8 魔王さまにも弱点が?
魔王さまとの日記は、わたしが夜に書いて次の日の朝にお返事を確認するというのがお決まりになりそうです。
挨拶をかわすのが精一杯ですが、昨夜はピクニックが楽しかったむねを書いてみました。そしたら今朝。
『姫がよければまた行こう。次は馬に乗ってみようか』
見た瞬間、思わず息をこぼしてしまいました。とても嬉しくて言葉にならなかったのです。
魔王さまへ送る一文をもう少し長く書いてみようか、でもなにを書けば……。空いた時間にはそんなことばかりを考えてしまいました。
わたしにお勉強を教えてくださるディトリ神官長は、褐色の肌に大きな体をもつおじいさまです。前のお城にいた騎士団長よりもたくましい筋肉をお持ちですが、白いおひげがフサフサしていてとてもかわいらしいです。
神官長が教えてくださるのはこの国の地理や歴史、人々の暮らしなど。
やはり大昔はこの国でも各種族同士の争いがあったそうです。そして争いをいさめ、まとめられたのが二十代前の魔王さま。いつの時代も問題は起こるけれど、それをひとつずつ解決していって今にいたるそうです。
わたしの国では今でも内戦や領土争いがあちこちで起こっているようでしたから、早くこのように穏やかな暮らしができることを祈らずにはいられません。
神官長のお話は大変興味深いです。
人間のこともよくわかっていないわたしですが、各種族の特性や暮らしぶりを聞くと、世界の広さを思い知らされます。
神官長はオーガという種族で、体が太くたくましく、男女ともに昔は力で序列が決まっていたそうです。特にチカラ仕事が得意で、建築や土木作業の現場に重宝される種族だそうです。
側近のイゴルさまは、ああ見えて150歳の大ベテラン。吸血鬼という種族で、日の光で肌が荒れるので日中は日焼け止めが欠かせないとか。種族的に長命で、とても頭がよいらしいです。わたしもそのような印象を持っています。
カルダ料理長はリッチという魔法に特化した悪魔族で、とにかく魔法のことならなんでもござれ。顔色が悪いのも特徴のひとつとのことです。体調不良ではないかと少し気を揉んでいたので安心することができました。
「そして我らが魔王は魔神という種族でして、特に数が少ない貴重な存在であります。吸血鬼の長命と知能、オーガの強さ、リッチ並みの魔力。すべてを備えた魔族の頂点といって過言ありません」
改めて聞くと魔王さまはすごいお方です。
そんな方のお城に身を寄せているのか今でも不思議ですね。
「そんな偉大なる魔王レクスさまですが、無敵というわけではありません。我々魔族の間では有名な話なのですが、弱点がひとつだけあるのです」
神官長はいたずらっぽくほほ笑みました。
「つねにお嫁さま不足なんですよ。魔神族はえり好みが激しいのか、なかなかその相手に巡り合うことができません」
なんということでしょう。
魔王さまにそんな事情があっただなんて。「これ以上は野暮ですな」と神官長は話題を変えられたのですが、わたしは少し考えてしまいました。
魔王さまの運命の人。
いったいどんな方なのでしょうか。