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とらわれお姫さまのゆるふわ日記  作者: 猫の玉三郎


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24 よく似たおふたり

 ユニちゃんのことを相談しようと、隙を見計らって勇者さんに話しかけてみました。ユニちゃんを親元に返してあげたいと伝えると、勇者さんはわたしとユニちゃんをクリスタルの外へと出したのです。


 そこは街道から少し横にそれた木陰でした。

 勇者さんは地図を取り出すとばさりと広げ、現在地を教えてくれました。


「魔王の城はここ。今いるのはここ。そんでオレが向かってるのがここ」


 勇者さんの指先を追って地図を見ます。やはり、これから南下してわたしのいた国へ戻るようです。


「ちびのユニコーンを巻き込んだのはオレも心が痛む。この先へ進めば進むほど住んでたとこから離れるしな。しかしここでユニコーンを解放しても親元へ戻るのは難しいんじゃないか」

「それは……」


 ユニちゃんをちらりと見ると、蝶を見つけたようで追いかけて遊んでいました。


「姫さんだってこいつがいた方が助かるんじゃねえの。孤独はつらいぜ」


 痛いところを突かれた気がして、少しの間口を開けずにいました。するとぽんぽんとわたしの頭を撫でる勇者さん。まるで幼い子どもを相手するようです。妹さんと重ねてらっしゃるのかもしれません。


 そうこうしていると、突然背中から話しかけられました。


「もし、そこのお方」


 勇者さんと一緒に振り向くと、そこにはパピリスとフロスに似た雰囲気の婦人がいました。ストールで顔まわりをぐるりと覆い、目元には黒い日除けメガネをしています。


「わたくしども、通りすがりのぜんぜん怪しくない者ですわ。そちらの可愛らしいお嬢さま。なにかお困りごとはございませんか」


 その方たちはとても優しくて親切でした。まるであのふたりのようです。


「そこのむさい男に変なことはされておりませんか。おつらいことがあったら、わたくし共と一緒に参りませんか」


 懐かしく思っていると、勇者さん横でが「おい!」と声を荒げました。わたしがいないと人質となった妹さんたちと会えないのです。怒るのも無理はないのかもしれません。


 わたしはよい機会だと思い、ユニちゃんのことを相談してみました。


「実はこの子、母親と離ればなれになってしまったのです。どうにか会わせてあげたいのですけれど、魔王さまのお城へ行く予定などないでしょうか」


 もし婦人方がよろしければ一緒にユニちゃんを連れて行ってもらえないかと思ったのです。しかし、その返事は驚くべきものでした。


「それなら大丈夫ですわ。ほら」


 フロスに似た婦人が視線を向けた方向には、なんとユニちゃんの母親がいたのです。いったいいつのまに。


 ユニちゃんはとっても嬉しそうに母親のそばへ行き、ぴょんぴょん跳ねていました。母ユニコーンも愛おしそうにユニちゃんを見つめています。その様子を見て、わたしは心の底から安堵しました。


 一方で、パピリスに似た婦人は勇者さんへ詰め寄っていました。


「あなた、少し移動のペースを落としてくださらない。あちらのお嬢さまにゆっくり観光させてあげませんと」


 思ってもみないことを言われたのか、勇者さんはぽかんとしています。それから何か言い合いのようなことをされていたのですが、あまり聞き取ることができませんでした。ちょうどその時、フロス似の婦人がわたしへ大きな紙袋をくださったのです。


「これはこの辺りの名物『小鬼焼き』ですの。外はかりかり、中はふっくら。季節限定の鬼レモン味も入っていますから、どうぞ後で召し上がってくださいね。こちらには冷えたお茶をいれてあります。あとこれは……」


 初対面なのにどうしてこんなによくしてくださるのでしょう。それを聞くと、フロス似の婦人はふんわりと笑って「内緒です」といたずらっぽく言いました。なんだかそれがとても可愛らしくて、わたしもつられて笑ってしまいました。


 じゃら、という音が聞こえたので振り返ると、パピリス似の婦人が革袋を勇者さんへ渡そうとしていました。


「旅費の足しになさい」

「はあ?」


 婦人は勇者さんへ無理やり手渡すと表情を変えました。今までもクールな雰囲気だったのですが、水から氷へと変化したような冷たさと硬質さです。


「さる尊いお方から伝言です。四日後にイスカダル砦で待つ、と」


 その言葉に勇者さんが目を見開きました。さらに、固まっている勇者さんへパピリス似の婦人が耳打ちをすると、目に見えて勇者さんの顔色が悪くなります。


 ふたりの婦人は一礼すると去っていきました。


 ユニコーンの母親もわたしへ頭を擦り寄せると、一緒に行ってしまいます。そこにユニちゃんの姿はありません。


 ユニちゃんはわたしのそばにいました。


「ユニちゃん、お母さまと一緒にいかないと」


 ユニちゃんはきゅわっと鳴いて、わたしの足元をぐるりと周ります。まるでわたしと一緒にいると言ってくれているみたいでした。



 今は外で日記を書いています。ユニちゃんは疲れたようですやすやお昼寝の最中で、勇者さんは木の幹にもたれてぼーっとしています。心ここにあらずのようです。



 よし。

 わたし、これから枯れ枝を集めようと思います。

 勇者さんも疲れているようですし、火を起こしておけば日が暮れても大丈夫でしょう。


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