9 マンドラゴラの収穫体験です
今日は見学に行った畑で、特別にマンドラゴラの収穫をお手伝いさせてもらいました。
汚れてもいいエプロンドレスに長靴、頭には麦わら帽子です。
「マンドラゴラはセリ科ニンジン亜種に分類され、別名『叫び人参』ともいいますね。こちらは種まきから四ヶ月ほどたったもので、今が旬を迎えておりますんですね」
馬頭と牛頭の農家さんふたりが丁寧に教えてくださいました。お仕事で鍛えられているのか、おふたりとも体が大きいです。
「いいかね、まず茎の根元を持つんだね。んで引っ張る。マンドラゴラっつうのは抜く時に声を出すもんだから、驚かないで次々に抜いていってほしいんだね」
作業自体は簡単ですが、実際にやってみると本当におどろきました。マンドラゴラを抜くと声が出るのです。
『わー!』
『ふぅー!』
『いいよー!』
抜くたびにいろんな声が聞こえてきて、とても楽しかったです。思ったよりも細長いオレンジ色の根っこ。パピリスとフロスもがんばっていて、同じようなマンドラゴラの声が聞こえてきました。
しかし……
農家さんのおふたり、牛頭のゴズネさんと馬頭のメズネさんがマンドラゴラを抜くときは何かが違うのです。
『ナイスカット!』
『いい血管でてるよ!』
『パンかと思ったら大胸筋かい!』
わたしたちが抜く時よりも明瞭な叫び声は確かにそう言っていました。心なしか声も弾んでいて嬉しそう。しかも彼らが抜いたマンドラゴラはとても太くて、わたしのスネくらいはあります。
様子を見守っていらした神官長もムズムズされていて、終わり頃にはマンドラゴラを数本抜いていました。
『泣く子も黙る上腕二頭筋!』
『僧帽筋が並じゃないよ!』
『よっ、プロポーションおばけ!』
とても立派なマンドラゴラが採れて、ゴズネさんとメズネさんは神官長の健闘をたたえていました。
夕食にはマンドラゴラのポタージュやマリネが出てきました。きっとわたしが収穫したもの入っているはずです。食事は魔王さまもご一緒だったので、今日あったことをお話してみました。
「魔王さまもマンドラゴラを抜いたことがありますか?」
「ああ、昔やったことがある」
「なんと言われたのですか?」
わたしの質問に、魔王さまは少し言いにくそうにして教えてくださいました。
「……彫刻みたいな体だよ、と」
少し頬を赤らめた魔王さまがとても可愛らしくて、思わず見入ってしまいました。このような表情もされるのですね。
今日もまたひとつ、楽しい思い出が増えました。