6 城下町へ行きました
魔王さまとの日記に書く一文を考えています。
変な文章は書けませんし、今までにもまして気合いが入る日々です。
今日は城下町の見学へいきました。
活気のある街並みに、通りすがる人々の笑顔がとてもまぶしいです。この国の方たちはいろんな種族がお互いを尊重して暮らしている気がします。得意不得意の役割分担が進んでいる一方で、種族的に不得意だとしてもそれを跳ねのけて頑張ってらっしゃる方もいます。
そういう方の目線は新たな気付きもあるらしく、皆さまが一丸となってがんばるお姿に胸が熱くなりました。
「人間のお姫さま?」
三角のケモノ耳をつけた少年が話しかけてくれました。お母さまのスカートを握っている姿が可愛らしいです。
「お姫さま、魔王さまのお嫁さんになるの?」
「いいえ、違いますよ」
魔王さまがいらっしゃなくてよかったです。
そんな大それたこと、ありえません。
とても素敵な方ですもの。
相応しい女性が望ましいのではないでしょうか。
一緒にいた側近のイゴルさまが少年に耳打ちしました。いったいどうしたのでしょう。少年はイゴルさまにうなずくと、ふたたび笑顔を向けてくれます。
「魔王さまがプロポーズしたら、お嫁さんになる? 魔王さまのこと、好き?」
イゴルさまがよくやったと言わんばかりに少年の頭を撫でました。わたしはあのときなんと答えたでしょう。恥ずかしくなってもしょもしょと口を動かしたのは覚えていますけれど。
その後の少年の言葉はよく覚えています。
「じゃあオレが大きくなったらお嫁さんにもらってあげる!」
「まあ、うれしい」
わたしが結婚というのも想像つきませんが、あんなふうに言ってくださると嬉しいですね。
城下町の散策はとても楽しいものでした。
次があればお買いものをしてみたいですが、お金を持っていませんし、難しいですよね。
結局、魔王さまへの日記はまた短くなってしまいました。しかも夜だったので、就寝のあいさつです。なんと返ってくるでしょうか。
楽しみな気持ちを胸に抱いて、今夜はもう休みましょう。