28 張り合う魔王さまもステキです
ゴールドハーピー運送の方が荷物を届けてくれました。わたし宛ての荷物だそうで、勇者さんは受けとったあとわたしとユニちゃんを外へ出してくれました。
「魔王からだとよ」
そのひと言にわたしの胸は高鳴ります。
焦る気持ちをなんとかなだめながら包みを開けると、魔王さま直筆のお手紙と箱がありました。
手紙には、イスカダル砦で会おうと書いてありました。勇者さんが向かっている場所です。魔王さまはそこで待っていらっしゃるそうです。
そして、もしわたしが勇者さんと一緒に国へ帰るのなら、それが顔を見る最後の機会になるだろうとも書いてありました。
わたしはこの時の気持ちを……うまく言葉にできません。
わたしが行かなければ勇者さんは妹さんたちと会えません。そうすると魔王さまとは二度と会えなくなっしまうのでしょうか。
「わたしが国へ戻らないと、勇者さんは困りますよね」
答えは分かりきっているのに聞いてしまいました。だって勇者さんはそのために危険をかえりみず魔王さまのお城へ忍び込んだのですから。けれど、勇者さんの答えは予想と少し違っていました。
「それなんだがなあ。なんというか……ああほら、魔王からなんかもらったんだろ。開けてみろよ」
答えをかわされたと感じつつも、わたしは勇者さんの言う通りに魔王さまから届いた木箱を開けました。ふたをとると冷んやりとした空気が指先にあたります。魔法でしょうか。
中にあったのはメッセージカードとひと口サイズのチョコレートでした。それも、可愛らしいユニコーンの形をしています。
『可愛らしいアメに張り合ってみたがどうだろうか。気に入ってくれるとうれしい』
他にも宝石の形やハートの形もありました。食べるのがもったいなくて長いことながめていると、ユニちゃんが甘えるようにきゅっと鳴きました。おいしいものだと匂いでわかるのですね。
「ユニちゃんはどれが好きですか?」
「きゅわっ」
ユニちゃんが選んだのはハートのチョコです。赤いハートの形で、表面はつるりとした光沢があります。
手にとって「どうぞ」とユニちゃんにあげても、ユニちゃんは首をふって食べようとしません。不思議に思っていると、ユニちゃんはハートのチョコをわたしに食べてと言います。いえ、ユニちゃんがそう言ったわけではないのですが、そう感じられたのです。
「わたしに選んでくれたのですか?」
「きゅっ」
わたしはハートのチョコを受け取り、その代わりにクローバーの形をしたチョコをユニちゃんへ差し出しました。
わたしのいた国では四つ葉のクローバーは幸せの象徴。これから大きくなるユニちゃんに、抱えきれないほどの幸せが訪れますように。そんな思いを込めながら、わたしとユニちゃんはお互いに選んだチョコを口へ運びました。
甘くて、しあわせで、自然と笑顔になっていました。魔王さま、素敵な贈りものをありがとうございます。
魔王さまと出会えたこと、ユニちゃんと出会えたこと、パピリスやフロスやお城の皆さんと出会えたことが、わたしにとってはなによりの幸せです。
予定通りにいけば明日はイスカダル砦へ着くそうです。
不安や期待が入り混じり、胸のどきどきが止まりません。




