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カルテット・サーガ  作者: カトリーヌ
第1章・聖騎士と魔術師
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謹慎と舞踏会(4)

 翌日、アレクがエクスタード家を訪ねてくる。レオンは屋敷の人間に、新しく雇う事になった従者だと説明した。だが、従者と言っても謹慎中のレオンには特にやることはない。

 いや、溜まりに溜まった領地からの書類に目を通す必要はあるが……それはこの一月の謹慎中にゆっくりと消化すれば良いだろう。

 今すぐにやることがあるとすれば、今夜の舞踏会に出席するための衣装を選ぶ事くらいだろうか。


「アレク、エミリアは」

「今朝、グランマージ家の人が宿に訪ねてきて……家に帰ってます。宿も今日で終わりにしました」

「そうか」

「レオン様、エミリアさんに会いに行かなくていいんですか? 謹慎中だから、時間はたっぷりありますし」

「謹慎と言うのは、遊ぶために休むことじゃないぞ。懲罰だ」

「……そうですよね」


 本当は、エミリアに会いたいのはやまやまである。だが昨夜エミリアの気持ちを確認したところで、彼女への想いは断ち切った。いや、愛は彼女の元に置いてきたままだが……腹を括ったと表現する方が正しいのだろう。


「だが、今夜は王宮の舞踏会に招かれている。陛下は私に謹慎を言い渡したが、舞踏会には出ろと言うのだ。それこそ遊びだと言うのに」

「舞踏会……!」


 アレクのような生まれでは、舞踏会なんて縁もないのだろう。はじめて聞くような言葉に、彼は目をキラキラとさせていた。


「いい機会だ、私の従者としてアレクも来ると良い」

「え、俺がですか!」

「あぁ。だから、身だしなみは整えねばな。私と君は背格好が近いしちょうどいい、昔着ていたものがあるはずだからそれを着るといいだろう」

「えぇ、レオン様のお召し物なんて、そんな……!」


 古いものだが、服自体は良いものでる。仕立て屋を呼び若干の調整はしたものの、レオンの服を着せたアレクは中々見栄えも良かった。

 レオンは……自分自身の着るものについてはどうでもよいと思っていたのだが、流石にそう言う訳にもいかず。複数ある服を並べどれがいいかとアレクに尋ねてみれば、アレクはしばらく悩んだ後……五年前に一度袖を通し、それ以来着る機会の無かった礼服を指さす。

 すでに流行からは外れてしまったものではあるが、確かにとても良い物ではあった。


「……これは、我が家にエミリアを迎え入れる……結婚式の日に着ようと思っていたものだ。いや、実際に一度は着たのだが、迎え入れる花嫁が来なかった。逃がしたのは自分だがな」


 自虐気味に笑う。あの時手放していなければ、エミリアは自分の隣に今もいてくれただろうか。こんなにも苦しむ事はなかっただろうか。


「じゃあエミリアさん、これを着たレオン様の姿を見てないんですね。今日、エミリアさんは舞踏会には来ないんですか? 来るなら、見れるんじゃ」

「エミリアは来ない」

「……そうですか」


 そういえば、エミリアにサークレットを贈る約束をした。紋章を額に刻んでしまったから、それを隠すためのものが必要だ。結婚が決まってから、元婚約者に装飾品を贈るなんて事をするのは結婚相手に失礼だろう。

 なので今日中に贈らなくてはいけない……。今夜レオンがどこの令嬢も選ばなければ、国王はレオンに自分の娘を嫁がせるとそう宣言するのだ。

 レオンはすぐにサークレットを持ってきてほしいと宝石商を呼んで、並べられたものを吟味する。エミリアに似合いそうで、かつ紋章が隠れるもの……宝石商は物をたくさん持ってきてくれたが、良さそうなものは一つしかなかった。


「アレク、私の従者として初仕事だ。グランマージ家へ行って、エミリアに渡してきてくれ」

「えっ、レオン様は一緒に行かないんですか」

「先ほども言ったが、遊びではないのだ」

「でも、エミリアさんもレオン様から直接もらった方が嬉しいんじゃ……」

「どうしても、今すぐに渡しておきたいんだ」


 アレクはその言葉を聞いて、何かピンときたらしく威勢よく「わかりました!」と。だが彼はまだ街の事がわかっておらず道に迷うのが心配なので、執事の一人と共にグランマージ家へ向かわせた。

 先ほど、今夜の舞踏会にエミリアは来ないと言ったが……レオンがこのサークレットを贈ることで、エミリアが舞踏会に現れることを期待でもしているのかもしれない。そんな都合よく来るものかと、レオンは思うのだが。

 だが、もしも……もしも、だ。エミリアが舞踏会に現れるのなら、きっとこれ以上嬉しい事はないと……期待してはいけないとわかりながらも少しだけ、ほんの少しだけ希望を持ちたいと願う自分がいるのもまた事実だった。

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