5 新しい日記帳です
魔王さまが新しくコーカン日記帳をくださいました。先日いただいたものもステキでしたが、こちらは特別仕様で、なんと書いた文章が魔王さまに届くらしいのです! 魔王さまの持つ日記帳と対になっていて、魔王さまからお返事が届くらしく……
前の日記帳はこれまで通り使って構わないと言われたのでひと安心です。実は日々の出来ごとを書き記すこと気に入っています。ただ、魔王さまが小さく「以前のは見ないようにする」とおっしゃったのはよくわかりませんでした。
でもお返事とはどういうものなんでしょうか。
「お元気ですか」と書いたら「はい」と返ってくるとか。そうだったらなんてステキなんでしょう。
しかしなんと書くかでとても迷ってしまいました。日記だったらすらすら動くペン先も、魔王さまへ届くと思うと緊張でぴたりと止まってしまいます。
魔王さまは、普段あったことや感じたことを日記のように書くといいとおっしゃいましたが、さすがにそれはできません。とても恥ずかしいです。
わたしは世間もよく知りませんし、学もありません。お姉さまたちからも出来損ないとよく言われていました。魔王さまはそれを笑ったりはしないかもしれませんが、もし、自分の無知を知られてがっかりされたら……
想像しただけで胸が痛いです。
こういうときに他の人はどうするでしょうか。今までに読んだ本で、主人公たちに似たような場面はなかったでしょうか。
例えば『拝金主義者のパレード』ですと、主人公のロナウドは婚約相手の気を引くために、手紙で他の女性をほのめかしたり、逆に愛の言葉をたっぷりとつづっていました。『春嵐』では、恨みのある人間を呼びつけるべく、手紙で各々の秘密をちらつかせています。
ううん、参考になりませんね。
そもそもお手紙ではなく日記です。
ああ、どう書いたらいいのでしょう。こうしている間にも時間は過ぎていきます。まずは、魔王さま宛の日記を書いてしまいましょう。
……がんばりました。書きました。
緊張して胸のドキドキが止まりません。大したことは書いていない、というか、どうにか書けたのが「こんにちは」だけでした。これ以上は無理です。指先が震えてペンが持てません。
情けないことこの上ないですが、魔王さまはあきれてらっしゃらないかしら。でもお忙しい方だし、あれくらい短い方がご負担にならなくてすみますよね。いえ、でも、あまりに不敬すぎたでしょうか。
はあ、早くドキドキがおさまってほしい。
顔も熱くてたまりません。
どうして魔王さまはわたしに新しい日記をくださったのでしょう。戸惑いばかりが大きくなります。
きました! お返事がきました!
魔王さま宛の日記はお昼頃に書いていたのですが返信はなく、寝る前に覗いてみると、確かにお返事がきていたんです!
「こんにちは、姫」
どうしましょう、とても嬉しいです。
眠たかったはずなのに一気に目が覚めてしまいました。何度も文面を見返してはニヤニヤするわたしがいます。こんな変な姿を見られたらどう思われるでしょうか。ダメですダメです、内緒にしておかないと。
今夜は眠るのに少し時間がかかりそうです。