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とらわれお姫さまのゆるふわ日記  作者: 猫の玉三郎


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21/51

21 気をとり直して紅蓮地獄です

 魔王さまは、いろんなことを見て聞いて、見識を広げてほしいとおっしゃいました。


 そしてわたしは、ユニちゃんをお母さんに会わせるまで守ると心に決めています。


 つまり、ユニちゃんを守りつつ勇者さんの横でいろいろ見ていたらよいのではないでしょうか。おそらくわたしのいた国に入るにはまだ時間がかかるでしょうから、今しばらくはこの状況を見守ろうと思います。



 さて、セイレーンたちとの激闘を終え、つかの間の休息をとった勇者さんが次にたどり着いたのは『紅蓮地獄』と呼ばれる場所でした。わたしも書物でしか知らないので真偽は定かではないですが、赤い石がころがる地面とあちこちに立ち上る蒸気の白いもやがそのように確信させます。


 勇者さんは「なんかくさい」とボヤいていましたが、おそらくそれはウワサに聞く硫黄の匂いでしょう。さすがにクリスタルの中からではわからないので残念です。


 紅蓮地獄はその名にふさわしい景色でした。

 草木もなく砂と石ころが広がる大地はこの世の終わりを想像させます。きっとここに生息する植物や生き物は限られているでしょう。


 そしてそこに集うワケありの人々。


 勇者さんが道とおぼしき場所を歩いていると、遠くにいくつもの人影が見えてきました。それはこちらをジッと見つめていて動こうとはしません。複数人いるようで、背丈はばらばらです。


 しかし勇者さんは構わず歩みを進めて、その人影のほうへどんどん進んでいきました。歩くたびにじゃりっと小石の擦れる音が聞こえます。


 しだいに見えてきた人影はみな一様に背すじが曲がり、顔には深いしわが刻まれておりました。杖をついている方もいます。


 そうです。ご老人です。


 ここはご老人方に人気の湯治場なのです。


 通りかかった若者を逃すまいと、ご老人方が待ち構えていたのです。


「屋根が壊れて雨漏りしとるんじゃ」

「あれを持ち上げたいが腰が痛うてかなわん」

「ごめんなあ、針に糸がとおらんくてなあ」

「おれの孫に似とるわ」

「おめーの孫はウロコ生えとるやろが」

「これ蒸したてでうめえど。それ食ったらおめさんも風呂入ってけ」


 勇者さんは頼まれてイヤと言えず、むしろ「この際なんかあるなら全部言え!」と少々やけっぱち気味におじいさんやおばあさんたちの困りごとに応対されていました。


 そのお姿は救世主そのものです。


 外をひとしきり覗いてひと息ついていると、わたしの視界が一瞬揺れました。


 次の瞬間、むわっとした生温かい空気が肌を包みます。そして今まで嗅いだことのない不思議な匂いが鼻を刺激します。


「お姫さんってのは三日風呂に入らないと死んじまう生き物なんだろ? 気がつかんで悪かったな」


 なんと勇者さんはわたしを外に出してくれたのです。


 湯治場のおばあさんたちが温泉へ案内してくださり、お湯からあがるとおまんじゅうやジュースをたくさん頂いてしまいました。


 困って勇者さんを見ると「ありがたくもらっておけ」とのこと。それでも少し気が引けたので、わたしもおばあさんたちに何か困っていることはないか聞いてみました。勇者さんのようにはできませんが、ささいなことでも助けになればと思ったのです。


 おばあさんたちにコツを教わりながらやるお掃除や野菜の皮むきは楽しかったです。魔王さまのお城ではそういう機会はなかったですもの。


 一緒に外へ出たユニちゃんは、おじいさんたちから「チビ」「ぽち」「タマ」と思い思いに呼ばれ、遊んでもらっていました。楽しそうなユニちゃんを見ると、わたしもつい嬉しくなります。


 そしてすっかり油断していたところで、わたしとユニちゃんは再びクリスタルの中。さすが勇者さんは抜け目がありません。


 温泉は気持ちよかったですし、紅蓮地獄はとてもいいところでした。


 もしかしたらまた外に出る機会があるかもしれませんね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者さんが苦労人だった! 良い奴!! 紅蓮地獄が思いのほか、ほっこり。ユニコーンの愛称にそれはないだろう、爺さんたちよ。笑えてしまう。 勇者さん、しっかり抜け目ない。良い人なので、どうか…
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