の遣い』なのではないかと……

 少し前に、アリアに神話の事を教えてもらった。ヴァレシア教が今日神として祀っている十二の神々は、元々ウルフエンド大陸に存在した人間以外の十二の種族から一名ずつが選ばれているらしい。

 既に絶滅した種族も含まれているが、エルフから神と成ったのは魔法を司る神・ガリレード。その彼が、エドリックをこの世に遣わせたのではないかと……


「神の遣いだなんて、それはさすがに恐れ多いよ」

「はっ……! 心の中を読まないでください!」

「読んだわけじゃない、勝手に入ってきてしまうんだから仕方がないだろう?」

「……もしかして、エドリック様のその力も……?」

「そうかもしれないね。魔力が尽きない事や、人の事が色々と分かってしまう事、予知夢を見る事、一度見聞きしたものを忘れない事、他にも……色々と詰め込みすぎだけどね。私だって、できる事なら『ただの人』に生まれたかったさ」


 言いながらエドリックは笑う。大樹から手を離せば、光る魔力の残像がすっと消えていった。


「なるほど」

「……何か、わかったんですか」

「長老に、レオンの『呪い』を消す方法を尋ねたんだ。そうしたら大樹に聞けと……だから触れてみた。魔力を通してわかったのは、一度刻んだ紋章を消す方法はないって事だ」

「それじゃあ、レオン様の『呪い』は……」

「解けない訳じゃないよ、それ自体は簡単だ。違う効力を持つように、紋章の形を書き換えてしまえばいい。だが、本人が同意してくれるかな」

「……同意してくれなかったら、どうなるんですか」

「エミリアなら、説得できるだろう。レオンの『呪い』は、エミリアと対になっている。レオンが同意しないなら、エミリアの方を書き換える」

「エミリアさんにも紋章が?」

「私がレオンに紋章を刻んだその前後で、レオンがエミリアに刻んでいるはずだ。そうでないと、あの紋章は意味を成さない」


 そう言えば、と思い出した。飛竜の棲む谷でレオンがエミリアの額に紋章を刻んだ時の事を。エミリアはレオンがエミリアの身体に紋章を刻むのを『三度目』と言っていた。

 一度目は、エミリアが十歳の時……魔法に『目覚めた』時。そして三度目は、もちろん先日の飛竜の棲む谷……その時。二度目はいつだったのかと言えば、エミリアが家を出る直前の話だったのだろう。

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