7 ピクニックです
今日はお天気がよいのでピクニックをすることになりました。
外出用のワンピースは動きやすいのに品があって、とてもかわいらしいです。靴は編み上げのブーツで、柔らかい革のおかげで歩いていても疲れることはありませんでした。
転ぶといけないからと魔王さまに手を引かれ、さくさくと音を立てながら原っぱを歩きました。あのように誰かと手をつなぐのは初めてです。とても恥ずかしかったのですが周りの皆さまはにこやかにされていますし、わたしだけが意識していたのかもしれません。
パピリスとフロスが腕に下げているバスケットには軽食とおやつが入っています。料理長が作るものはどれも美味しいのですが、外で食べると格別です。
お城を見渡せる丘の頂上で敷布を広げると、わたしたちは腰をおろしてひと息つきました。
魔王さまが「疲れてないか」と聞いてくださって、わたしは「大丈夫です」と強がりました。
体は確かに疲れているのですが、それがとても気持ちよかったのです。当てはまる言葉が見つかりませんが、充足感というのでしょうか。少し汗ばんだ肌に吹き抜ける風は気持ちよく、草や花の匂いが疲れを溶かしてくれるようでした。
頂いた昼食はスライスしたパンにいろんな具材を挟んであるもので、塩気のあるハムやチーズがとてもおいしかったです。
「こちらもどうぞ」とフロスがくれたのは冷たいレモネード。口にふくむとトロりとした舌触りで、甘酸っぱい味とレモンの風味がさわやかです。おかわりもしてしまいました。
疲れた足先を伸ばし、清涼な空気をあびるうちに眠気がおそってきます。
「少し眠るといい」
魔王さまの優しい声に誘われ、わたしはそこから少し眠ってしまいました。疲れて寝てしまうなんて子どものようですけれど、その時はあらがうことなんてできません。
しばらくあと。頭を撫でられる感触が気持ちよく、それで目が覚めました。かたわらには魔王さまがいらっしゃって、どこか遠くを見つめています。
わたしの頭を撫でていたのは魔王さまでした。目を覚ましたことに気付くと「起きたか」とほほ笑みをくださいます。
あのときの満ちたりた気持ち。
安心感と言えばいいのでしょうか。
うまく表現できません。
わたしの中には、まだまだ知らない気持ちや感情があるようです。
それに景色も、風習も、文化も、世界には見たこと触れたことがものがたくさんあります。動物たちの営み、季節の移ろい、星の輝き。なんて素晴らしいのでしょう。なんて尊いのでしょう。
わたしの閉じた小さな世界は、魔王さまに出会って開かれたのです。