43 魔王さまと内緒のおでかけ
北の皆さんがお帰りになられて、城にはいつもの風景が戻ってきました。しかし一種のお祭り状態が何日も続いた反動か、今日のお城のなかは一段と静かです。
パピリスとフロスも今日はそろってお休み。
少しさみしくもありますが、彼女たちにもゆっくり休んでほしいです。このところ忙しそうにしていましたから。
それに今日は魔王さまと内緒で出かける約束があるです。城内の人が少なく公務もないタイミングで城を抜け出そうと魔王さまがおっしゃって……なんだか悪いことをしているようでドキドキしてしまいます。
交換日記での短いやりとりで決まったことなので、どこへ行くのか、何をするのかは分かりません。前に城下町をお忍びで歩いた時とはまた状況が違います。けれど、魔王さまと一緒でしたら怖いことは何もないと思います。特別な安心感がありますもの。
さあもうすぐ時間です。
最後にもう一度身だしなみのチェックをしましょう。
追記
先ほど戻ってまいりました。
魔王さまと長い時間ふたりきりというのは初めてではないでしょうか。今でも夢心地で気分がふわふわしています。
魔法で転移されたのだと思いますが、お城を抜け出したわたし達が立っていたのは海辺でした。話には聞いていて絵も見たことがありましたけれど、はじめて見る海はとても広く美しいものでした。どこまでも続く青い水平線。足元の白い砂浜。さざなみの音。潮の匂い。感動でしばらく声が出ませんでした。
手を引かれるまま浜辺を歩き、短い草が生い茂る丘へとつきます。ここは眺めがよく、海辺を見渡すことができました。少し風はありましたが天気もよくて気持ちがよかったです。
「勇者のやつが姫といろいろ行ったのが羨ましかった」
魔王さまは苦笑しながらそうおっしゃいました。
持ってきたバスケットケースには軽食が入っていて、敷き物を広げた上に腰をおろすと魔王さまとふたりでいただきます。
「もう少し身軽な立場であればこのようにコソコソせずにいいのだが……すまない」
魔王さまが謝ることは何もありません。むしろ、時間のない中でこうやって外へ連れていってくださることに感謝しかありません。
その事をわたしのつたない言葉で一生懸命に伝えましたが、どうでしょうか。日記に書くとそれなりにまとまっているのに、いざしゃべろうとすると上手くいかないのです。
その後は浜辺で貝をひろったり、青色のカニや手のひらサイズの海鳥とたわむれたりしました。魔王さまと素敵な時間を過ごすことができて嬉しかったです。
確かに勇者さんに連れられて見た景色は刺激的で目新しいものばかりでした。でも魔王さまが隣にいらっしゃるだけで、わたしには何もかもが特別に思えます。
そうです、交換日記で改めてお礼を書きましょう。
魔王さまと一緒で本当に楽しかったんですもの。それに今度はわたしが考えたいです。わたしに出来ることなんてほとんどないですけど、魔王さまに楽しんでもらえるような何かができたら……




