22 市場はすごいです
紅蓮地獄を抜けると、背後に火山が見える大きな町に着きました。行き交う魔族の方に怪しまれないように勇者さんはフードで深く顔を隠し、ものすごい勢いで町を通り過ぎていきます。
わたしはその流れる景色に見入っていました。
道の両脇に人がいてたくさんのものが並んでいます。これはきっと市場です。魔王さまと行った城下町とはまた違った雰囲気で驚きました。
あの袋に入っているのは何?
おじさんが食べているパンみたいなものは?
さっき逃げ出したスープの具は?
色鮮やかなフルーツが台に並んでいて、店主がその場でジュースにしてくれています。その中に鬼レモンを見つけてなんだか嬉しくなりました。
湯気を上げる箱にならんだ野菜やたまご。軒に下げられたたくさんの腸詰め肉。人の背丈ほどはある大きな魚は吊るされ、かたわらにはスープを売るおじいさん。謎の火柱をあげるお兄さんもいました。
反対側にはランプやナイフ、大小さまざまなガラス瓶が並んでいてとてもキレイです。山のように積まれた布や、木の皿や、いろんな形をした木彫りの像。こんなふうに売られているなんて初めて知りました。
黄色の小鳥は高らかに歌い、赤い鳥は口から火を吹き、青い大きな鳥は羽を広げた瞬間にふっと姿を消しました。
「ナイフ研ぎ〼」の看板をかかげているのはドワーフの鍛冶屋さんでしょうか。少し奥をのぞくと、ウロコ磨きを受けているリザードマンや、欠けたツノの補修を受けるオーガもいました。
周辺では小さな子どもたちが遊んでいます。
少し離れたところでおしゃべりに興じているのはきっとそにお母さまたちです。
その近くで「換毛期の方大歓迎」と書いてある看板を見つけたのですが、いったい何を歓迎されているんでしょう。市場は不思議なことがいっぱいです。
わたしは興奮で胸がずっとドキドキしていました。人々の営みというのはこうも情熱的でエネルギーに満ちているのですね。
城の中で育ちましたから、このような町の暮らしは見ていて新鮮です。もしわたしが町娘として生まれていたらどういう人生になったでしょう。
ぽんぽんと浮かぶ想像に思わず笑ってしまいます。
ユニちゃんは今日も楽しそうですが、たまにぼーっとしているような感じがします。やはりお母さまと会えないのはつらいですよね。
勇者さんは話をすればわかってくれる方のような気がしますので、ユニちゃんだけでも外に出してあげられないか交渉してみようと思います。




