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とらわれお姫さまのゆるふわ日記  作者: 猫の玉三郎


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41 ヒョード謹製ラブラブアーチ

 ヒョードはすご腕の庭師さんです。園芸の道を極めるべくやんごとない身分を捨てたと耳にしたことがあります。たしかに、作業用の前かけや手袋をしていなければ寡黙な老紳士に見える気がします。


 少し昔のことですが、お姉さまたちにいじわるをされて庭の隅で泣いていた時、城に勤める庭師のおじいさんに優しくしてもらいました。服が濡れていれば乾くまで火に当たらせてもらったり、空腹の時はパンをわけてもらったり。ケガをしていた時は手当てもしてくれたし、わたしには忘れられない人です。


 だからでしょうか。魔王さまのお城に来てからも、庭師の存在はわたしの中でとても大きなものでした。


 普段のヒョードは職人という言葉がぴったりの方です。そんな彼が手がけるお庭は季節の美しい花がいつも元気に咲き誇っています。


 けれど今はフユ将軍がいらっしゃるので中庭は雪景色。いくらヒョードであっても、この雪の中で花を咲けせることはできないだろうと思っていたのですが、今日は驚くべき知らせをもらいました。


 なんと、北の寒い地方で咲く花を長年研究していた成果が出たので夕方頃に見に来てほしいとのことです。しかもできれば魔王さまも一緒にと。


 魔王さまにお伝えしてもらうと後から合流してくださるとのことでした。なのでこれから行ってまいります。とても楽しみです。



 追記


 聞いてください、ヒョードが作ったラブラブアーチ、すごかった……! 自分の表現力に限界を感じるのですが、それ以外で表しようがありません。本当にすごいのです。


 名前はラブラブアーチ。

 北の地で咲くスノーローズという名の小さなバラ科の花に改良を重ね、ついに納得の出来になったそうです。原種のスノーローズは生きものが放つ魔力を感知して白い花を咲かせるのですが、ヒョードはその感度を調整しさらには花びらをうっすらと発光させることに成功したのです。


「姫、あちらを」


 中庭につき、ヒョードに言われたとおり視線を送ると、そこにはパピリスと北の獣人さんがいらっしゃいました。パピリスに想いを寄せる方ですね。ふたりの背後にはハートの形に造られたアーチがあり、白いツル系の植物がはわせてあります。


 ヒョードが親指をぐっと突き立てたポーズを獣人の方へ送ると、彼は緊張した面持ちでこくりとうなずきました。すると……


「パピリスさん、好きです!」


 愛の告白をすると同時に、アーチの植物がぽんぽんぽんといっせいに花を咲かせたのです。花びらが薄く発光していて、それぞれがほんのり色づいています。まるで夢のような光景でした。


「名付けてラブラブアーチ。ある一定の魔力波だけに反応し花を咲かせる特別なスノーローズです。つまり、想いの強さが花を咲かせる」


 きっかけはヒョードがセレンファニと出会い、ファンクラブを結成しようとした時に誰がいちばん大きな愛を持っているか議論になったことでした。想いを可視化できれば、という思いつきから研究をはじめたそうです。


 ヒョードと話していると魔王さまがいらっしゃいました。穏やかに笑みを浮かべる魔王さま。思わず胸がとくんと跳ねました。


「姫、こちらへ」とエスコートされるがままアーチの前へと移動します。


 その後のことは……

 ……

 ……


 今は恥ずかしくてとても書けそうにないです。

 幻想的な光景が、今でもまぶたの裏に焼き付いています。

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