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カルテット・サーガ  作者: カトリーヌ
第1章・聖騎士と魔術師
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アリア・ティルスト(1)

「アリア、彼はエミリアの連れでアレクだ。私はエミリアと共にグランマージ家へ出向くのだが、その間彼に王都を案内してやってくれないだろうか」


 懇意にしてもらっているレオンの頼みを、アリアは断るわけがなかった。昨夜、レオンと食事に行った店を出ようとした時偶然にも再会したレオンと、彼の婚約者であるエミリア……その彼女の連れだと言うアレクの事も、アリアは昨夜見ていたので顔は憶えている。


「わかりました、レオン様。私でよければ」

「よろしく、シスター」

「はい。アレク様、よろしくお願いいたします」

「様なんてやめてくれよ……。俺は二人みたいに、高貴な身分じゃないから……」


 アレクと言う青年は眉を下げながら、そう言う。伯爵令嬢であるエミリアの連れと言うからには、てっきり貴族なのかと思ったがそうではなかったらしい。よく見れば、確かに外套の裾などはボロボロだった。

 かと言って、大切な客人である。自分が何か粗相をすればレオンの立場にも関わると思うと気を引き締めなくてはいけないと、アリアは心の中で思った。


「では、アレクさん。すみませんが、少しあちらにかけてお待ちいただいても良いですか? 少し雑務があるので」

「あぁ、わかった。突然押し掛けたのに、悪いね」

「いいえ、ほかならぬレオン様の頼みです! レオン様にはいつもお世話になっていますので、こういう時にしっかり御恩をお返ししなければ!」


 張り切るアリアを見てレオンが笑う。一体何が可笑しいと言うのか、アリアは頬を膨らませた。

 行ってくると、レオンはエミリアと共に去る。アレクには少しばかり待ってもらって、アリアは教会の雑務を片付けるために一度教会の奥へと引っ込んだ。


 ……アリアは生まれた時からこの教会で育った。父はいない。教会の神父がアリアの父代わりで、シスターたちが母であり姉であった。教会には孤児も多いが、アリアには生母がいたので孤児ではない。母からは、父はアリアが生まれる前に亡くなったと聞いている。

 十三歳の時にレオンの父……聖騎士であり時のエクスタード家の当主であったベイジャー・エクスタード公爵が魔物との闘いに散ってしまう。国王の側近であり、騎士団長を務めていたエクスタード公の葬儀は、国を挙げての壮大なものとなった。

 国葬は王宮内の大聖堂で、多くの国民が弔問に訪れ国外からの来賓もあるだろう。大聖堂にいる聖職者達だけでは彼らのもてなしができず、城下の教会からも多くの聖職者たちが集められた。

 十三歳だったアリアは本来招かれる立場ではないが、あまりに人手が足りなく……まだ幼かったアリアも葬儀の手伝いを行うことになり……葬儀の前夜の事だ。

 葬儀の準備はほぼ終わり、アリアは最後に遺体が安置してある祭壇の花の水を取り替えるよう言われ大聖堂に向かったのだが……


 そこで見たのは、棺の前で立ち尽くす一人の男だった。ベイジャー卿が亡くなったことにより、エクスタード公と王宮騎士団の団長の立場を継ぐことになったレオンである。

 直接姿を見るのはその日が初めてだったが、レオンの事はアリアも知っていた。城下の女の子たちは、皆彼に理想の男性を重ねているようでよく噂を聞く。

 公爵家の跡取りで聖騎士と言う地位だけなく、整った顔立ちとサラサラの金髪に透き通るような青い瞳……加えて、数年前に婚約者が突如蒸発したが、それでも別の女性と結婚する訳でもなく婚約者の帰りを待ち続けているらしいと言うその一途さに、少女たちは憧れているのだ。

 アリア自身はレオンの事は名前しか知らなかったが、それでも彼が『あの』有名な聖騎士様なのかという事は一目でわかる。城下町の女の子たちが彼に黄色い声援を浴びせる理由も、彼の姿を見て理解した。


「シスター、何か用か」

「あっ……いえ、私は……その、お花のお水を……」

「そうか。……ありがとう」


 そそくさと、花瓶に近寄る。花瓶もたくさんあるので何度か往復しなくてはいけないだろうが、レオンはいつまでここにいるのだろうか。なんだか気まずいのと同時に、レオンの整った容姿は今まで出会ったどんな男の人よりも格好良くてドキドキとしてしまった。

 きっと顔が赤い。こんな赤い顔を見られるのは恥ずかしいと、アリアはレオンの視界にはなるべく入らないように動くが……アリアが花瓶に手をかけた時、その隣の花瓶にレオンが触れた。


「一人でこの量は大変だろう。私も手伝おう」

「あ……い、いえ! これは、その……私じゃ神父様たちのお手伝いもあまりできない事も多くて、だから私が……」

「二人でやった方が早く終わるだろう?」

「で、ですが……」

「……父を失った事が、なんだか嘘のようなんだ。まだ気持ちの整理がつかず、手持ち無沙汰でな……早く終わる分、私の話に付き合ってくれないか」

「は、はい……」


 まさかレオンが、こんな雑用を手伝うと言うなんて思ってもいない。本来ならばレオンに雑用なんてさせてはいけないのだろうが、アリアは押し切られてしまう。

 花瓶を持って何度か礼拝堂と井戸を往復し、花瓶の水の交換を終える。そうしてアリアは約束通り、レオンの話を聞くことにした。

 並べられた椅子に、隣同士で腰かける。……レオン・エクスタードと言えばこの王都で名を知らない人はいないような人物。

 次期騎士団長であり次期エクスタード公爵であり……地位も名誉も約束された上に、何と言っても目を引く端正な顔立ち。特に女子にとっては、『白馬に乗った王子様』のような憧れのような存在である。騎士団が城を出て魔物討伐の遠征に行く時など、沿道からは黄色い声援が飛ぶほどの人気だ。

 そんな人と並んで何を話せばよいのか、アリアは緊張で固まっていた。

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