23 ユニちゃんに連れられて
昨夜、ユニちゃんと一緒に寝床へ横になりました。
少し様子がおかしいように思ったので気にかけていたのですが、不調があるわけではなさそうです。
そしてここからは夢の話です。
気がつくとわたしはユニちゃんと一緒に暗い道を歩いていました。
導くようにユニちゃんは数歩先を歩き、ときどき振り返ってわたしの姿を確認しています。その得意げな表情がとってもかわいいのです。
少しずつ道が明るくなり、小さな花が敷きつめられた草原へと変わりました。その先には大きな人影があります。
魔王さまです。
魔王さまが草原の真ん中でぽつんと立っておられるのです。
わたしとユニちゃんに気づくと、魔王さまは驚きに目を丸めてしまわれました。そしてふっと表情を崩し、笑顔を見せてくださいます。
「姫がこのような所へ来てしまうとは……もしや結界の抜け穴を見つけたか。しかし、タイミングが少々意地悪いのではないか?」
魔王さまはそう言いつつも柔かい表情でユニちゃんの頭をなで、そしてわたしを軽々と抱き上げてしまいました。もう子どもではありませんのに魔王さまは力持ちですね。ユニちゃんは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねて踊っています。
「せっかくの機会だ。姫はシンプルな装いが好みのようだが、こんなものはどうだ」
ぱちんと指をならすと魔王さまの腕の中にいたにも関わらず、ぽんと音を立ててドレスが変わりました。さっきまで着ていたものよりもふわふわして飾りが多いです。
腕から下ろしてもらうと、すぐそばにとても大きな鏡がありました。自分が着ているドレスがよくわかります。パールのような優しい色あいの生地がたっぷりと使われ、ひとめ見て感嘆の息がもれました。
「とってもすてき……」
お城の舞踏会でもこんな美しいドレスはお目にかかれません。
「ふむ。やはりかわいらしい」
見るとユニちゃんは同じモチーフで作られたベストにタイを着けてました。それがとっても似合っていて、本当にかわいいんです。
「姫に特別なドレスを作ろうかと話していたときがあってな。これはその時の案のひとつだ」
魔王さまがもう一度指をならしました。
すると今度は空色のスリムなドレスに変わりました。胸元が開いているのですが、全体的にすっきりとしたデザインなのでいやみもありません。
ユニちゃんもおそろいの空色ベストに大きなリボンを着けていました。
「気に入ったものがあるなら作らせよう。遠慮せずに言ってほしい」
紺色の大人っぽいシックなドレス。見ただけで元気になれるレモンイエローのサマードレス。黒を基調としたフリルたっぷりのゴシックワンピース。ふわふわモコモコなうさぎの着ぐるみ。異国情緒ただよう深紅のドレスは体にぴたりとそわせる龍人風。
ぽんぽんと魔法のように変わっていく装いに、わたしはただただ目を輝かせました。どれも本当にすてきなのです。
「全部作ってしまおうか」
いたずらっぽく笑う魔王さま。そんなことを言われると心臓に悪いです。こんな高価なものを次から次へ作ってしまっては……
そう思っていると魔王さまはわたしのほほにそっと手をそえました。
「そんな顔をせずともいい。……それとも、ドレスを全て作ってしまえば姫は私のもとにいてくれるだろうか」
そんな甘い毒のようなお言葉をわたしにささやくのです。わたしは胸がどきどきして何もいえませんでした。
魔王さまはわたしの右手を取ると、その甲に唇を落とされました。
「意地が悪いことを許してほしい。これでもだいぶ抑えているが……私のなかに飛び込んできたのは姫だ。己のテリトリーでは加減が狂う」
あまりのことに頭がくらくらしていると魔王さまの姿がかすんできました。うしろへ引っ張られる感覚に夢の終わりを感じます。
ユニちゃんのきゅわっという鳴き声とともに視界は闇に包まれました。
普段みる夢とはちがい、記憶に強く残っています。
先日魔王さまと夢で出会ったときもそうでした。なので夢を通して本当にお会いできたと思うのですが……やはりわたしが見た都合のよい夢ではないかとも思う時もあります。
答え合わせをできる日があるでしょうか。
なんだか怖いような楽しみなような、そんな心持ちです。




